2016年11月30日 11:02 弁護士ドットコム
政府・与党が、中小企業の法人税を軽減する特例措置の期限(2016年度末まで)を2年間延長する方針を固めたと11月14日、日経新聞が報じた。現在、資本金1億円以下で、年800万円以下の所得金額の法人に対しては本来19%の税率であるところ、特別措置により、15%の税率となっている。
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一方、気になるのは大企業の税率だ。現状では23.4%で、中小企業よりも高負担だ。しかし、実際の法人税負担率は事実上、政策減税によって、大企業の税負担率のほうが軽いとも指摘されている。実態はどうなっているのか。村井隆紘税理士に聞いた。
大企業の税負担は、実際には大きくないとの指摘は、かねてからあります。一部では、資本金100億円超の大企業の実際の税負担率は中小企業の軽減税率15%を下回っているとの試算結果もありました。
このような指摘の背後にあるのが、税制上の特別な措置です。様々な措置がありますが、中でも、大企業の多くで活用され、影響の大きいものは、「受取配当金の益金不算入」、「租税特別措置による減税」、「欠損金の繰越控除」の3つであると思われます。
これらは大企業、中小企業のいずれにおいても利用することが可能ではあるものの、いくつかの理由から、実際には大企業であるほど、活用しやすい実情があります。
次に、この3つの制度について、詳しく説明をしましょう。
(1)「受取配当金の益金不算入」
「受取配当金の益金不算入」とは、法人が受け取った株式の配当金については税額を低くするという制度です。大企業は子会社や関連会社をはじめ、多くの株式を保有し、その配当金は利益の多くを占めます。大企業の利益は配当金の割合が非常に高いのですが、その配当金に対する税額は低く、これが大企業の実際の税負担は低いと言われる大きな理由です。
(2)「租税特別措置による減税」
「租税特別措置による減税」は、景気を良くするために、政策上の目的を持って立法される様々な減税措置です。たとえば、企業が積極的に研究開発や設備投資を行った場合に減税となるような措置があります。しかし、そもそも投資に多額の資金が必要であったり、適用の要件が厳しかったりといった理由により、大企業が活用しやすい仕組みになっているのではないかとの指摘があります。
(3)「欠損金の繰越控除」
過去の赤字と将来の黒字を通算して減税できるという制度が「欠損金の繰越控除」です。中小企業は、多額の赤字が出た場合にはそもそも事業継続が困難となります。一方で、大企業は多額の赤字にも耐える企業体力があり、この制度の恩恵を受けやすいとされます。
かつて、メガバンクが過去最高益を出しながら、欠損金の繰越控除によって納税を免れたことがありました。現在は、大企業では控除額に一定の制限が設けられておりますが、税負担に対する影響は未だ大きいと言えます。
この3つの制度以外にも、外国税額控除や、輸出免税、タックスヘイブン等による影響も指摘されます。以上のような、諸々の制度の活用により、大企業の税負担率は、名目上の税率よりも実際には低いものとなっているのです。
しかし、だからといって、このような制度が全て、大企業を優遇するためだけの措置とは言い切れません。二重課税の排除や、景気回復、単年課税による不公平の排除といった理由から、上記制度はいずれも必要なものであることも事実だからです。
今回の政策減税にも言えることですが、中小企業、大企業がともに不公平を感じることなく、分かりやすい、公平・中立・簡素な税制であるかどうかが立法上は重要となります。
【取材協力税理士】
村井 隆紘(むらい・たかひろ)税理士/公認会計士/米国公認会計士
監査法人・金融機関勤務を経てクラウド会計を専門とするユアクラウド会計事務所を設立。クラウド会計を活用し、スタートアップ・ベンチャー企業を中心に多くの成長企業の業務効率化、低コスト化を支援している。
事務所名:ユアクラウド会計事務所
事務所URL:http://ur-cloud.jp/
(弁護士ドットコムニュース)