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あいみょんが明かす、リアルな歌と言葉が生まれる瞬間 「古い人間のままではいたくない」

2016年11月29日 17:02  リアルサウンド

リアルサウンド

あいみょん

 注目の女性シンガーソングライター、あいみょんのメジャーデビューシングル『生きていたんだよな』が11月30日にリリースされる。


(関連:あいみょん、Twitter連動の映像どう広まった? 新曲「生きていたんだよな」の強烈なメッセージ


 その才能をリアルサウンドも早くから追いかけていたわけだが、あいみょんのデビューシングル、やはり破格だった。


 日常で起きた事件を凝視するような表題曲、ポップな曲調にトゲのように刺さる言葉が印象的な「今日の芸術」、そして男性目線で描かれる男女の風景を切り取った「君がいない夜を越えられやしない」の3曲から感じるのは、まるで生まれたばかりの赤ん坊のような強烈な生命力と可能性に満ちた未完成の迫力だ。


 あいみょんが育った環境や音楽的バックボーン、そして曲が生まれる瞬間についてなど、今、この時しか語れない内容満載のインタビューとなった。(谷岡正浩)


・「言いたいことを制御してるとか、そういう感じはまったくないです」


ーー大家族だったんですよね?


あいみょん:そうです。甥っ子とかも一緒に住んでたんで、それも入れると9人ぐらいでずっと生活してました。だからポテチなんて普通のサイズのだと一袋3秒くらいでなくなりますよ。そうするとみんな性格悪くなって、お菓子とか隠し出すんですよ(笑)。飲みかけのジュースとかに自分の名前書いて冷蔵庫にしまったり。


ーーいかに自分のぶんを確保するか、みたいな。


あいみょん:そうです。わりと真剣に(笑)。


ーーそういう環境がご自身の表現に影響を与えていると思いますか?


あいみょん:思いますね。最初の頃は何とも思わなかったんですけど、でもよくよく考えたら大家族って今時めずらしいし、大家族ならではの生活をしていたので、曲作りにめっちゃ影響あるんだろうなと思います。ひねくれた性格なんですけど、それも大家族だったからかなとか思ったりしますね。


ーーある意味特殊な環境で育って良かったんじゃないですか?


あいみょん:昔は、コンプレックスというか嫌だったんですけど、今思えば良かったなって思います。一人でいるよりも得られることは絶対多かったんで。


ーー部屋も一人部屋とかではなかったんでしょう?


あいみょん:それが、中学からは一人だったんですよ。ボロいけど大きい家だったんで。ぜんぜんお金持ちとかではないんですけど。


ーーじゃあ一人で音楽に向き合える環境はあったんだ。


あいみょん:いや、そんなこともなくて。やっぱりギター弾いたりしてると、うるさいなあとかはありましたし、曲作って録音してる時に「ごはんやで~」みたいな(笑)。そういうことはしょっちゅうありました。だから音楽を集中してやれる空間はとくになかったです。


ーー兄弟の中で音楽をやり始めたのはあいみょんだけなんですよね?


あいみょん:そうなんですよ。弟もちょっと興味を持ったりしていたみたいですけど、やってるのはあたしだけですね。


ーーお父さんの影響なんですよね?


あいみょん:それが一番でかいですね。


ーー最初の曲ができた時の気持ちって覚えてますか?


あいみょん:あー。恥ずかしいとか普通に思ってたと思います。誰かに聴かせたいって感じではなかったですね。


ーーそれは中学生の時?


あいみょん:そうです。


ーー曲を作ろうと思ったきっかけは? それとも気づいたらできてた?


あいみょん:もともと詩を書くのが好きというか、文章を書くのが得意なんですよ。だからそこから始まったという感じなんですよね。最初は音楽とかなんにも考えずに詩を書いてて、で、家にギターがあったから、ひょんなことからギターを弾くようになり、メロディーを作るようになり……というのを積み重ねていったら曲になってました。


ーー今も曲を作る時は言葉からなんですか?


