トップへ

ラムチョップが4年ぶり新作で切り開いた新境地 USインディー・シーン注目の5枚

2016年12月04日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

ラムチョップ『Flotus』

 今月はUSインディー・シーンのなかから、新人からベテランまで5枚の新作を紹介。


(参考:レナード・コーエン、ニック・ケイヴ、あがた森魚……強烈な個性発するベテラン勢の新作5選


 まずは、ナッシュビルを拠点に活動するベテラン・バンド、ラムチョップ。4年ぶりの新作『Flotus』は、これまでのオルタナ・カントリー的な路線から、ゆるやかに変化して新境地を切り開いている。彼らにしては珍しく、電子音やリズムボックスを導入。さらにボーカルにエフェクトをかけるなど、R&B/ヒップホップの要素を独自に昇華。ソウルフルなグルーヴを際立たせる一方で、従来の深みのあるメロウな歌の世界はそのまま。メロディーも音色もまろやかで、ただただ心地良いサウンドは、ロキシー・ミュージック『アヴァロン』の芳醇さを思い出させたりも。そんななか、エレクトロニックなビートで浮遊する18分を越えるナンバー「The Hustle」は、ラムチョップ版クラウトロック的な趣もあって面白い。


 ポートランドの音楽シーンで注目を集めたシンガー・ソングライター、ローラ・ギブソンがNYに引っ越したのは2014年のこと。到着早々、足を骨折し、翌年ガス爆発で住んでいたアパートが全焼。書き溜めていた歌詞や楽譜をすべて失ってしまった。そんな災難続きのなかでレコーディングされたのが『エンパイア・ビルダー』だ。様々なトラブルを乗り越えて作り上げた本作は、パワフルなドラムが鳴り響き、アルバム全体にピンと張りつめた緊張感と凛々しさを感じさせる。ピーター・ブロデリック、デイヴ・デッパー(デス・キャブ・フォー・キューティー)、ネイト・クエリー(ザ・ディセンバリスツ)など旧友達がゲストに参加。アメリカーナなサウンドをベースにしながら音作りやアレンジは表情豊かで、彼女が弾くチェロの音色も重要なアクセントになっている。そして何より、そこから紡ぎ出される美しいメロディーと、脆さとしなやかさを併せ持ったニュアンス豊かな歌声が魅力的だ。


 ザ・レモン・ツイッグスはNYロングアイランド出身の兄弟によるユニット。兄ブライアン・ダダリオが19歳。弟のマイケルは17歳という若さながら、音楽一家に生まれ育った2人は、子供の頃から楽器に親しんで一緒に音楽を作っていた。そんな彼らの才能に目をつけたのが、イギリスの名門インディー・レーベル、<4AD>だった。そしてリリースされた彼らのファースト・アルバム『ドゥ・ハリウッド』は、プロデュースをフォクシジェンのジョナサン・ラドーが担当。ストリングスやホーンを含めてほとんどの楽器を兄弟だけで演奏した本作は、ソフト・ロック、グラム、プログレなど、60~70年代サウンドを織り交ぜたカラフルな音作り。ブライアンのシアトリカルなボーカルもハマっていて、まるでカーニバルのように賑やかで毒々しいポップさに満ちているあたりは、レーベル・メイトのアリエル・ピンクに通じるところも。


 兄弟バンドといえば、個人的に大好きだったのがディーン・ウィーンとジーン・ウィーンの兄弟バンドとして90年代を中心に活躍したウィーン。しかし、本当は2人は赤の他人で、ウィーンは2012年にいったん解散したものの2016年に再結成を果たした。そんななか、ディーンが新たに結成したのがディーン・ウィーン・グループだ。ディーンはウィーンと並行してモイスト・ボーイズというハードコア・パンク・バンドをやっていたが、ディーン・ウィーン・グループのファースト・アルバム『The Deaner Album』もディーンのハードコア魂が燃え上がるヘヴィなサウンドで、ディーンは熱くねっとりとギターを弾きシャウトする。ウィーン的ともいえるシニカルなポップ・センスも見え隠れしていて、ヴォーカルにエフェクトをかけたファンキーなナンバー「Mercedes Benz」は、ウィーンの新作の布石かも、と密かに期待。


 2013年に再始動した西海岸のバンド、マジー・スター。そのボーカルのホープ・サンドヴァルが、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのドラマー、コルム・オコーサクと結成したユニット、ホープ・サンドヴァル&ザ・ウォーム・インヴェンションズが、約7年ぶりの新作『アンティル・ザ・ハンター』を発表した。繊細に音を重ねてトロトロと煮込んだような音響は、シューゲイザー的な浮遊感を漂わせていて、余白を効果的に使った音作りも見事。サンドヴァルの歌声は甘く、気怠く、耳元に囁きかけてきて、サウンドに溶け込みながら妖しく艶やかな香気を放つ。そんななか、「Let Me Get There」では、シンガー・ソングライターのカート・ヴァイルとデュエットを披露。サンドヴァルの歌声にじわじわと引き込まれていいくうちに、師走の忙しさを忘れる鎮静剤のようなアルバムだ。


(村尾泰郎)