今年、ハースF1チームに移籍し、チーフエンジニアとしてチームのレース部門を統括する小松礼雄氏。この終盤に来て、とにかくトラブル、アクシデントが多くなってしまったハース。今回のブラジルGPでは予選でチーム最高位の7位を獲得するも、スタート前にまさかの大クラッシュ……。その時、小松エンジニアは……。F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラム第16回をお届けします。
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予選7位の興奮から一転、まさかのスタート前クラッシュ
「走る前に歩きましょう」。痛感した、基本の大切さ
ブラジルGP……とにかく、もったいないということしかないですね。ロマン(グロージャン)は予選で7位に入る速さがあったにも関わらず、あろうことかグリッドに向かう途中でクラッシュ。いかにウエットだったとはいえ、ありえないミスでした。
クラッシュの瞬間は、もう言葉がなかったです。「嘘でしょ?」って。彼のことをよく知っているから、もしかしたらということは頭の片隅にありましたが、まさか実際に起こるとは。いくら難しい状況とはいえ、フルウエットタイヤを履いてゆっくりグリッドに行くだけなので、本来は何も心配することはないんですけど……。
予選で7位で期待が高かっただけに、あのクラッシュでチームの士気が下がることは避けられませんでした。
今回のブラジルで、予選7位まで行けるという手応えは、はっきり言ってまったくありませんでした。その前の過去2戦、オースティン(予選17位/14位)とメキシコ(予選21位/17位)が特に酷かったですから。一応、アメリカGPではなんとかレースで10位まで挽回してポイントを獲れたけど、それでも速さの面では全然駄目でした。ですから、まずは普通のポジションに戻りたかったので、今回はQ2の真ん中からちょっと上あたり、12位とか14位だったらハッピーというくらいの感じでした。
FP1の走り始めの感触ではロマンがだいたい予想どおりの15位でした。FP2は路面温度がFP1よりさらに高くなってクルマのバランスが悪くなり、相対的にもラップタイムは悪くなりました。それでも、メキシコレベルの悪さじゃなくて、想像していた範囲内での悪さだったので、あまり驚くことはありませんでした。FP1とFP2を走って、だいたいの状況は理解できて、FP3では路面温度が低くなるのも判っていたので、それに合わせて金曜日の夜にクルマをちょっと変えました。
前のメキシコGPが特に酷かったから、今回は気温や路面温度などコンディションに合わせることをとにかく最重要視しました。英語では「走る前に歩きましょう」という言い方になるんですけど、いきなり全てをやろうとせずに、まずは欲張らないで基本重視で、ステップ・バイ・ステップでやろうという方針をスタッフにも伝えていました。
いろんなことをパッケージとして一度に試しても、それがちゃんと消化出来ないと、逆に悪循環に陥って2歩も3歩も後退してしまうことがあるんです。ウチは試した結果が悪く出て2~3歩後退した場合、それをレースウィークエンド中に取り戻せるだけの力がまだありません。またメキシコではロマンのクルマにターボの問題があって、FP2はほとんど走れなかったですからね。それをまた無理に挽回しようとして、逆に後退してしまった感じです。この反省を踏まえて、ブラジルの金曜日は、落ち着いてきちんと走行しデータを採ることができたのが良かったです。
普通にセッションを走らせることの他にも、今回はもうひとつテーマがありました。それはロマンがカーボンインダストリー製のブレーキ素材をテストすることでした。本当は違うメーカーのブレーキを金曜日にぶっつけ本番にテストするというのは大変だしリスクも大きいんです。しかし、これは来年に向けてもやらなければいけない重要なテストでした。ですから、とにかくそこに集中してプログラムを進めました。それがある程度できたので、金曜日のポジションが両セッションとも15位でしたけれども、そんなに悲観はしていませんでした。
土曜日のFP3は予想どおり、朝から小雨がばらついており路面状況は基本的にドライだけれども、ところどころ濡れている箇所もある状態で、ドライで走ってもインターミディエイトで走ってもよくないという状況でした。ウチはとにかく路面の改善をできるだけ待って、ドライで走り出しました。走り出して直ぐに、クルマは想定どおり前日より良くなっていることが確認できました。しかし、次のランで、しなくてもよいクルマのセットアップ変更をしちゃって、それがあんまりよくありませんでした。
FP3は路面の変化が特に激しかったので、その中でロマンが最後のランで上手く走れなかったので、FP3も終わってみれば15位と見かけ上は酷かったです。だけども、最初のランの感触が良いというのは判っていたので、予選は「まあまあいけるな」とは思っていました。
(小松礼雄)
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