2016年11月23日 10:32 弁護士ドットコム
暴力団員も屈強な「佐川男子」には敵わなかったーー。組事務所に届いた代金引換の宅配物(高級腕時計)を脅し取ろうとしたが、配達に訪れた佐川急便の配達員の活躍で逮捕(恐喝未遂容疑)されたことが報じられ、「佐川男子強すぎ」などと賞賛を集めた。
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報道によると、逮捕されたのは指定暴力団松葉会系の組員。インターネットの代引き交換で、ロレックスの腕時計(86万円相当)を注文し、届けにきた配達員を脅して腕時計を置いていかせようと計画した。事務所に荷物を届けにきた際に、モデルガンを見せつけながら組員同士で揉めているように見せかければ、配達員が驚いて商品を置いていくだろうと考えたのだ。
ところが、届けにきた佐川急便の配達員は、このような状況に臆することなく、組員からモデルガンを取り上げ、110番通報した。2人は事務所から逃走したが、その後恐喝未遂の容疑で逮捕された。
この事件の顛末が報じられると、ネット上では、「佐川男子強すぎる」など賞賛の声が相次いだ。一方で、配達員への「脅し」が全く効果がなかったのに、未遂とはいえ恐喝の容疑で逮捕されたのはどういう理由があるのだろうか。刑事事件に詳しい本多貞雅弁護士に聞いた。
「恐喝罪が成立するには、(1)財物の交付に向けられた恐喝行為により、(2)被害者が畏怖(いふ)し、(3)畏怖に基づく処分行為により、(4)財物が移転することが必要です」
本多弁護士はこのように述べる。今回は、佐川男子が「畏怖」していなかったと考えられるが、その場合でも、罪になるのか。
「要件をひとつひとつ確認しましょう。
恐喝行為とは、相手の反抗を抑圧しない程度の脅迫、または暴行を加え、財物の交付を要求することをいいます(相手の犯行を抑圧するほど強い脅迫・暴行の場合は、強盗罪の成否が問題となります)。
そして、脅迫とは、相手方を畏怖させるような害悪の告知をいいます。恐喝行為があれば、恐喝罪の実行の着手となり、現実に相手方が畏怖していなくても恐喝未遂罪が成立します。
本件は、モデルガンを見せつけながら組員同士で揉めているように見せかける恐喝行為が行われているので、少なくとも恐喝罪の実行の着手があります。
ですので、配達員が畏怖しなかったとしても、恐喝未遂罪となるのです」
「今回のケースとは少し離れますが、恐喝未遂罪にあたるケースは、他にも存在します。
相手方が畏怖せず、同情心などを理由に財物を交付したようなケースです。たとえば、お腹を空かせた加害者が飲食店で食料品を脅し取ろうとした際、加害者の窮状に同情した店主が食料品を加害者にあげたといった場合です。
さきほど紹介した要件の(3)財物の交付は、脅迫により畏怖したことに基づいて被害者が処分したという関係(因果性)が必要なので、こうしたケースも、やはり恐喝未遂罪にとどまるのです。
他にも、裁判例では、恐喝行為によって畏怖したものの、警察に相談したところ、警察官を張り込ませるから現場に行くように指示されて、犯人に現金を交付した事案について、恐喝未遂罪の成立にとどまったというものがあります。
警察の指示に基づいて現金を交付したのであって、畏怖したことに基いて交付したわけではないので、やはり因果性が欠けるといえるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
本多 貞雅(ほんだ・さだまさ)弁護士
東京弁護士会所属。刑事事件、少年事件、外国人の入管事件に精力的に取り組み、法科大学院等では後進の指導にもあたっている。また、保険会社勤務や不動産会社経営の経験を生かし、企業法務にも力を入れている。
事務所名:本多総合法律事務所
事務所URL:http://honda-partners.jp/