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フィロソフィーのダンスが1stワンマンで提示した、「アイドル」というフォーマットの先

2016年11月28日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

フィロソフィーのダンス、ワンマンライブ『Do The Stand VOL.1』の様子。(撮影=後藤壮太郎)

 2016年にアイドルをやるのならば、「アイドル」というフォーマットが衰退した後のことまで見据えてやる必要がある。2016年11月20日に原宿アストロホールで開催されたフィロソフィーのダンスの初めてのワンマンライブ『Do The Stand VOL.1』を見て考えたのは、そんなことだった。


 フィロソフィーのダンスが初めてステージに立ったのは2015年8月6日。ウルフルズ、氣志團、ナンバーガール、Base Ball Bear、相対性理論などを世に送り出してきたプロデューサー・加茂啓太郎がプロデュースするアイドルグループである。彼はソロアイドルの寺嶋由芙は手掛けていたが、アイドルグループを手掛けるのはフィロソフィーのダンスが初めてだった。


 フィロソフィーのダンスのメンバーは、奥津マリリ、佐藤まりあ、十束おとは、日向ハル。私は2015年8月6日のデビュー・ライブを見ているのだが、そのときはメンバーが踊りながら歌うことにまだ慣れていないことがわかるような状態だった。2015年12月20日にはデビュー・シングル『すききらいアンチノミー』をリリースしている。


 当初こそぎこちなかったフィロソフィーのダンスだが、多数のライブに出演していくうちにみるみる成長し、2016年5月15日にセカンド・シングル『オール・ウィー・ニード・イズ・ラブストーリー』をリリースする頃には、ライブで楽曲群を歌いこなすたくましいグループになっていた。


 2016年8月5日からは3日間『TOKYO IDOL FESTIVAL 2016』に初出演したが、初日のSKY STAGE(フジテレビの湾岸スタジオの屋上である)での、夕暮れから夜になるタイミングのシチュエーションを完全に味方につけたライブの興奮は忘れ難い。そのシチュエーションに合わせて、フィロソフィーのダンスはファンク濃度の高い楽曲群によるセットリストを組んできたのだ。


 「ファンク」と書いたが、フィロソフィーのダンスのそもそものコンセプトは、アイドルにファンクを歌わせるというものだった。そうしたブラック・ミュージック色の濃いアイドルグループは過去にもいたが、加茂啓太郎がこだわったのは「しっかりと歌えること」だった。そのために、初期のフィロソフィーのダンスは、奥津マリリと日向ハルがメイン・ボーカルであるというスタイルが現在よりも明確だった。公式サイトにはこう記されている。「思想的には哲学を、音楽的にはFunky But Chicをキーワードに本籍はアイドルに持ちつつ、全ての音楽ファンに愛されるグループを目指します」。


 作家陣には、ヤマモトショウ(SOROR/うそつき・トマト/ex.ふぇのたす)、rionosといった寺嶋由芙にも楽曲提供をしている顔ぶれのほか、初めて見る名前があった。新鋭の宮野弦士である。彼と初めて出会った2015年の暮れ、宮野弦士はまだ21歳だったはずだ。その21歳が作編曲を担当した「すききらいアンチノミー」は、ナイル・ロジャースを彷彿とさせるギターのカッティングやストリングの配し方で、それに乗せてフィロソフィーのダンスが歌うことによって何か「異変」が起きたと感じたものだ。ポップスにはいつマジックが発生するのかわからないものだ、と。


 デビュー・ライブから1年3カ月以上を経てファーストワンマンライブというのは、決して早い進み方ではないだろう。フィロソフィーのダンスは、その間定期公演はしても、ワンマンライブをしなかった。それはまるで、じっくりとスープを煮込むかのように機が熟するのを待っているように見受けられた。


 そして、満を持して開催されたフィロソフィーのダンスのファーストワンマンライブは、当日を待たずにチケットがソールドアウト。その直前には、11月14日の『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で平成ノブシコブシの徳井健太がフィロソフィーのダンスを紹介し、さらに同じ日には『週刊ヤングマガジン』(講談社)に奥津マリリの水着グラビアが載るなど、追い風がもはや暴風状態となっていた。さらに、ワンマンライブはファースト・アルバム『FUNKY BUT CHIC』の先行販売の場でもあった。


 開演前に会場に流れていたのは、ワイルド・チェリーの「プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」や、プリンスの「1999」など。そして、ステージに張られていた幕が落ちると、背後からのライトを浴びた4人のシルエットが浮かびあがった。


 1曲目は「アイドル・フィロソフィー」。この楽曲は『FUNKY BUT CHIC』収録曲で、ライブではまだ歌われていなかったため、ワンマンライブでいきなり新曲初披露となった。イントロで日向ハルの声が雄大に響くのに続けて、十束おとは、佐藤まりあ、奥津マリリとボーカルが入れ替わっていき、サビで日向ハルが歌いあげる。4人の声質やキャラクターをよく考慮してパート割りしているのはフィロソフィーのダンスの特徴だ。声を大きく出しても繊細さを失わない奥津マリリのボーカルと、声量が迫力を生む日向ハルのボーカルのコントラストが鮮やかな楽曲でもある。


