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青春はアンディ・ラウとともにーー台湾メガヒット映画『私の少女時代』のノスタルジー

2016年11月29日 20:51  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2015 Hualien Media Intl. Co., Ltd 、Spring Thunder Entertainment、Huace Pictures, Co., Ltd.、Focus Film Limited

 00年代の半ば頃から台湾映画界は驚異の復活を遂げてきた。『海角七号 君想う、国境の南』(08)、『モンガに散る』(10)、『セデック・バレ』(11)、『あの頃、君を追いかけた』(11)、『KANO 1931海の向こうの甲子園』(14)を始め、現地の大ヒット作が日本公開される頻度も増えた今、その最新版ともいうべきメガヒット作品がついに日本上陸。それが『私の少女時代-OUR TIMES-』である。


参考:台湾は青春映画を作る才能の宝庫だーー『若葉のころ』が描く、二つの時代の恋模様


 台湾では興収4億台湾ドル(約13億円)という数字を叩き出し、15年におけるNO.1の座を獲得。その勢いは国内にとどまらず、中国、香港、韓国でも社会現象と言われるほどの大ヒットを呼び起こしている。その噂は当然ながら日本にも伝わり、いち早く上映された「第11回大阪アジアン映画祭」ではチケット発売開始から5分で完売、さらに「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016」ではたった3分で完売したというから驚きである。


 本作は高校生の男女が思いを寄せ合う青春映画なので、きっとメインとなるターゲットはそれ相応の年代であるに違いない。そうとは思いながら、私のような齢40に達しようとしているオジサンも参加させていただいてよろしいでしょうか…? と、まあ、そんな卑屈な想いを胸に臨んでみたところ、ここに「少女時代」として描かれているのが思いのほか90年代だったので驚いた。私の青春時代とドンピシャじゃないですか。


 そこで、これがデビュー作となった女性監督フランキー・チェンのプロフィールを紐解いてみて納得。なるほど、彼女も私とさほど年齢が変わらない。昨今の台湾映画の大ヒット作にはこうやって「時代を超えて歴史を振り返る」あるいは「ノスタルジーを呼び覚ます」といった趣向のものが多いように感じるが、本作もまたこうしてターゲットを限定せず、時代を貫くように青春時代を俯瞰する視座を持っている。


■あの頃、アンディ・ラウと共にあった青春時代


 このように青春時代を俯瞰するにあたって、本作のまさに肝とも言える要素が炸裂する。それが「アンディ・ラウ」を物語に織り込むという突拍子もない演出だ。そもそも現代シーンから始まる本作が「過去」へ回帰するきっかけも、ラジオから聴こえてくるアンディ・ラウの歌声。その上、90年代の生活には彼のポスターやシール、キーホルダー、等身大パネルなど様々な要素が満ち溢れている。それらは決して主張しすぎることなく、しかし常に付かず離れず主人公たちの人生に寄り添っているかのよう。その光景に思わず『あの頃、アンディ・ラウと』などと副題をつけたくなるほどだ。


 かくもアンディ・ラウのポスターに見守られながら、この映画では登場人物の誰もが「ほんとうの自分探し」の途上にあって、姿、格好、生き方を模索し、変わり続ける。この「変化」という側面は本作の裏テーマと言ってもいいかもしれない。


 現代に生きる主人公は、会社で仕事や人間模様に揉まれながら「変わりたい」と思い続けている。そこから舞い戻る90年代の記憶では、地味で冴えなかった外見が華麗にイメチェンして洗練されてゆく様が描かれるし、相手役の男子にしても不良と優等生の狭間で揺れうごいている。台詞の中では「“大丈夫”は、“大丈夫じゃない”という意味」と一つの言葉の表裏性が語られ、男女二人を結びつけるのも「幸福の手紙」と銘打たれた実質上の「不幸の手紙」だ。


 本当の気持ちと偽りの気持ちに揺れ動く男女を見ているのは観客として甘酸っぱくもむずがゆい。自分らしさをなかなか見つけられない彼らの姿はもどかしくもある。だが結局、自分が何者かを決めるのは自分。何が本当の価値なのかを見極めるのも自分自身。そういった思いをヒロインが全校生徒の前で吐露するシーンは、これまでの伏線を回収するかのような潔さを持って胸に響く。いわば少年少女たちがさなぎから孵化していこうとする場面ともいえよう。


 重要なのは、これほど激変し続ける彼らが存在する一方、香港の四大天王とも呼ばれるアンディ・ラウは80年代よりずっとスターとして君臨し続け、月日が流れてもあの頃のままだということ。この普遍性の軸足が揺るぎないからこそ、ヒロインたちがどれほど青臭く右往左往したとしても映画的にはビクともしないというか、なおのことアイコンとしてのアンディ・ラウの普遍ぶりが際立っていく。


 はてさて、青春ドラマにしては長尺な134分の旅路を終える頃、ヒロインの行き着く先に一体どのような展開が待ち構えているのか。ここで「マジか!」と驚きながらも、案外私たちは映画を観ながらこうした展開が訪れるのを薄々と感じ取り、期待していたようにも思う。奇跡は案外起こるものだし、それはその人がたどる一つ一つの挫折と決断、選択の賜物でもある。神様は見ていないようでいて意外と見ているもの。そして時々それに報いようと、微笑み返してくれるのかもしれない。(牛津厚信)