2016年12月05日 11:32 弁護士ドットコム
宅配大手「佐川急便」の運転手が、駐車違反を免れるために身代わりを出頭させたとして、社員6人が犯人隠避教唆などの罪で逮捕された。
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報道によると、逮捕されたのは、佐川急便・東京営業所の係長ら6人で、東京・中央区の路上で男性社員が勤務中にトラックを運転して駐車違反をした際、元社員や委託先の社員らを警察署に出頭させ、反則金を支払わせるなどした疑いが持たれている。
係長の男性が、運転手から違反の報告を受けると「身代わりという手がある」などと提案していた。出頭した人には、駐車違反をした運転手から2万~2万5000円の報酬が支払われていたという。
この営業所では、ほかにも複数回身代わり出頭が行われていた可能性があり、組織的に常態化していたことが指摘されている。駐車違反をした際、身代わりを立てることや、身代わりという手段を提案することは法的にどんな問題があるのか。永芳明弁護士に聞いた。
「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者や、拘禁中に逃走した者を隠避した者を処罰するのが犯人隠避罪です(刑法103条)。3年以下の懲役または30円以下の罰金に処せられます。
2016の6月23日に改正法が施行されました(それより前の事件は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処せられます)。捜査、公判、刑の執行等の刑事司法作用を妨害しようとする者を処罰しようという趣旨です」
永芳弁護士はこのように述べる。隠避というと、逃走中の犯人をかくまうといったイメージがあるが、交通違反の「身代わり」も隠避になるのか。
「『隠避』とは、蔵匿(隠れ場所を提供する)以外の方法により、官憲(捜査機関)の発見・逮捕を免れさせるべき一切の行為をいいます。
具体的には、逃走資金を与えたり、変装用具を与える行為などがこれに当たります。犯人の身代わりを立てることは、『蔵匿以外の方法により官憲の発見・逮捕を免れさせる行為』に当たるので、犯人隠避罪になります」今回のケースでは、身代わりを提案した人物も逮捕されている。
「犯人隠避罪の『教唆』ですね。教唆とは、人をそそのかして、犯意を生じさせ犯罪を実行させることです(刑法61条1項)。『正犯の刑を科す』ということになっていますので、理論上は、正犯(実際に犯罪を実行した人)と同じ法定刑の範囲で処罰される可能性があります。
犯人とされている人が自分で逃げ隠れすることは犯人隠避罪では処罰されません。ですが、犯人とされている人が他人をそそのかして、身代わりを立てることは、犯人隠避教唆として処罰されます
一方で、犯人とされる人以外で、身代わりを提案した人も、身代わりになった人をそそのかしたことになるので、犯人隠避教唆罪になります。
ちなみに、今回の事件では、係長が元社員を通じて元社員の弟を身代わりとして出頭させたケースもあったようです。ややこしいですが、こうした『教唆者を教唆した者』も教唆犯とされていますので、係長、元社員それぞれ教唆犯になります(刑法61条2項・間接教唆といいます)」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
永芳 明(ながよし・あきら)弁護士
滋賀弁護士会副会長、日本弁護士連合会・刑事弁護センター委員
事務所名:滋賀第一法律事務所
事務所URL:http://www.shigadaiichi.com/