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高畑充希、「とと姉ちゃん」から「キャバ嬢」へ イメージに捉われない演技の強さ

2016年12月03日 16:41  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

 連続テレビ小説『とと姉ちゃん』でヒロイン常子を演じ、知名度を上げた高畑充希。朝ドラでは、小橋家の長女として亡き父の代わりに家族を支え、起業家としても成功したしっかりものの女性を演じたが、最新作『アズミ・ハルコは行方不明』では一転、今が楽しければいいと、元同級生とノリで一夜を過ごすなど、刹那的に生きるキャバクラ嬢・愛菜に扮している。劇中の高畑のビジュアル等が公開されたとき、「とと姉ちゃん」とのギャップや「新しい一面」というフレーズで話題になったが、そもそも高畑のイメージとはどんなものなのだろうか……という疑問が頭に浮かんだ。


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 幼少期からの夢だったという舞台女優としてキャリアをスタートさせた高畑。6年間に渡りミュージカル『ピーターパン』で主演を務めると、『奇跡の人』では憧れだったというヘレン・ケラー役に抜擢。その後も、確かな演技力と歌唱力で、ミュージカルや舞台で存在感を示した。一方で、前述した『とと姉ちゃん』をはじめ、『軍師官兵衛』や『問題のあるレストラン』などのドラマ、『女子ーズ』や『アオハライド』、『バンクーバーの朝日』といった映画にも出演した。映像の世界でも、高畑充希という女優のポテンシャルの高さが知れ渡ることになる。


 これまで出演作は枚挙にいとまがないが、高畑にはタイプキャストのイメージがない。もちろん長年演じた「ピーターパン」での、明るく元気ではつらつとした印象はあるのだが、連続テレビ小説『ごちそうさん』で演じた希子役は、少女期の陰鬱とした印象から、徐々に闊達になっていく精神的な成長過程を見事に演じ、視聴者に『新しい一面』という印象を与えた。


 また『女子ーズ』では、とにかく貧乏で究極にドライ、冷めた表情でツッコミまくる“イエロー”を好演。このあたりのコメディセンスは「痛いと私はブチャクなる」の「バファリンルナi」のCMに通ずるところがあるのだが、次回作となった『アオハライド』では、好きな相手の気を引くために嫌なことでもしてしまうウエットな女子高生を演じるなど違う顔をみせた。また『アオハライド』の翌週公開となった『バンクーバーの朝日』では、主人公レジー笠原(妻夫木聡)の妹役として、男臭い物語のなか、感動的な野球ファンへの愛唱歌『Take Me Out to the Ball Game』を披露し、強い印象を与えた。


 撮影順は定かではないが、『女子ーズ』⇒『アオハライド』⇒『バンクーバーの朝日』と同年公開の映画で、これだけ印象の違う役を演じると、どれが彼女のイメージなのかわからなくなる。実際『とと姉ちゃん』のヒロインを務めることが発表されたときも「家族を守るためにひた向きで実直な主人公が、果たして高畑に合っているのだろうか?」という意見を目にすることがあった。今回『アズミ・ハルコは行方不明』でキャバクラ嬢を演じることが発表されたときも「イメージと違う」という声を耳にした。


 つまり、どんな役をやっても「なんとなくイメージと違う」という印象を持つということは、それだけ固定化されたイメージがない=どんな色にでも染まれるということなのだろう。高畑自身も「朝ドラの直後がアズミ・ハルコというのは、なんて素敵なタイミングなんだろう。ニヤッとしていただければ」と楽しんでいる様子だ。


 『アズミ・ハルコは行方不明』で高畑が演じる愛菜は、今が楽しければいいというキャバクラ嬢だが、その実は非常に真面目で、刹那的な生き方に憧れているという痛々しさが透けて見える。派手であり地味であり、バカ騒ぎしつつ、心の中は真面目……自分自身でもどうしたらいいかわからない、先が見えないという思いを抱えながら生きている。場面場面でそういった感情がさらっとこぼれ出てくる演技は「さすが」と唸らざるを得ない。


 ミュージカル、ドラマ、映画、歌……さまざまな形で表現を続けている高畑充希。次の作品ではどんな姿をみせてくれるのか……そんな期待を自然としてしまう女優だ。(磯部正和)