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AKB48と乃木坂46の違いに見る秋元康の作家性 「強度」と「意味」描かれた2作から読む

2016年11月28日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

AKB48『ハイテンション』(Type A・初回限定盤)

【参考:2016年11月14日~2016年11月21日のCDシングル週間ランキング(2016年11月28日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/js/w/2016-11-28/)


 今週のシングルランキングは、1位にAKB48『ハイテンション』、2位にGENERATIONS from EXILE TRIBE『Pierrot』、3位にback number『ハッピーエンド』という並びとなった。


(関連:AKB48 島崎遥香が秘めていた“本心” 指原莉乃も称える彼女の内面性とは


 年内で卒業する島崎遥香が最後のセンターをつとめるAKB48『ハイテンション』の初週売上枚数は118万枚。前作『LOVE TRIP』の117.8万枚とほぼ同数で、シングルのミリオンセラーは27作連続。いまだ衰えない人気を証明した形となっている。


 ちなみに前週のランキングは、1位が乃木坂46『サヨナラの意味』、2位が三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE『Welcome to TOKYO』、3位がAqurs『想いよひとつになれ / MIRAI TICKET』。2週連続で1位が48G関連グループ、2位がEXILE TRIBEという結果になったわけだ。


 というわけで、今回の記事ではAKB48『ハイテンション』について分析していきたい。というのも、この曲と乃木坂46『サヨナラの意味』を対比することで両グループの対照的なあり方が浮かび上がってくると思うのだ。


 ちなみに、乃木坂46『サヨナラの意味』は初週売上枚数が自己最多の82.8万枚となり、この週も3.9万枚で4位。来年2月にグループを卒業する橋本奈々未がセンターをつとめるこの曲は出荷枚数100万枚を超え、初のミリオンも達成した。安定的なセールスを保つAKB48を追い落とすほどの勢いを持ったグループに成長してきている。


 以前、ダイノジ大谷ノブ彦さんとの対談連載「心のベストテン」で、AKB48と乃木坂46の「公式ライバル」関係とは、つまるところ、「教室の真ん中で声を張り上げる“戦う女の子”」と「教室の隅でうつむいている“戦えない女の子”」のライバル関係である、と語ったことがある。それぞれの原点として象徴的なのが<前へ進め!><根性を見せろよ!>と歌う2010年のAKB48「RIVER」と、<透明人間 そう呼ばれてた><いつの日からか孤独に慣れていた>と歌う2013年の乃木坂46「君の名は希望」である、という話をした。


 そう考えると、それぞれグループの中核を担ってきたメンバーが最後のセンターをつとめた『サヨナラの意味』と『ハイテンション』も、まさにその構図で語ることができる。曲名からして象徴的だ。「意味」と「テンション」である。宮台真司の論考になぞらえるならば、「テンション」は「強度」と言い換えることができる。


 MVも対照的だ。


 「サヨナラの意味」は、いくらでも深読みができるような非常に物語性の高い映像作品となっている。


 MVには感情の起伏で身体に棘が出てくる「棘人(しじん)」と、そうでない「人」の2つの種族が登場する。物語は「棘人」役の橋本奈々未と「人」役の西野七瀬の交流を中心に展開し、映像に登場する文庫本や、そこに挟まっていた「帝都ユキ」と記された切符など、謎めいた仕掛けが多数登場する。


 一方「ハイテンション」に、物語性のようなものはほぼ存在しない。


 ここでは、島崎遥香が指をパチンと鳴らすと、周囲の人が突然ハイテンションになるという映像が繰り広げられる。岡崎体育は「MUSIC VIDEO」で<カメラ目線で歩きながら歌う 急に横からメンバーでてくる>とMV演出の「あるある」ネタを歌ったが、それがいきなり展開されているのも面白い。音源にはない指パッチンの音が足され、群衆が踊り出す姿が映し出され、ロボットレストランがロケ地に選ばれ、有名人の姿も多数インサートされている。まさに「意味より強度」を体現するようなMVとなっている。


