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広瀬アリス、“さわやか系”から“陰”のある女性へ 映画『L-エル-』で見せた潜在能力

2016年11月28日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016映画「L-エル-」製作委員会

 広瀬アリスが勢いに乗っている――。公開中の映画『L-エル-』で主演を務めるほか、来年公開される園子温監督の『新宿スワンⅡ』ではヒロイン、人気ミステリー作家・米澤穂信のデビュー作を映画化した『氷菓』では山崎賢人と共にダブル主演を果たすなど、出演作が途切れることがない。そんな広瀬の魅力に迫る。


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 広瀬といえば、全国高校サッカー選手権大会の応援マネージャーや、妹すずと共にバスケットボールBリーグのスペシャルブースターを務めるなど、明るく爽やかなイメージが先行する。自身も「等身大の女の子を演じる機会が多い」と話しているようにパブリックイメージに引っ張られたキャスティングが目立つが、演技の幅という意味では多くの引き出しを持っているように感じられる。


 深夜ドラマ『妄想彼女』では、男が勝手に作り上げた理想の彼女を、デフォルメされたしぐさや行動でコミカルかつキュートに演じ、連続ドラマ『釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~』では、定食屋「かづさ屋」の看板娘を、働き者で明るいという広瀬の持つイメージを活かしつつも、時折みせる艶やかな表情と、感情が高ぶると方言を発してしまうアンバランスさで瑞々しく演じている。


 また12年に公開された『スープ~生まれ変わりの物語~』では、中年のやり手社長(松方弘樹)の生まれ変わりで、その記憶を持つ女子高生を、強烈なインパクトで演じた。外見は美人女子高生だが、ところどころで下品な言動や立ち振る舞いをみせてしまうという役どころは、目が点になってしまうほどの潔さだった。


 パブリックイメージに添った役柄を演じつつも、しっかりとキャラクターに個性を持たせていた広瀬が、『L-エル-』ではこれまでのイメージとかけ離れた“陰”の雰囲気を身にまとった女性を演じた。劇中、彼女が演じるエルは、初めて心を許した男性からDVを受け、ボロボロになって身を寄せたキャバレーではショーガールに扮しセクシーなダンスを披露。さらに子を宿し、幸せになったかと思った矢先にさらなる悲劇に遭遇するなど波乱万丈な人生を送る。


 絵に描いたような不幸を背負った役柄だが、エルには変な悲壮感がない。それは客観的にみれば間違った方向に進んでいるように感じられても、エル自身がブレることなく自らの決断で進む道を切り開いているので、観ている方は負の感情を持たないのだろう。そんなキャラクターを広瀬は“愛の執着”という芯を拠り所に演じ切った。


 明確なビジョンを持って役に入り込んでいくことは、時に自身を極限まで追い込むことになるが、広瀬は、そんな感覚を芝居にぶつけていくやり方が「しっくりいった」と語っている。エルという一人の女性の生涯が描かれているが、劇中では、年代や置かれた環境によって、まったく違う顔を持つ女性として存在している。同一人物を別の顔で演じるという非常に難易度の高い役柄だが、広瀬が芯として据えていた“愛の執着”というキーワードを根底に持ちつつ、エルの脆さとはかなさを見事に表現していた。


 今回の作品で「いくつか感情の引き出しが増えたと思います」と語っていた広瀬。精神的にも肉体的にも追い詰められた現場で、研ぎ澄まされた神経を芝居に昇華できた。その経験は、きっと今後の女優人生に大きなプラスとなるだろう。前述したように、2017年も主演級の待機作が控えている。もともと潜在能力の高かった広瀬がどんな顔をみせてくれるか、今から期待が高まる。(磯部正和)