最終ラウンドが2レース制となった2016年のスーパーGT。最終的にGT500クラスはDENSO KOBELCO SARD RC Fがシリーズチャンピオンを獲得して幕を閉じた。平手晃平は2度目のタイトル獲得。ヘイキ・コバライネンにとっては参戦2年目でGT500王者の座を手にするとともに、彼にとってはトップカテゴリーではキャリア初となるタイトルとなった。
昨年から新たな活躍の場としてスーパーGTを選び、平手とともにサードからGT500に参戦したコバライネン。これまで彼が参戦してきたフォーミュラのレースとは違い、スーパーGTはハコ車のレースであり、タイヤはコンペティションと道具がまったく異なる。さらに実際の走行ではタイヤウォーマーが使えずウォームアップの仕方やタイヤマネジメントも、日本独特のものがある。そしてライバルとハイレベルなバトルをしているなかでGT300と混走しなければいけないなど、いくら経験豊富なF1ウイナーと言えども、すぐに結果が出るほどGT500は甘くなかった。
そこで、今年はチームも含め、勝つために様々な方針を変更。コバライネンを第1ドライバーにしてテストの機会を増やし、それを平手がサポートするという形をとった。冬の間に走り込めたことが、コバライネンにとってGT500での走り方をじっくり学んでいくいい機会となったようだ。さらに同時期から名古屋を拠点にして日本に滞在する時間も増やし、今シーズン途中からは全日本ラリー選手権にも参戦。チームとコミュニケーションする機会を増やし、生活サイクルも日本に溶け込ませていった。
「日本はもともと好きだったし、F1で毎年来ていたから特にカルチャーショックとかはなかった。レースに関しては、他のトップカテゴリーと大きな違いはないと思う。レベルは高いし、各メーカー同士のバトルも激しいものになっている。本当にプロフェッショナルだよね」
「今振り返ってみても、F1を終えてからスーパーGTに来たというのは、本当に良いチョイスだったよ」
こうして迎えた2シーズン目は開幕戦から好調で第2戦富士で2位表彰台を獲得。そこから勢いを増し、全戦でポイントを獲得していった。これは今年から日本での滞在時間が増えたことやラリーへの挑戦も、間違いなく今年の躍進につながったようだが、本人にとってはそれ以外の要素も大きかったと言う。
「たしかに、その2つの要素が関わっていたかもしれないけど、それ以上に昨年起きた問題をひとつひとつ解決できたことが今回の結果につながった一番のポイントだと思う。エンジニアやメカニックともたくさんコミュニケーションをとって、どうすればもっと速くマシンを走らせられるかを学んだ。もちろん、その中には日本での滞在期間を増やしたこともあるかもしれないし、ラリーへの参戦も影響しているかもしれない。でも、それだけじゃなくて、今年やったことすべてが今回の結果を出すために必要不可欠だったと思う」
コバライネンの今年の躍進、特に最終戦での快進撃を支えていたのは、純粋に勝利への執念だった。シーズン前半で2度の2位表彰台を獲得するものの、コバライネンは常に「嬉しい結果だけど、勝ちたい」と口にしていた。その思いが顕著に現れたのが2レース制で行われた最終戦のうちのひとつ目。第3戦の決勝だった。
朝の予選ではハーフウエットという難しいコンディションで見事初のポールポジションを獲得。そのまま優勝を目指したがフォーラムエンジニアリングADVAN GT-Rがタイヤ無交換作戦を決めて逆転トップに浮上し、後半スティントを担当したコバライネンは必死にGT-Rに追いつきオーバーテイクを試みるが、わずか0.2秒届かず今季3度目の2位フィニッシュとなった。
DENSO RC Fとしてはこの結果によってランキング首位に躍り出て、チャンピオン獲得への大きな足がかりとなったのだが、レース後のコバライネンの表情は、ここ2年のなかで一番険しい表情を見せていた
ただ、これが翌日に行われた第8戦で再び勝利を目指す原動力になる。朝の予選で今度は平手がポールポジションを獲得し、前半スティントもきっちりリードを作ってコバライネンにバトンタッチ。コバライネンはきっちりトップを守って待望のトップチェッカーを受けた。
「土曜日から良いペースでレースができていたから、最終戦は特に慌てることもなかった。土曜日の僕に続いて晃平が予選で素晴らしい走りを見せてくれたし、2レースとも晃平は素晴らしい走りをファーストスティントで見せてくれた。でも昨日はポールポジションからスタートしたのに2位でのフィニッシュ。24号車とヨコハマタイヤの戦略も素晴らしかったし、我々を上回っていた。(勝てなかったことは)良い結果ではなかったし、悔しかった。最終戦は『土曜日よりも良いレースをする』ということだけに専念したんだ。リードを作って、それを維持して、確実にチェッカーを受ける。それができたから、今日は勝つことができた」
日本に腰を据えて、GT500で成功することに集中した今シーズン。参戦開始から2年という短期間で世界最速、最強のハコ車レースであるスーパーGTの500クラスを制し、改めてF1ウイナー、コバライネンの真の強さを見ることができたシーズンだった。