あいみょん:今は、言葉もメロディーも並行して作るって感じですね。同時進行です。


ーーじゃあ言葉とメロディーが影響しあいながら一つの曲になっていくんだ。


あいみょん:そうですね。どちらかが最初にどかんとできることはないですね。今までそうやってできた曲は1曲もないかな。


ーーデビューシングル曲「生きていたんだよな」は、言葉が先にできたのかなと思ったんですけど。語りから始まるから。


あいみょん:ギターを弾きながら言葉を探って、みたいな感じだったので、いつもと一緒ですね。そんなに時間をかけて作った曲ではないんですよ。曲自体は1日くらいでできたんじゃないかな。これは上京してくる前、実家で最後にできた曲なんですよ。


ーーAメロを語りにしようと思ったのは?


あいみょん:今まで語りから入る曲ってなかったんですよ。だから新しいチャレンジでもあるしって感じですかね。


ーーふと目にした事件を語りで伝えるところから始まる衝撃的な歌なんですけど。順に伺うと、まず、傍観者ではいられない、という思いが強く伝わってきますね。


あいみょん:あ、うれしいです。ほんと、そういう状況です。あたし落ち込むようなニュース見るとすっごい考えちゃうんですよ。その人の気持ちになるとかじゃないんですけど、見てるだけじゃいられなくなるというか。


ーー「生きていたんだよな」って言葉も生々しいですよね。リアルにその場で見ている感じが伝わってきます。だけど全体を通して聴くと、不思議とノンフィクションな手触りはないんですよね。どちらかと言うと、あいみょんの心象風景を覗いたような感じです。だから僕は、この歌は一人の少女が大人になろうとしているまさにその境界を飛び越える瞬間の歌なのかなと思いました。


あいみょん:あーなるほど。この曲へのリアクションが様々で。人によって違う感じ方が返ってくるので面白いですね。そんな捉え方があるんだなって私の方が逆に勉強になるっていうか。自分でもそこはいい意味でふわふわしているんですよ。応援ソングでもないし、野次馬を批判しているわけでもないし、絶対生きなきゃダメなんだよっていう曲でもない。だから聴く人によっていろんな捉え方ができるのであれば、それが一番嬉しいですね。


ーーどの曲にも共通しているんですけど、あいみょんの言葉ってキッパリしてるし強いけど、決めつけるものではないですよね。なんか、善と悪と、右と左と、男と女と、いろいろな物事の真ん中に立っている言葉、というような気がします。


あいみょん:まったく自分では意識的ではないですけどね。ひとつ言えるのは、言いたいことを制御してるとか、そういう感じはまったくないです。放送禁止用語を使うのはやめようとか、それくらいは考えますけど(笑)。あとはぜんぜん。


ーー他に詞を書く時に意識していることはありますか?


あいみょん:キレイごとを書かないってことが一番ですね。歌ってる時は自分でも何考えてるんだろって思うんですけど。


ーーん? それはどういうこと?


あいみょん:あたし、歌ってる時って自分でもよくわからないんですよ。べつに楽しいって感情でもないし、ステージからの景色がいいなーとも思ってないし。で、ステージ降りた時に、あの時何考えてたっけ?っていう感じなんですよね。


ーーある種のトランス状態なんですかね。


あいみょん:なんでしょうね(笑)。空っぽで、素直に、とにかく伝わればいいやって感じです。


ーー歌っている時に音楽の中に入っていく、みたいな感じはあるんですか?


あいみょん:いや、そういうのはないです。


・「あの、あたし、めっちゃ怖がりなんですよ。度が過ぎるくらいの」


ーーちょっと話が戻るんですけど。上京してきたのはいつでしたっけ?


あいみょん:今年の2月ですね。


ーー何か変わりましたか?


あいみょん:あの、あたし、めっちゃ怖がりなんですよ。度が過ぎるくらいの。


ーーたとえば何が怖いの? 夜とかそういうこと?


あいみょん:やばいですよ、あたしのこの話。外出して家を開ける時は常に泥棒が入ってるって思ってますし……。


ーーそ、それは興味あるなあ。ぜひ聞かせてください。


あいみょん:一人暮らしを始めた最初の夜は、鍵しめたっけな?って何回も確認しに行って、もうドアノブ潰れるんじゃないかってくらいガチャガチャやりました(笑)。あと、東京って地震が多いじゃないですか? 地震が来たらその揺れで部屋に人が入って来ちゃうって思うんですよ。ネット繋ぐのも……繋ぐのに人を入れなくちゃいけないじゃないですか。業者さんを。それがめっちゃ怖くて。引っ越してきてからずっとどうしようか悩んでたんですよ。でもネットないとヤバいじゃないですか? いよいよ勇気を出して繋ぎに来てもらった時は、ベランダの窓とか全開にしてました。いつでも逃げられるように、冬でしたけど(笑)。でもいい人でした。


ーーそれはよかった(笑)。


あいみょん:でも、あたしがあたしのことをよくわからないのは、そうやってすごい怯えるくせに、小説とかは殺人モノばっかり読むんです。それ読んで、あー怖い気をつけようってなって、また怯えるという。アホじゃないですか(笑)。


ーー(笑)東京にはもう慣れたんですか?


