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欅坂46、スキマ、あいみょん、chay、冨田ラボ……プロデュースワークが光る作品たち

2016年11月29日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

欅坂46『二人セゾン』(初回限定盤A)

■森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.26


 どんな音楽を、どんなやり方で、どんなオーディエンスに向かって発信するか?ーーアーティストにとってもっとも大事なファクターであると言っても過言ではない“プロデュース力”。今週の新譜から、興味深いプロデュースワークが施されているアイテムをピックアップしました。


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 欅坂46のシングル『二人セゾン』は、懐かしさと新しさの配分が絶妙。サウンドメイクに関しては、80年代アイドルポップのテイストを色濃く反映させながら、4つ打ちをベースにした低音を効かせることで、現代的な手触りを演出。歌詞は“好きな人と出会うことで日常が変わる”という恋愛ソングの王道のテーマなのだが、コミュニケーションを取るのが面倒でイヤホンつけっぱなしの男の子が、突然、ある女の子にイヤホンを外されるというシチュエーションに萌える10代は多いだろうし、<大切な人ときっと出会える/見過ごしちゃもったいない>というフレーズは、今年大ヒットしたあの映画とも重なる。昔からあるネタを新しく見せる、手練手管のプロデュース・ワークである。


 スキマスイッチのニューシングル曲「全力少年produced by 奥田民生」はタイトル通り、代表曲「全力少年」を奥田民生がプロデュース、リアレンジしたナンバー。緻密に組み立てられた原曲のコード進行は奥田らしくシンプルに再構成され、ギターを中心としたロックチューンに生まれ変わっている。さらに鍵盤以外の楽器をすべて奥田が演奏しているのもポイント。いい意味で“スキマ”のあるトラックに引っ張られるように、いつになくラフな手触りの大橋卓弥のボーカルも印象的だ(レコーディングで大橋は、奥田に「おまえ、何回歌ってるんだよ。もういいよ」と早々に歌うのを止められたとか)。デビュー以来、一貫してセルフプロデュースによる制作を行ってきたスキマスイッチにとって、この企画はとんでもなく大きなトライアルだと思う。


 1960年代モータウン風のオーガニックなサウンドのなかで歌われるのは、<運命のアイラブユー/神様この人でした>というハッピーなフレーズ。実姉の結婚式のプレゼントとして制作が始まったという新曲「運命のアイラブユー」は、chayの音楽スタイルの軸である“レトロポップ”に則したウエディングソングに仕上がっている。もともと80sテイストを志向してきた彼女のスタンスがさらに広がるきっかけになりそうだ。C/Wには松任谷由実の「12月の雨」のカバーを収録。アレンジはなんと鈴木茂(ティン・パン・アレー)。さらに林立夫(Dr)、小原礼(Ba)、柴田俊文(Key)といった日本の音楽シーンを支えてきた伝説的ミュージシャンが参加し、極上のビンテージサウンドが実現している。


 現代社会の生きづらさ、閉鎖的な空気、そこからどうにか抜け出そうとする意志を込めた楽曲によって大きな注目を集めている女性シンガーソングライター、あいみょんのメジャーデビュー曲「生きていたんだよな」は、飛び降り自殺のニュースを題材に“生きること”の意味を投げかける衝撃作。もちろん強烈なインパクトを備えた楽曲なのだが、聴き心地はきわめてポップであり、曲が終わったときには爽やかな感覚が残る。その要因はYUKI、いきものがかりなどの楽曲を手掛けてきた田中ユウスケ(agehasprings)によるサウンドプロデュース。あいみょんのキャラクター、楽曲のパワーをまったく薄めることなく、幅広い層にアプローチできるポップソングに昇華させる手腕は流石のひとこと。あと、彼女はとんでもなく歌が上手いと思う。


 ポップマエストロの名を欲しいままにしている音楽プロデューサー・冨田恵一のソロプロジェクト、冨田ラボの5thアルバム。YONCE(Suchmos)、安倍勇磨(never young beach)、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、高城晶平(cero)、坂本真綾、藤原さくら、AKIOといったゲストボーカルのセレクトも最高だし(本作に参加したアーティストをチェックするだけで、いまのシーンを網羅できると思います)、現在の音楽のトレンドとの距離感を正確に見極めつつ、エレクトロとオーガニックをバランスよく配置したサウンドメイク、かせきさいだぁ、掘込高樹(KIRINJI)などが手がけた歌詞も驚くほど高品質。プロデュース・ワークの粋を極めた、まさに「SUPERFINE」(極上・繊細)と呼ぶにふさわしい傑作である。(森朋之)