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SKY-HI×SALU、日本語ラップ・シーンに何を問いかける? 過激に攻めたコラボ作を読み解く

2016年11月23日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

SKY-HI×SALU

 先日発売されたSKY-HIとSALUのコラボ・アルバム『Say Hello to My Minions』(以下、『SHTMM』)は、両者にとってこれまで以上に攻撃的かつヒップホップ的なスピリットに溢れた作品だ。ここで言う“ヒップホップ的なスピリット”とは、セルフボースティング(自慢)や揺るぎない自信、成り上がり程度、相手を挑発するディス(攻撃)といった要素を指す。つまり、一般的には嫌悪され、厚かましく思われそうなトピックでも、ヒップホップという土壌の上だと、それらは勝敗を決める重要なカードとなる。もともとAAAでグループとして活動し、何年にもわたってアリーナを埋めてきたSKY-HIと、地元・北海道から上京しながらラップ活動を続け、今やメジャー・ディールを獲得したSALUのカードの組み合わせは、名実ともに最強のバランスだろう。


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 ここで改めてSKY-HIとSALU、それぞれのバイオグラフィーやディスコグラフィーなどに触れる必要はないと思うが、今年1月、SKY-HIは2枚目のソロ・アルバム『カタルシス』を発表。オリコンでは週間アルバムランキング5位に食い込み、彼のポテンシャルの高さを証明して見せた。SKY-HIは「スマイルドロップ」や「カミツレベルベッド」、そしてアルバム後に発表された「ナナイロホリデー」など、シングルとして発表されるのはどれもメロディアスでポジティブなメッセージをはらんだ軽快な楽曲が多かった。本人も自分のことは「シンガーソングライターと思ってもらっても構わない」と自身のブログで語っていたくらいだ。


 そしてSALUも、今年の4月にアルバム『Good Morning』をリリース。同アルバムではSalyuや中島美嘉といったJ-POPフィールドのアーティストと積極的にコラボしており、ポップ性に自分のエモーショナルな部分をうまく融合させて一枚のアルバムを完成させていた。


 と、昨今の二人は間違いなくPOPS的な感覚も大切にしながらラッパーとして活動してきた、というのがここまでの前提だ。


 だが、今作の『SHTMM』ではどうだろう。初っ端の表題曲から「ピー」音で隠される禁断のフレーズ(いわゆるコンプラというヤツか)すらも見受けられるほどに、二人は過激に攻めていく。そこには、特定のラッパーやアイドル・グループに向けたと思しきラインや、<またほらすぐ輪になる>と群れるMCたちを揶揄した箇所もあり、現在のトレンドに警告する姿勢も汲み取れる。しかも、ただ過激なディス・トラックが並ぶのではなく、トリッキーなビートと斬新なフロウにそういった主張を盛り込むものだから、聴く方も自然とボルテージが上がってしまう。彼ら、かなりの本気度で今作を仕向けてきたな、と思わず唸ってしまうほどだ。


 たとえば、「Purple Haze」では<何杯目の紅茶/味しない 薄いFlowだな>とSALUがカマせば、SKY-HIも<ぬるく冷めたコーヒー/あとは元が炭酸でも 気の抜けた砂糖水>と応戦。その後には<ショーウインドウに 粗悪な消耗品/それで酔っ払えるなんてねぇ 本当 君たち正気?>と続く。<ドヤ顏 空回り><コンプレックスの塊蹴散らし/高笑い>などなど、キレ味のいいフレーズがこれでもかと放たれる。本作を聴いて「このライン、もしかしたら俺のことだろうか?」と疑心暗鬼になる日本のMCも少なくないだろう。ちなみに、「H.Y.P.E.」では<みんな違って みんないいなら/そこにいろよ>(SALU)、<サブカルブーム フリースタイルブーム/んでHIPHOP自体の季節は 未だに冬>(SKY-HI)と、これまた物議を醸しそうなラインが飛び交う。特に、前者のSALUのラインは、R-指定が複数のラッパーたちを模写しながらラップして話題になったCreepy Nuts名義の楽曲「みんなちがって、みんないい。」を、あからさまに彷彿とさせる。


 ただ、この二人が本当に意図する目的は、刺激的なディスをカマしてシーンを引っ掻き回すことではないだろう。SKY-HIもSALUも、メジャーのフィールドに立って創作活動を続けるMCだ、互いの肩にのしかかる責任感やリスクは覚悟の上だと思う。そして、この『SHTMM』から感じるのは殺気立つほどの“ヒップホップ的なスピリット”だ。そう言った意味でも、彼らがクソ真面目にヒップホップのことを考えて、周りに警鐘を鳴らすべく作り上げたのが本作なのではないだろうか。タダの遊びの延長で作ったにしては手が込み過ぎているし、とにかく、どこを切ってもアクの強い仕上がりだ。ゆえに、嫌悪感を示す者もいるのではと考える。しかし、本作が話題になればなるほど本人たちの思うツボだろうし、本作をきっかけにこの二人に、そして流行りに乗っかったシーンに対して反旗を翻すようなラッパーも出てくるかもしれない。


 筆者としては、『SHTMM』に収録されている楽曲をどんどんビートジャックしてこの二人に挑む若いMCが増えてくれないかな、なんて期待も抱いてしまう。加えて、歌詞内にも登場する<エセ評論家>らによる批評も、どんどん活発になればなと思う。そして、SKY-HI自身も「ライトセイバー」内で<振り上げた刀は 簡単にしまうなよ坊や>と言っているくらいだから、本作をリリースした後の両者の未来にも期待したい。彼ら自身、今後この作品とどう向き合っていくのだろうか? 是非、その熱気を冷ますことなく驀進して欲しいところだ。 (文=渡辺 志保)