この夏、キャリコネニュースに「世界中で『親と同居する若者』が増えている!」という記事を寄稿しましたが、今度は米国で親と同居する中高年層が増えているというお話。11月8日付のウォールストリートジャーナルに「ママとパパの家へ戻るには、私、年を取り過ぎてる?」という記事が掲載されています。
前回の記事では親と同居する若者について「いい歳をして実家暮らしの社会人は、親に甘えすぎているのではないか」と書き出したのですが、今回親元に戻ってきていると言われるのは、なんと40歳を過ぎた中年男女。いったいどうなるのでしょう。(文:夢野響子)
突然の失業による同居で、イライラを溜め込む中高年
「彼らは、隠されたグループのようなものです」
記事の中でそう指摘するのは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の健康政策研究センターのスティーブン・ウォレス氏。4、50代の彼らはキャリアも積み、そろそろ退職を考え出す年齢のはず。それが突然の失業や病気に見舞われて、親と同居せざるを得なくなっているのです。
58歳になるイリノイ州のデボラ・グレイブさんは昨年、87歳の母親のもとに戻りました。その理由は、20年続けた臨床検査技師の仕事を解雇され、代わりの仕事が見つからなかったから。現在、彼女はデパートで週20時間働くかたわら、大学で診療情報管理士になる勉強をしながら、母親を病院へ送り迎えする日々を送っています。
母親のために毎日料理を作るのも、外出のたびに行先や帰宅時間を聞かれるのも重荷。同居の利点はあるものの、ストレスでイライラすることもあります。
カリフォルニア州では親と同居している50~65歳の人口が、2006年から2012年までに68%も増え、18~29歳における増加率の56%を上回っているとウォレス氏は指摘します。2014年の国勢調査など国のデータも同様の傾向を示しています。
米国企業も、若い労働者を好んでいる
なぜこのようなことが起こっているのでしょうか。その原因について、記事はこの世代の「生活苦」を指摘しています。米国の失業率は2010年の約10%から、ここ2年間は約5%にまで回復してはいますが、年代によってその状況には大きな差があります。
実は25~44歳の平均失業期間が約6か月なのに対して、45歳以上では9か月以上。中高年層では長い失業期間中に再就職を諦める人もいるので、実状はより厳しいでしょう。米労働統計局は、45歳以上で1年以上失業している人口は景気後退前の2007年の2.3倍というデータも発表しています。米国企業も、若い労働者を好んでいるのです。
雇用専門家のクリスティ・ハリス氏は「両親宅に同居しなくてはならないことが、失業の心労をさらに深め、家族の役割を逆転させている」と指摘します。世間体の悪さから、友人との交流をやめている人も多くいます。
中高年の子どもをサポートしなければならなくなった親は、自分の経済的安定も心配することになります。失業者向けキャリアコーチングのマシュー・ワイス氏は「親たちは光熱費などが上がって支払いきれなくなるのではないか、子どもに足を引っ張られるのではないかと懸念している」と語っています。
ニューヨークの社会心理学者で「Under One Roof Again」の著者であるスーザン・ニューマン氏は、同居を円滑にするためには、食費の分担や共有時間、プライバシーへの介入などについても前もってよく話し合うことが肝心だと唱えています。