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手塚治虫「エロス」テーマの遺稿公開…故人の秘蔵原稿、公開しても問題ない?

2016年11月23日 10:32  弁護士ドットコム

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漫画家の故・手塚治虫氏が仕事場に秘蔵していたイラスト29点が発見され、「新潮」(新潮社)12月号で「手塚治虫のエロティカ」と題して初公開された。


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報道によると、長女るみ子さんが 2年前、「開かず」状態の引き出しとロッカーから発見した遺稿約200点のうち、「エロス」をテーマに選んだ。ネズミが体をくねらす絵や、裸の女性がコイや白馬に変身する絵などだ。


このニュースに対して、ネット上では「隠してたエロ絵晒されるとか普通に公開処刑だよな」「早く部屋ごと爆破装置を開発せねばと思いました」など、秘蔵原稿が公開されることに対する反応が目立った。


そもそも、故人が遺した作品の権利は誰が受け継ぎ、誰が管理するのか。後で秘蔵原稿が発見された場合、その扱いはどうなるのか。桑野雄一郎弁護士に聞いた。


●包括的な取り決めをしていたかどうか

「マンガ家の原稿については、所有権と著作権の2つの権利が関係しますが、いずれについてもマンガ家が亡くなると、他の財産と同様に法定相続人(遺族)に相続されます。遺族が複数いる場合には、遺族の協議(遺産分割協議)で誰が相続するかが決められます」


では、原稿が後で出てきた場合はどうなるのか。


「今回の秘蔵原稿のように、遺産分割協議の時点で遺族がその存在を知らなったものについても、『その他一切の財産は〇〇が相続する』といった包括的な取り決めをしていればそれに従って誰が相続するかが決まります。そのような取り決めがなされていなかった場合は、新たに発見された未発表原稿について改めて遺産分割協議をすることになります。


遺産分割協議で相続人が決まるまでの間は、遺族の共有となります。この場合、著作権については、原則として共有者全員の合意によらないと行使できないとされています。したがって今回のように書籍に掲載することについても、原則として遺族全員の合意が必要となります。


なお、著作者人格権は、一身専属権という、相続されることのない権利です。ただ、生前であれば人格権侵害となるような行為については一定の範囲の遺族が差止等を請求できることになっています。秘蔵原稿を掲載することは生前であれば公表権侵害となりますので、掲載について了解をしていない一部の遺族から差止請求等を請求される可能性はあります」


もし、漫画家が公開を望まない場合は、どういう対策をしておけばいいのか。


「遺言などで秘蔵原稿について非公開とするように定める、信頼できる遺族あるいは第三者に密かに預けるといった方策は考えられますが、結論的には原稿そのものを破棄しない限り確実に非公開のままにしておける方法はありません。故人から原稿の管理を託された方の良識に委ねられていることと言えます」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
桑野 雄一郎(くわの・ゆういちろう)弁護士
骨董通り法律事務所。島根大学法科大学院教授。「外国著作権法令集(46)-ロシア編―」(翻訳)、「出版・マンガビジネスの著作権」(以上CRIC)、「著作権侵害の罪の客観的構成要件」(島根大法学第54巻第1・2号)等。
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com