 前述のように、アイドルにファンクを歌わせるというコンセプトだけに、フィロソフィーのダンスはブラック・ミュージックの要素が濃い。「コモンセンス・バスターズ」はファンキーだし、「VIVA 運命」や「好感度あげたい!」はさらにファンク度が高い。「プラトニック・パーティー」や「アイム・アフター・タイム」はソウルフルだ。「熱帯夜のように」や「ソバージュ・イマージュ」には、エレクトロファンクという言葉が頭に浮かぶ。「オール・ウィ・ニード・イズ・ラブストーリー」は、モータウン・サウンドにしてアメリカ南部の香りもする。


 しかし、フィロソフィーのダンスの戦略的なところは、必ずしもブラック・ミュージック色の濃い楽曲ばかりではないということだ。それは中盤のソロ曲コーナーで顕著で、十束おとはの「あなたにあげない」は、アニソンも連想させるアッパーな楽曲だった。佐藤まりあの「なでしこ色の恋の歌」や奥津マリリの「バイバイよりも」は、1980年代のアイドル歌謡のようだ。さらに4人で歌う「DTF!」は、『TOKYO IDOL FESTIVAL 2016』で初披露された夏フェス向けの楽曲だが、ヴァン・ヘイレンのようなロックに振りきれていて面食らったものだ。フィロソフィーのダンスの楽曲は、実は“Funky But Chic”というキーワードから連想されるものよりも幅広い。たとえば、この日の「好感度あげたい!」はイントロが長めで、ストック・エイトキン・ウォーターマンによるユーロビートのようなサウンドが追加されていたのだ。


 そして、もうひとつ見逃してはいけないのは、フィロソフィーのダンスの現場がまごうことなくアイドル現場である事実だ。ブラック・ミュージック色が濃い楽曲が中心でも、ヲタ的なノリがこれほど持続するものなのかと驚くほどなのである。特に「すきだからすき」では、激しいMIX、コール、PPPHが次々と起きていた。また、「オール・ウィ・ニード・イズ・ラブストーリー」のBメロは、ファンのコールに「聴きごたえ」さえ感じたほどだ。ヲタ芸というものは、サウンドの音楽的な要素ではなく、楽曲の構造に依存する。J-POP的な構造であればあるほどやりやすいのだが、たとえJ-POP的でなくてもフロアの熱気は変わらない。熱狂の表出の方法のひとつがヲタ芸なのだ。ときに「楽曲派」の代表格的な扱われ方もするフィロソフィーのダンスだが、その現場は汗が飛び散らんばかりのヲタ現場でもある。この事実は別に矛盾しない。優れた楽曲にファンが盛りあがっているだけなのだから。


 そして、メンバーも「アイドル」でありつつも素のキャラクターが見えるのも面白いところだ。そもそも、奥津マリリはシンガーソングライターであり、日向ハルもバンド畑の人間だったが、ある日を境に「アイドル」となった。十束おとはは「電撃FIGHTINGガールズ」や「4代目ファミ通ゲーマーズエンジェル」といったゲーマーやコスプレイヤーとしての活動はしていたが、歌い踊ることはしていなかった。そんな中で、フィロソフィーのダンス以前からオーガニック(本物)のメンバーとして唯一アイドル活動をしていた佐藤まりあが、自身の理想のアイドル像を崩さない姿勢も、グループのバランスとしてユニークだ。


 ライブ終盤のMCでは、2017年3月19日に渋谷WWWでセカンドワンマンライブが開催されることが発表された。そして、アンコールの「すききらいアンチノミー」は間奏が長くなっており、メンバーが一言ずつ述べていった。涙を見せる十束おとは。時計を見るとまだ昼の14時37分だったが、ミラーボールが華やかに回転する原宿アストロホールは、その瞬間、間違いなくディスコだった。


 そもそも、加茂啓太郎はプロデューサーとして、フィロソフィーのダンスの本籍をアイドルとしつつも、そこを切り口にして、より広い層にフックさせようとしている。その方向性は結成当初から変わっていないはずだ。この日のライブの1曲目の「アイドル・フィロソフィー」の歌詞の<アイドルだから許して/哲学があればいいでしょ><アイドルだけは許して/ 哲学があればいいでしょ>というフレーズは、フィロソフィーのダンスのそんなスタンスを象徴しているかのようにも感じられる。


 アイドルのマーケットが今後どうなっていくのかは油断できない部分がある。シーンでの金銭的な売り上げと、文化的な盛りあがりが、必ずしも比例しない状況が訪れるかもしれない。だからこそ、アイドルでありつつも「その先」を見据えていくことは重要だ。そんな中で、フィロソフィーのダンスのファーストワンマンライブ『Do The Stand VOL.1』は、「アイドルの先」を感じさせてくれるポテンシャルの高さに満ちていたのだ。たった4カ月後のセカンドワンマンライブも楽しみにしたい。ワンマンライブをここまでじらせておいて、いきなりペースを上げてきたのだから。(宗像明将)