2016年11月25日 10:32 弁護士ドットコム
低価格を売りに九州を中心に展開するファミリーレストラン「ジョイフル」で、9400円分を無銭飲食したとして、40代の男性が詐欺の容疑で逮捕されたことが報じられた。
【関連記事:「週休二日制」と「完全週休二日制」を勘違いして休めない日々…どう違うのか?】
報道によると、男性は11月16日のお昼頃、福岡県糸島市加布里「ジョイフル前原加布里(かふり)店」に来店し、所持金が100円未満だったのに、20時過ぎまでにハイボール19杯などのアルコール飲料のほか、サラダやサイコロステーキなどの料理、合計29点を注文して飲食し、代金計9407円を支払わなかった。
午後8時50分ころ店員に「お金がないので警察を呼んでください」と話し、通報で駆けつけた警察官に逮捕された。ジョイフルの客の平均単価は700円弱だということで、ネット上では「(ジョイフルで)9400円も飲み食いするなんて」と驚きの声があがった。
男性は、約8時間に渡り飲食を続けていたということだが、いったいなにが「詐欺」だと判断されたのだろうか。坂野真一弁護士に聞いた。
「ひとくちに『無銭飲食』といっても、さまざな類型があります。主に次の3つに分類できます。
(1)最初から支払いの意思・能力がないのに注文して飲食する型(犯意先行型)
(2)当初支払いの意思があったが、何らかの偽計(例えば、「お金を忘れたのでとってくる」と言って騙す)を用いて支払いを免れる型(偽計逃走型)
(3)当初支払いの意思があったが、店員の隙を見て逃走する型(単純逃走型)
このうち、(1)は刑法246条1項の詐欺罪、(2)は刑法246条2項の詐欺罪(詐欺利得罪)に該当しますが、(3)は詐欺罪には該当しません(もちろん(1)~(3)全ての場合において、無銭飲食をした者が民事上の代金支払債務を免れる訳ではありません。)」
坂野弁護士はこのように述べる。なぜ、結論が変わるのか。
「詐欺罪の要件は、次のような流れになっています。
他人を欺く行為(欺罔行為)をする、→欺罔行為によって他人を錯誤に陥れる(錯誤)、→錯誤に基づいて財物を交付させる(交付、処分行為)、→財物や利益を不法に取得する(財物・利益の移転)。
詐欺罪は、相手を誤信させ、その誤信に基づいた相手方の瑕疵ある意思表示により財物を移転させるという動機付け犯罪だからです。非常に簡単に言えば、『相手を騙し、騙された相手を利用して利益を得る』という類型なのです。
(1)の事例は、最初から支払いの意思がないにも関わらず支払いの意思があるように装って店員に注文して(欺罔行為)、代金を支払ってくれるものと店側を誤解させ(錯誤)、飲食物の提供を受けて飲食しています。(交付・財物の移転)。したがって、人を欺いて財物を交付させたことになり、刑法246条1項に該当するのです。
(2)の事例は、支払いを免れる意思をもって「お金を忘れたのでとってくる」と店側を欺き(欺罔行為)、店側を誤解させ(錯誤)、代金支払の猶予を得たうえで逃走し代金支払を免れています(処分行為・利益の移転)。したがって、人を欺いて財産上不法な利益を得たことになり、刑法246条2項に該当するのです。
(3)の事例は、最初は支払う気持ちがあって注文したのですから、(1)とは異なり注文時点で詐欺罪に着手したことにはなりません。また、隙を見て逃げただけですから、(2)と異なり、嘘をついて店側を錯誤に陥れて何らかの処分行為をさせ不法な利益を得たわけでもありません。したがって、現行法上は犯罪にはなりません(いわゆる利益窃盗)。」
今回のケースでは、どれにあたると考えられるのか。
「本件の男性の場合、報道によれば所持金100円未満で飲食代金を支払える可能性がないと知りつつ『ジョイフルで』飲食物を注文して飲み食いをしていると考えられることから、(1)の類型に該当し、刑法246条1項に該当する可能性があるということになると思われます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則(中央経済社)」。近時は火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.win-law.jp/