2016年12月02日 10:32 弁護士ドットコム
男子高校生を車ではねて死亡させた男性会社員が、示談交渉で遺族にけがをさせたとして、傷害の疑いで書類送検された。
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報道などによると、この会社員(47)は2015年2月、滋賀県米原市の横断歩道を渡っていた男子高校生を車ではねて死なせた。会社員は過失運転致死の罪で起訴され、今年2月に禁錮3年、執行猶予3年の有罪判決を受けている。
しかし、会社員は今年5月にあった示談交渉で、遺族側と口論になり、男子高校生の母と高校生になる弟に体当たりして姿を消したという。弟は肩や腕に約3週間のけがをした。母親のフェイスブックによると死亡事故後、一度も謝罪らしい謝罪はなかったという。
今後もし、この事件で起訴された場合、執行猶予中の会社員にはどのような処罰がくだるのだろうか。片田真志弁護士に聞いた。
この後、起訴され有罪判決になれば、執行猶予は取り消されるのか。
「もともと執行猶予というのは『無罪放免』ではなく、期間中に次の犯罪を行わないことを条件に、刑の執行を猶予するものです。その条件を破って、別の犯罪をした場合は執行猶予が取り消されて、実際に服役することになります。
ただし、執行猶予中の犯罪のすべてが、執行猶予の取り消しに至るわけではないので注意が必要です」
どういうことだろうか。
「執行猶予の取消手続が行われるためには、(1)猶予中に行った新たな犯罪について「禁錮」以上の刑が言い渡され、(2)その刑について執行猶予が付けられず、(3)しかも、その判決が執行猶予期間中に確定した、という条件を全て満たすことが必要です。
本件では書類送検されただけなので、現段階ですぐに執行猶予が取り消されることはありません。今後、検察が起訴し、裁判所で実刑判決が言い渡され、猶予中にその判決が確定してはじめて、前の執行猶予が取り消されることになります。
ただし、罰金刑となった場合でも、裁判所の裁量で前の執行猶予が取り消されることはあります」
有罪となった場合、執行猶予中の犯行ということで、通常より刑は重くなるのだろうか。
「実刑になりやすいという意味ではそのとおりです。その点では、本件が事実であれば、執行猶予が取り消される可能性は高いでしょう。ただし、刑期の点では別の考慮がされることがあります。
というのも、執行猶予が取り消されると、前の件と合わせて2件分まとめて服役することになります。執行猶予中に再び罪を犯したことが原因なので、正に自業自得です。しかし、1回の服役が長くなりすぎるという考慮から、新たな事件の量刑の際に、逆に刑を軽くする事情として考慮されることが実務上は見られます。
とはいえ、今回の傷害事件の内容が報道のとおりであるとすると、本来は深く謝罪すべき遺族に対し、逆に暴力を振るったということですので、経緯や動機の悪質性という観点から重い刑を科すべき事情として考慮されることは当然でしょう」
現在遺族は、大津地検に対し、男性を起訴するよう求めて署名活動を行なっている。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
片田 真志(かただ・まさし)弁護士
弁護士法人古川・片田総合法律事務所 代表。2014年弁護士登録。大阪弁護士会所属。
2004年大阪地裁にて裁判官に任官。2014年に退官して弁護士登録。元・刑事裁判官の経験を活かし、刑事事件にも力を入れている。
事務所名:弁護士法人 古川・片田総合法律事務所 大阪事務所
事務所URL:http://www.fk-lpc.com/