 歌詞も対照的である。


 「サヨナラの意味」では<サヨナラに強くなれ この出会いに意味がある><悲しみの先に続く 僕たちの未来>と歌われる。とても内省的な言葉だ。人生の節目に必ずある別れや旅立ちに、強い意味を見出す。


 一方で「ハイテンション」は<カッコつけないで 声を出せ><リズムに乗らなきゃ 始まらない>という歌い出しだ。歌詞には<間違い英語 関係ねえ><不安・緊張もアゲアゲで><真面目にやっても ストレス溜まるだけ><理屈 ただ苦痛>という言葉が並ぶ。これらが示しているメッセージはただ一つ。「考えるなんてバカバカしい」。楽曲のテーマおよびキャッチコピーは、「ノレよ、日本。」だ。サビの終わりでは<ミサイルが飛んで 世界が終わっても 最後の一瞬もハッピーエンド>と歌われる。積極的に意味を否定している。


 体育会系だったりギャル系だったり、教室の真ん中にいるタイプの女の子にとって大事なのは「ノリ」だ。行動に伴う意味や必然を考えてしまうことは、つまらない真面目な理屈、すなわち「ノリを悪くする」足かせとして位置づけられる。


 その一方、教室の隅にいる文化系のタイプの女の子にとっては「ノリ」とは「同調圧力」を意味する言葉だ。「ノレよ」と言われてもそう簡単にはノレないし、「日本。」と言われても、自分をその中に勝手に入れないでほしいという気持ちが生じる。必然的に疎外感が生まれるわけで、「ハイテンション」のMVで島崎遥香が指をパチンと鳴らしても席を立ち上がって踊り出さない、つまりあの映像のフレームには入れないタイプの人間が「サヨナラの意味」のMVで「棘人」として登場している、と解釈することができる。


 もちろんどちらの曲も作詞は秋元康なのだが、作曲家の名前からもその対照性を読み解くことができる。


 「サヨナラの意味」の作曲は杉山勝彦。これまでも、「君の名は希望」や、桜井和寿が高く評価しカバーした「きっかけ」など、乃木坂46の数々の代表曲を手掛けてきた作曲家である。そして、杉山勝彦が乃木坂46に提供してきた曲は、やはり、どれも繊細な内面性を描き出すような楽曲が多い。


 そして「ハイテンション」の作曲はシライシ紗トリ。キャリアも長く数々の歌手やグループに楽曲を提供してきた売れっ子作家であるが、意外にもAKB48への楽曲提供はこれが初。彼の代表的な仕事にORANGE RANGEをデビュー当時からプロデュースし、スターの座に押し上げたことがある。そして、この「ハイテンション」にも、冒頭から挟まれる「Yeah!」という男性ボイスや後半のラップ、「踊れ!」と煽り立てるパートなどORANGE RANGEっぽい要素が目立つ。


 「ハイテンション」の曲調はディスコだ。四つ打ちのビートに乗ってグルーヴィーなベースが屋台骨を支える。「Ⅵm→Ⅱ」のコード進行に乗って、派手なホーン・セクションが曲を飾り立てる。そういうサウンドの特徴だけを分析するならば、この「ハイテンション」を「恋するフォーチュンクッキー」「ハロウィン・ナイト」に続くディスコ歌謡三部作と位置づけることもできるのだが、やはり掛け声やラップなどの「ORANGE RANGE的要素」が大きな違いになっている。


 考えてみれば、ORANGE RANGEも00年代初頭に「意味より強度」、すなわち内面性よりノリ重視のキャラクターで一躍ブレイクを果たしたバンドだった。そして「恋するフォーチュンクッキー」のMVでは冒頭にラジオDJ風の黒人男性が「踊れよ、ニッポン」と叫ぶ。「ハロウィン・ナイト」には「さあ踊れ!」「理屈よりノリで行け!」という歌詞がある。


 AKB48を通して繰り返し「理屈よりノリ」というメッセージ性を打ち出し、そこには馴染めない内面性を乃木坂46や欅坂46で表現する。「サヨナラの意味」と「ハイテンション」は、そういう秋元康の作家性が2016年の今もなお有効であることの証明と言えるのではないだろうか。(柴 那典)