あいみょん:そうですね。引っ越してくる前からちょくちょく来ていたというのもあるので、ぜんぜんすぐ慣れました。でも、電車とかは怖いですね。東京の電車は恐怖でしかないです。


ーーえ、なんで? 大阪の電車だって混んでたりするでしょう? そういうことじゃないのかな?


あいみょん:いや、大阪はまだギリ、あれは混んでないです。あたしの出身は西宮で最寄りの路線が阪神電車なんで、阪神戦がない限りそんなに混まないんですよ。東京ってやっぱりすごくいろんな人がいるから。こないだもホームの壁のところにうずくまってる人がいたんですけど。そういう人見ると、コイツ絶対爆弾持ってるって思うんです(笑)。爆弾持ってるからあんなふうにうずくまってるんだと。今から爆発させるから心を落ち着かせてるんだと思ってしまうんですよ。それでそういう人を見ると、そいつからめっちゃ離れた車両に乗らなければ安心できない。あとは、暗めのサラリーマンが手をポケットに突っ込んだ時の怖さ。何を出すのか!?と思って。いやもう普通にスマホなんですけど(笑)。


ーーまさか銃は出てこないよね、いくら東京でも(笑)。それは子供の頃からそんな感じなんですか?


あいみょん:いや。17、18歳くらいの頃からこんなふうになっちゃいました。そして今が一番ひどい感じですね。周りの人から、そんな感じで生きるの辛くない?って言われるんですけど、そういうことでもなくて、ただ一人で怯えてるだけなんです。


ーー2曲目の「今日の芸術」にも爆弾が出てきますね。曲調はポップな印象があるんですけど、あいみょんの選んでいる言葉にドキッとさせられます。この、トゲのように刺さる言葉の感じが、世間とあいみょんの微妙なズレみたいなものを表しているような気もして、だから何となくこの曲は日常に対してのあいみょんの生き方宣言のように僕は受け止めました。


あいみょん:そうですね。この曲はたしかにそんな感じがありますね。うん。けっこう岡本太郎の影響を受けて書いていて。岡本太郎ってたくさんの作品とともに言葉も残してるんですけど、岡本太郎が言いそうなことをあたしが言ってやるって思いました。


ーーここに出てくる意思表示の言葉っていうのは、あいみょんの中で日常感ってあるの?


あいみょん:ありますね。普段、そんなに人には言えないけど思ってることをわりと正直に書いてます。


ーー恋愛観も入ってるもんね。


あいみょん:これもすごい思ってることですね。結局楽しいのって片思いしてる時だし、うまくいきすぎてもあんまり面白くないよなって。


ーー歌の中だと言いたいことが言えるって感じはある?


あいみょん:それはそうですね。だって普段自分の考えを素直に言えるような場がないじゃないですか。SNSだって自分の考えをそのまま垂れ流せるような場所では絶対ないし、むしろ逆に正直になれない怖い場所だと思います。


ーーじゃあ、あいみょんにとって音楽というのは、今のところ唯一自分の考えや気持ちを誰にも邪魔されずに表明できる場所としてあるわけですね。


あいみょん:うん。たとえば受験勉強をがんばってる子に対してどうとかっていうのはないですよね。それよりも自分が思ったり感じたりしているままを音楽にしているってことですね。


ーー不自由さを感じたりはしない?


あいみょん:ぜんぜん。曲を作るのにあまり苦しんだこともないですね。


ーーどういう時に歌のテーマが降りてくるんですか?


