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THE NOVEMBERSが貫いたストイックな美学 11周年11月11日の演奏は“特別”だった

2016年11月25日 19:12  リアルサウンド

リアルサウンド

THE NOVEMBERS(写真=Yusuke Yamatani)

 エリック・サティのピアノ曲が流れる新木場Studio Coastに、続々と人が集まってきた。
 
(関連:THE NOVEMBERSのライブから目が離せない理由 「タフさ」と「品性」から読み解く


 通算6枚目のオリジナル・アルバム『Hallelujah』を携え、9月30日の心斎橋JANUSを皮切りに全国ツアーを駆け抜けたTHE NOVEMBERS。今日はその国内最終日となる11月11日であり、結成11周年目を迎えた彼らにとって、この日がどれだけ「特別」であるかは、ここにいる全員が知っていたといっても過言ではないだろう。

 開場に入って、まず目に飛び込んでくるのは大型クレーン。かねてから公式サイトなどでアナウンスされていた通り、この日の模様はクラウドファンディングによって集められた資金を元に、映像作品として記録されることになっていたのだ。(参考:https://camp-fire.jp/projects/view/12463)


 客電が落ち、どよめきのような歓声が上がる中、ジェフ・バックリーの歌う「Hallelujah」と共にメンバーが登場する。そう、奇しくもこの日に訃報が伝えられた、レナード・コーエンの代表曲とTHE NOVEMBERS最新作のタイトルは同じなのである。そうした折り重なる偶然に、しみじみと浸る間もなくライブは始まった。ジム・オルークの「Women Of The World」を彷彿とせるような、半音進行を駆使した小林祐介(Vo./Gt.)のリフに続き、大地を踏み砕くがごとき吉木諒祐(Dr.)のドラムスが鳴り響く。曲はもちろん、タイトル曲「Hallelujah」。後半に向かってじわじわと高揚していく構成は、まるでラベルの「ボレロ」のようでもあり、バックライトに照らし出された4人の姿は神々しくすらあった。


 前半は、新作からの楽曲を中心としたセットリスト。軽やかなエイトビートの上で、突き抜けるようなファルセット・ボイスと湿り気を帯びたギターのアルペジオが絡み合う「風」、歪みまくった高松浩史(Ba.)のベースと、ケンゴマツモト(Gt.)のギターがユニゾンしながら突き進む「1000年」、そして、赤と緑のストロボを「これでもか」と言わんばかりに駆使した「!!!!!!!!!!!!!!(そしてバカはパンクで茹で死に)」、「Xeno」で最初のピークを迎えた。緩急自在のグルーヴを繰り出し、フロアの時間感覚を思い通りにコントロールするばかりか、光の点滅や色とりのフィルター、スイッチチェンジを使い分けた照明効果で、こちらの平衡感覚まで奪っていく。


 まるで、体の境界線が曖昧になって音と同化していくような、不安と安堵が同時に押し寄せる感覚。極めつけは「236745981」(『Rhapsody in beauty』収録)で、ソニック・ユースもかくやと言わんばかりのギターリフと、気だるい歌声から超音波のようなハイトーン・ボイスまで巧みに使い分けるボーカル、そして、それら全てを飲み込むような怒涛のフィードバック・ノイズに、あらゆる感覚を麻痺させられ立ち尽くすしかなくなる。3年前、同じ場所でマイ・ブラッディ・バレンタインが放った15分にも及ぶフィードバック・ノイズの衝撃を、そのとき筆者は思い出していた。


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 僕はこれまで、可聴域というか、ある意味では狭い範囲のなかで音の広がりや表現をイメージしていたんですけど、マイブラって大気のなかのフル・レンジでそれを考えているんじゃないか。倍音成分をどういうふうに出すかってことで、人の深層心理に働きかけるやり方をしているんじゃないか、って思ったんです。
(中略)
いろんな倍音がキラキラしていたり、ぐーっとくぐもっていたり、ギターらしい中域のあたりが聴こえたり、いろんなものがフル・レンジで鳴っていて、全体として塩梅よくなっている。だから耳に痛くないし。
大音量なのに耳に痛くないってすごく難しいことで、それをずっと浴びていたわけですけど、もうこれ以上の音量はないだろうって思ったその先に、“ユー・メイド・ミー・リアライズ”のノイズ・パートが現れて……って、もう、僕のなかで音そのもの、サウンド・デザインそのものへの考え方がそのときガラっと変わりました。

(参考:http://www.ele-king.net/columns/003520)


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 当時、小林と対談したとき彼はこのように話していた。あの “マイブラ体験”を己の血肉と化した彼は、自らの作品の中でしっかりと昇華させていたのだ。


 後半は、新旧取り混ぜたメニューで昔からのファンを沸かす。こうして『Hallelujah』の楽曲の中に組み込まれ、現在進行形のTHE NOVEMBERSによって演奏されると、これまで気づかなかった新たな魅力が引き出されていることに気づく。例えば「こわれる」(『picnic』収録)の、スキゾチック(分裂的)な展開や変拍子、唐突なメロディラインも、肉体的/有機的なグルーヴとなり“必然”として鳴らされているのだ。


 それはもちろん、前作『Elegance』のプロデューサー、土屋昌巳から学んだ音楽に向かう姿勢から、立ち振る舞いに至るまでの「美学」、自主企画ライブ『首』を軸とする、数多くのライブによって鍛え上げられた「演奏力」に裏打ちされたものであることは間違いない。そして何より、メンバー全員がバンドを、自分たちを心から信じたからこそ、短期間でここまで進化を遂げることが出来たのだろう。

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最近思うのは“信じる”っていうことと、“疑わない”っていうことが同じように扱われているけど、まったく別のものだなって。“疑わない”っていうのは単なる状況・状態であって、そこに意思はない。でも、“信じる”っていうのは意志であり、行為なんですよね。

『メロディがひらめくとき』(DU BOOKS)

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 最近のインタビューでは、「(本作を)『フジロック』のグリーンステージやスタジアムを想像しながら作った」と語っていた(参考:http://www.cinra.net/interview/201610-novembers)小林。であるなら、彼らの最高傑作(と、断言してしまおう)である『Hallelujah』は、こうして爆音で鳴らされ、眩い光の中で“解放”されたことによって、真の意味で「完成」したのではないだろうか。


 強靭かつ、しなやか。終始一貫してストイックなまでの美学に貫かれたステージだった。(黒田隆憲)