2016年12月02日 10:42 弁護士ドットコム
専業主婦世帯などの所得税負担を軽くする「配偶者控除」制度の見直しをめぐり、政府が配偶者の年収制限を「150万円以下」に引き上げることなどを盛り込む方針を固めた。2017年度税制改正大綱に方針を盛り込み、年明けの通常国会に法律改正案を提出する予定。
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政府の方針では、配偶者の年収の制限は、現在の「103万円以下」から「150万円以下」に引き上げる。その一方で、世帯主の年収が1120万円を超えると控除額を段階的に減らし、1220万円で対象外とする。
配偶者控除をめぐっては、専業主婦世帯を念頭においており、夫婦の働き方が多様化した現代にそぐわないといった批判があった。そのため、制度を廃止して、夫婦であれば働き方に関係なく適用する「夫婦控除」の導入が検討されていたが、結局導入は見送られた。
年収の上限を引き上げて女性の就労を後押ししたいという狙いもあるようだが、今回の案はどう評価できるのか。三宅伸税理士に聞いた。
「配偶者控除とは妻(または夫)の年収が103万円以下の場合、夫(または妻)の所得から38万円の控除が受けられる制度です。
配偶者控除は、最低限の生活を保障することを目的に、扶養控除のひとつとして1961年に導入されましたが、それから半世紀がすぎ、社会環境も大きく変化しました。
共働きの世帯が多くなり、配偶者控除は『103万円の壁』と言われ、女性の就業意欲を下げ、また専業主婦への過度な優遇であると批判されています。
このような不公平感をなくすため配偶者控除廃止論が持ち上がっていました」
三宅税理士はこのように述べる。見直し案が実現されれば、不公平感は是正されるのか。
「今回の見直しは、配偶者控除の年収要件を103万円以下から150万円以下にするというのもで、配偶者控除の要件が逆に緩和されています。
パートで働く主婦の就業調整という課題の解決という点では全く効果がないわけではありません。また、1120万円以上は段階的に控除額を減らし、1220万円以上は対象外になるとのことです。こうした所得制限をかけることで高所得者から低所得者への所得再分配効果はあるでしょう」
「ただ、『103万円の壁』が『150万円の壁』になっただけでは、女性の就業促進や専業主婦の過度な優遇の根本的な解決にはならないと思います。
『103万円の壁』は、税制の配偶者控除だけではありません。民間企業が支給する「配偶者手当」の年収条件も、『103万円以下』である場合が多いです。
配偶者控除の基準を見直されたとしても、こうした会社独自の配偶者手当の廃止や基準見直しがされなければ、女性の就業意欲の引き上げ効果は限定的にとどまるのではないかと思います。
この他にも、年金や健康保険の社会保険料の支払いが義務付けられる『130万円の壁』も存在しています。
就業形態による不公平感を減らすためにも、配偶者控除は撤廃して、家族控除等の新設や、所得再分配効果が期待できる税額控除にするなども一案ではないでしょうか」
【取材協力税理士】
三宅 伸(みやけ・しん)税理士
大阪府立大学経済学部卒業後大手リース会社勤務。仕事、育児、勉強を両立しながら大阪の税理士法人に勤務。平成26年11月堂島で三宅伸税理士事務所を開業。設立当初からクラウド会計の導入をすすめている。常にお客様の立場に立って考えお客様と共に成長していくことをモットーに起業支援、介護事業支援、相続等を軸に幅広く活動している。
事務所名 : 三宅伸税理士事務所
事務所URL: http://miyake-tax.jp/index.html
(弁護士ドットコムニュース)