27日(日)に富士スピードウェイで開催された『TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL 2016』では、さまざまな形態の走行プログラムが行われた一方でトヨタのトップドライバーたちがトークショーを行いファンを楽しませた。
脇阪寿一監督が音頭を執ったトークショー、“脇阪座談会”の3回目ではFIA世界耐久選手権(WEC)/ル・マンをテーマにトークが展開され、中嶋一貴、小林可夢偉のほか、モータースポーツユニット開発を指揮するプロジェクトリーダーの村田久武氏が、世界で戦うトヨタのハイブリッドシステムについて語った。
トヨタTS050ハイブリッドで使われている技術は、トヨタの市販ハイブリットの代名詞であるプリウスと比較すると、どれだけ先行した技術が投入されているかという質問に対し、村田氏は「今走っているプリウスの馬力を重量で割って、パワーウエイトレシオを(算出して)比較するとします。もし仮にプリウスがTS050と同じ重量になれば(現状のプリウスより)6倍は馬力が上がりますし、もし馬力が同じであれば、(現状のプリウスより)6分の1程度軽いパワートレインを積んでいることになる」と説明した。
この最新技術が、今後どのように市販車にフィードバックされていくのかを尋ねられると、村田氏は製品のサイクルにもよるので一概には言えない、としながらも、WECで培われた技術はプリウスの最新モデルやG'sブランドに徐々に入り始めていることも明かしている。
また、ル・マン24時間への挑戦は技術だけでなく、人を鍛える場にもなっているという。
「2006年に十勝でハイブリッド(への取り組みを)を始めた頃は3人だった。技術もない状態から始まった頃と比べると、今の若いエンジニアやメカニックは、とても賢く見えます」と村田氏。
「たとえば去年のル・マンから今年のル・マンまでは本当に開発の時間が限られていました。しかし、ル・マンで勝ちに行くという目標は決まっていたので、その時間のなかで、なんとかしなければいけない」
「こういった場面で諦めず、心を折らずに頑張り抜いた時、人間の胆力みたいなものがついてくる。これがついてくると人間の顔も変わってくるんだなと思う」と10年前からの現場の変化を紹介した上で、「可夢偉はWEC(第7戦)富士の前後で顔つきが変わったみたい」とポツリ。これに可夢偉は「イケメンになりました?」と応じて、笑いを誘った。
最後に2017年シーズンに向けた意気込みを問われた3名。一貴は「今年のル・マンでは非常に悔しい思いをしましたけど、来年勝つことで今年の結果がより大きな意味を持つと思いますし、素晴らしいストーリーのはじまりだった、と思うことができるはず。だからこそ来年は勝ちたい」と力強くコメント。続いて可夢偉も「来年は絶対にル・マンで勝って、優勝を感謝の気持ちにしたい」と意気込んだ。
最後に村田氏は「レース直後はとても悔しくて、辛くて、何のために今まで仕事をしてきたのだろう、と思っていた。けれど、日本に帰ってきた時、レースを見ている人だけでなく普段レースに興味のない人にもトヨタがル・マンでレースをして、ゴールまであと3分で惨敗したということが浸透していたことを知った」と今年の悲劇を振り返る。
「負けた結果、(別の)良い反応が起き始めた。これでトヨタがハイブリッドを使ってル・マンで勝った時、“本物”になると信じている。そういうものを全部背負って彼らときっちり勝って、ここに帰って来ることができればと思います」
今シーズン、トヨタがWECに投入したTS050はル・マンに注力したマシンであるとされながらも、シーズン終盤に連続表彰台を獲得したほか、最終戦バーレーンまでタイトル争いを繰り広げた。2017年にはさらなる体制強化を図るとの噂もあり、今年の戦いぶりを踏まえると1991年以来の日本勢“快挙”も夢ではないだろう。