高鳴る決戦、最初の計測1周目からいきなりスパートするニコ・ロズベルグを見た。最終コーナーではみ出しながら1分43秒873、3周目にFP1ベスト1分43秒243。遠くで砂嵐が吹き、滑りやすい路面コンディションでの先制ラップ攻撃。ルイス・ハミルトンがベスト1分42秒869で1位に立ったのは17周目、徐々にクリーンになってからだった。
先に出すかあと出しか。FP2でもそんなふたりの“駆け引き”が見られた。日没直後5時35分(現地時間)にロズベルグ1分40秒940、同じウルトラソフトで5分後にハミルトン1分40秒861でトップ。これで結果は両セッションとも彼の勝ち。そのギャップは“0.079秒”、セクター1と3最速はハミルトン、2最速はロズベルグ、ふたりともセッティングを変えたように感じた。
ヤス・マリーナで最も長いのがセクター2、1248m+970mストレート区間だ。ここでポイントリーダーは0.015秒上回った。夕闇迫る時間帯で走るFP2は予選と決勝コンディションと同じ、シミュレートできるのはこのセッション。12点リードする彼の立場になって想像すれば、抜くことよりも抜かれないことをまず考える。それを前提に他のセクターとのバランスをとっていくことを同時に考えたい。けして“弱気”ではなく“強気”でもなく、最後の決戦に臨むクールな思考判断だ。
それでもふだんと違いロズベルグが何度か姿勢を崩し、コーナー入口で突っ込みすぎ、出口ではみ出るときがあった(まるでハミルトンみたいに)。きっとその度に自分で自分に「落ち着け、落ち着くんだ!」と言い聞かせていただろう。
ブラジルでもメキシコでもここでも、金曜セッション・トップになっていないロズベルグ。ほんのわずかマシンとPUをいたわる気持ちが働いたのかもしれない。初日使用するPUは使いまわしバージョンなので、これがトラブっても交換されるモノだがそれによって、事前準備走行が台無しになるリスクがある。それを見越してややセーブ、細心の“ケア・ドライビング”をしているように自分は感じた。
ここでロズベルグはローテーションに従いニュー・ギヤボックスに交換し、ハミルトンは4戦前の日本GPに換えたままだ。PU使用状況に加え、これも新しければ新しいほど“不安リスク”はすこしでも減る。タイトル決定戦を前にドライバーはさまざまなことを考え、チーム・スタッフも万全を期すために働き続けている。
「いつもと同じようにやるだけ、勝ちを目指すのに変わりはない」、という予定調和的なコメントは半分嘘で半分本心だろう。ロズベルグもハミルトンも、メルセデス・チーム全員すべてが、緊張を隠そうと懸命になっているように感じられた金曜日。いつになく風が吹きつけたヤス・マリーナ決戦場、対決のユクエはかすんだままだ――。