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『ファンタスティック・ビースト』大ヒットスタート 今後のシリーズの行方は?

2016年11月30日 16:41  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

 巷では「『君の名は。』の『もののけ姫』超え」「『この世界の片隅に』の3週目にして奇跡の6位へのランクアップ」(今後もさらに順位を上げる可能性が高い)などが大きな話題となっているが、なにはともあれこの作品について触れないわけにはいかない。


参考:先週末が最後の1位? 『アナ雪』超えは無理? 一足先に『君の名は。』の大記録を検証する


 「ハリー・ポッター」シリーズから生まれた新シリーズ、「ファンタスティック・ビースト」の1作目『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』が特大ヒットである。先週の11月23日(祝日)に公開された同作は、公開4日目と5日目にあたる土日2日間で動員54万6000人、興収8億2300万円を記録。公開から5日間の興収は17億2,432万9,600円、動員は早くも100万人を超えて119万450人。先週末の数字では2位『君の名は。』の約4倍という圧勝ぶりで、今年公開された外国映画としては実写映画ではもちろんのこと、アニメ作品の『ズートピア』や『ファインディング・ドリー』も超えてナンバー1の出足となった。


 もっとも、ここまでは予想の範囲内だ。気になるのは、過去に8つの作品が製作された本家「ハリー・ポッター」シリーズとの比較。日本でシリーズ史上最も高い興収を稼いだのは、15年前の2001年12月に公開された1作目の『ハリー・ポッターと賢者の石』。最終興収は203億、初日と2日目の興収だけで15億7334万円(その当時の歴代ナンバー1初動記録)と、あらゆる意味でケタ違いのヒットであったことがわかる。


 改めて調べてみると、「ハリー・ポッター」の映画シリーズの興収は7作目の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(最終興収68.6億)までずっと右肩下がりだったが、8作目の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(最終興収96.7億)で最終作のご祝儀的に再び急上昇したことがわかる。この現象は、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』が公開された2011年7月の時点でシリーズの熱心なファンは減っていなかったものの、その基盤となっているのはあくまでもJ・K・ローリングによる原作人気で、映画版は「テレビ放送時でもいいや」というライトなファン層が一定の割合でいることを示していると言っていいだろう。


 ちなみに、「ハリー・ポッター」シリーズで最も低い興収に終わった『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』オープニング3日間の成績は、動員が96万1961人、興収が11億7604万7100円。当時の3日間の記録と今回の週末2日間の違い、及び発表されている数字が公開4日目と5日目であること勘案すると、ちょうど公開時期も同じ6年前の同作とほぼ同じ水準の興行で推移していることがわかる。作品の評判も良く、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の最終興収も50億以上が十分に期待できるだろう。


 ただ、J・K・ローリングが自身のTwitterアカウントで明かしたところによると、「ファンタスティック・ビースト」は全部で5部作となることが既に発表済み(TwitterでJ・K・ローリングは、「少なくとも5部作となる」という記事に対して、自ら「少なくともではなく、正確に5部作」と訂正した)。「ハリー・ポッター」シリーズのコアなファンにとっては長く続けば続くほど楽しみは増すのだろうが、ライト・ファン層や新規の観客にとって、「5部作」というのは少々ヘヴィなものとして受け取られるかもしれない。


 超大型シリーズであるという以外、「ファンタスティック・ビースト」とは作品の方向性はまったく違うが、2018年12月に公開が予定されているジェームズ・キャメロンの『アバター2』も、既にそれ以降5部作として続くことが明らかになっている。かつての映画業界では、大ヒットを受けてのシリーズ化、及び前作のヒットを受けての3作目、4作目の製作というのがしきたりで、「スター・ウォーズ」や「ロード・オブ・ザ・リング」のような作品でも3部作が一つのシリーズの節目であったわけだが、「5部作が前提」という近年のシリーズ作品のトレンドが内在するリスクの高さに、ちょっと冷や冷やしてしまうのは筆者だけだろうか?(宇野維正)