あいみょん:ネットでも電車の中でもいいんですけど、ぜんぜん知らない人のプライバシーみたいなものが垣間見えた瞬間ですね。この人こんなことやってて、こんなことでイラついてるとか。


ーー日常の薄皮を一枚めくった人間の生々しい感情みたいなところが見えた時に歌が出てくるんだね。


あいみょん:きっかけはそういうところですね。満員電車の中でカップルの男の子が一生懸命女の子を守ってるところを見たりすると、歌詞が降りてくる。


ーーその一瞬の光景が物語になるんだ。


あいみょん:めっちゃストーリーにしちゃうので。けっこうストーリー性持たせる曲が多いですね、そういえば。


ーー実際に見た光景をそのまま歌にするんじゃなくて、自分の中で一度物語にしてアウトプットするから、ドキュメンタリーっぽさがないのかもしれないね。


あいみょん:ああ、そうですね。そうじゃないと自分の音楽にはならないんでしょうね。


・「あたしの残した曲が遺言になって初めてわかることのような気がします」


ーー音楽的なバックボーンについてお訊きするんですけど、何にもっとも影響を受けたんですか?


あいみょん:まずはお父さんなんですよ。だからお父さんが聴いてきた音楽の中で言うと、浜田省吾さんからはかなり影響を受けてるなと自分でも思います。


ーーそれは、あいみょんの世代だと珍しいんじゃないですか?


あいみょん:誰も知らないですね。なんで知らんねんってあたしが逆に思っちゃうくらいなんですけど。あとは尾崎豊だったり、男性のシンガーソングライターがすごく好きで。吉田拓郎さんとか山下達郎さんとかさだまさしさんとか、お父さんが聴いてたので、そこはもうなぞるように聴きましたね。とか言いながら、自分で初めて買ったCDはORANGE RANGEだったんですけど。音楽をやるようになってだんだん男性ソロシンガー、とくにフォークと呼ばれるものに傾倒していくようになりました。


ーー音楽オタク、みたいな感じではないんですね。


あいみょん:そうですね。


ーーミュージシャンになろうと思ってなったわけですか?


あいみょん:いや、違いますね。あわよくば音楽で生きていければなあと思ってはいましたけど。


ーーYouTubeがきっかけだったんですよね。


あいみょん:はい。でもそれも自分がアップしたわけではなかったので。だから自分から積極的にライブハウスに出たりとか、路上をやったりというのは一回もしたことないんですよ。


ーーでもどこかで音楽に対して覚悟を決める瞬間はあったわけですよね?


あいみょん:それは今ですね。やっぱり。東京に来るってなった時に、あー今までと同じじゃダメなんだなと思いました。


ーー3曲目の「君がいない夜を越えられやしない」についてお訊きします。これ、とても不思議な曲ですね。浮遊感のあるアレンジと、あいみょんのキリッとした声が決して混じりあわないという。


あいみょん:そうなんですよね。私も聴いた時に水と油だなと思いました。


ーーでもその感じが歌詞のテーマと合ってますよね。これはある男性の一人の女性に対する思いをかなり一方的に綴った歌なんですけど、つまり女性の感情は一切描かれていなくて、なんか逆にそこがゾッとするというか。やっぱり歌ってるのは女性のあいみょんだから。まるっきり男の勘違いに浸ったままではいられない。だからもうきっと女性の方は気持ちが離れていて、この後に別れが待っているんだろうなってところまで想像できてしまう。


あいみょん:ずっとずっと続くものは、ないですよね。


ーーわかっちゃいるんですけどね。我々男性も。


あいみょん:(笑)。元々弾き語りの音源で入れようってなってたんですけど、アレンジャーさんがこの曲はどうしても音を入れたくなるっていうので最終的にこうなりました。この曲にはとくに男性シンガーソングライターの影響が出ているのかもしれません。結構こういうだらしのないというか、どうしようもない男性を描くのが好きで。女性目線のラブソングよりも男性目線の方が書きやすくて、無理やり男性に置き換える時がありますね。男の人が歌うラブソングって、女の人が歌うものとぜんぜん違うから、それが面白くて。


ーーでも、単純に男性目線って割り切れない深さがありますけどね。


あいみょん:なんでこういう詞を書いて、こういう曲を書くの? って訊かれても、たぶんそれは死んでからじゃないとわからない。あたしの残した曲が遺言になって初めてわかることのような気がします。


ーーその無自覚さと割り切りに底知れない才能を感じていますよ、今まさに。これからが楽しみです。


あいみょん:古い人間のままではいたくない、と思ってます。(取材・文=谷岡正浩/撮影=外林健太)