ルイス・ハミルトンが逆転でタイトルを獲得するために、最終戦アブダビGPで行ったレース戦術について、いまだにさまざまな議論が繰り広げられている。
しかし、レッドブルのチーム代表であるクリスチャン・ホーナーは「ルイスがあのような戦術を採ることは事前に予想できたし、理解できる」とハミルトンを擁護し、次のように続けた。
「ルイスが逆転でチャンピオンになるためには、単に優勝するだけでなく、チームメートのロズベルグが4位以下でフィニッシュしなければならなかったわけだから、ペースコントロールする必要があった。サッカーでいえば、ディフェンダーがボールを自陣で回すようなもの。それもゲームのひとつさ」
さらに、そのような戦術を採ったハミルトンへの対応を検討しているメルセデスAMGに対して、皮肉を込めてこう批判した。
「トトが自分のチーム内だけでなく、他チームのドライバーも含めて、パドックのあらゆることをコントロールしたがっているのは、いまに始まったことではない。そんなルイスをコントロールしたかったのなら、われわれのチームのドライバーの父親に電話なんかするよりも、直接、自分のドライバーと話せばよかったのにね」
ハミルトンの戦術については、チームメートのニコ・ロズベルグも「想像はしていなかったけれど、理解はできる」と語っている。
では、なぜメルセデスAMGの首脳陣は、頭を悩ませているのか。それは、ハミルトンがとった戦術は、メルセデスAMGのレース哲学に背く行為だったからである。
メルセデスAMGで戦術を担当しているジェームズ・ヴァレスは「メルセデスAMGのレース哲学は、チームとして最大限の結果を出すこと」だと語る。「だから、スタート直後からルイスのペースが思ったよりも上がっていないことを察知した私は、3番手以下のチームにアンダーカットされることを許さないように、トップを走るルイスの1回目のピットインはピットストップウインドウの最初タイミングだった7周目にして、翌周ニコを入れるなど、先手を打つ必要があった」
ヴァレスをはじめ、メルセデスAMGの首脳陣が常にレースで考えていることは、1-2フィニッシュなのである。
ところが、ハミルトンはチームメートを4位以下に落とすために、故意にペースを落として3番手のベッテルと4番手のマックス・フェルスタッペンをロズベルグの背後まで近づけさせた。これは、メルセデスAMGのレース哲学では許されない行為だった。
さらに、今回の問題が深刻になっている理由がある。それはレース終盤に、チームの技術部門トップを務めるパディ・ロウ(エグゼクティブディレクター/テクニカル)からの無線による指示を、ハミルトンは2度も無視していたことだ。ハミルトンは2018年までチームと契約があるが、ロウとの契約は今年いっぱい。しかも契約更新の交渉が長引き、いまだ両者は話し合いの途中だという。
もし、ロウを無視したハミルトンに対して、チームがなんのアクションを起こさなければ、ロウが契約を更新することなく、チームを出て行く可能性が考えられる。
ロズベルグとハミルトンをいかにコントロールするかで悩み続けたチームは、いまはハミルトンとロウをいかにバランスよく扱うかで悩ませているのである。