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サウンド・オブ・エンジンでル・マン経験者が語る「夜の方がスピードが上がる」

2016年11月22日 06:41  AUTOSPORT web

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19~20日に行われたサウンド・オブ・エンジンでグループCカートークショーが行われた。
11月19~20日に鈴鹿サーキットで開催された『鈴鹿サウンド・オブ・エンジン2016』で、かつてグループCカーに乗ってル・マン24時間などに参戦した4人のレジェンドドライバーがトークショーに登場。ここでしか聞けないル・マンの裏話などを披露した。

 今回登場したのは、星野一義、長谷見昌弘、寺田陽次朗、片山右京の4名。サウンド・オブ・エンジンでは、それぞれが現役時代に乗っていたマシンでデモランを行う予定だったが、片山のヴェンチュリLC92は不具合により走行は叶わず。それでも、当時使用していたレーシングスーツ姿で登場し、ファンからの注目を集めていた。

 グループCカーといえば、1200馬力オーバーで、ル・マンの舞台であるサルト・サーキットでは最高時速が400kmに達するなど、まさにモンスターマシン。予選時には専用の1ラップスペシャルのタイヤが用意されることもあるなど、現在とは異次元のバトルが展開されていた。

 長谷見は「予選用タイヤだけで、ラップ2秒は変わっていましたからね、今では考えられない領域でした。午前と午後で45分ずつ予選があって、タイヤは何セットでも使ってよかった。だからたくさん使いましたね」と当時を振り返ると、星野も「僕もこれ以上タイム出ないというところまで行くんだけど、それ以上に長谷見さんがタイムを出すもんだから、また(アタックに)行かなくちゃいけなくて、“もうやめて”と思うくらい。お互いに意地のぶつかり合いだったね」と当時の心境を明かした。



 そして話題はル・マン24時間へ。現在はふたつのシケインが設けられているストレート区間のユノディエールだが、トークショーに登場した4名はシケインが設けられる前の6kmストレートを経験しているメンバー。長谷見は昼と夜での速度差の違いなど、夜間走行ならではの経験を披露した。

「当時、我々が乗っていたニッサンのクルマではユノディエールで昼間だと380km/hで走っていました。でも夜になると390km/hまでスピードが伸びるんです。(夜は)路面が冷えるから、コンパウンドの柔らかいタイヤが使えますし、冷えるとブーストも上がるので、夜の方が速いんですよ」

「また、夜は前にクルマがいると見えるんですけど、ひとりで走っている時は周りが暗くて何も見えないから大変。皆さんは(ヘッドライトが)遠くを照らしていると思っているでしょうが、実際にはすぐ目の前なんですよ。コーナーを速く走らなきゃいけませんから」

「だから、直線は怖いですよね。特にストレート(ユノディエール)は真っ暗ですし、公道だから路面がかまぼこ状なので、追い抜くときにラインを変えるときは大変でしたね」

“Mr.ル・マン”としても知られる寺田氏は、夜の方が走りやすいという印象を明かしたものの、雨の時は注意が必要だったという。

「夜は雨以外は意外と走りやすいですよ。涼しいし、(コースを)完璧に覚えているじゃないですか。(コーナーまで)300メートル、200メートル、100メートルと看板が出てくるので、リズムをとりながら走れる。夜は想像より走りやすい」

「ただ、雨は怖いね。前方が真っ白になっている時があるんですけど、それはそのエリアに雨が降っているということ。その時はすぐにフルブレーキしないと間に合わない。ヨーロッパの気候は馬の背を分けるような極端な雨の降り方をしますよね。だから先の方で白い煙が上がっていると、すぐフルブレーキしないと間に合わないんです」



 片山も「実際には100メートル先をライトで照らしているイメージなんですけど、そこには1秒で到達しちゃうので、すぐ目の前を照らしている印象なんです。だからブレーキングも2~3秒先に見えるはずのコーナーは見えないですね。1周13.6kmもあると、コースのどこかは雨が降っていて、それ以外のところではドライということもあります。スリックで走っていてコーナーに入っていったら突然濡れていた、ということもありましたよ」とコメント。雨のなかを300km/hオーバーで駆け抜ける難しさを表現した。

 また、今ではパワーステアリングやパドルシフトなどのデジタルデバイス装備が当たり前となっているが、当時は完全にアナログ。その状況下でビックパワーのマシンをコントロールするのは大変だったという。

「グループCの頃はパワステもないし、ABSもトラクションコントロールもないから、本当に気を使って運転しないと雨の日などは大変だった」と寺田。

「それからシフトが重いでしょ。ちゃんとサポートしないと手にマメができちゃうこともあったし、ひどい時は振動で疲労骨折することもありました」

 グループCカーのデモランは、これまでさまざまな場所やイベントで行われているが、鈴鹿サーキットに10台以上ものマシンが集まり、さらに当時のレースを戦い抜いたドライバーたちがトークショーに参加したのは極めてまれ。会場に集まったファンもレジェンドたちが明かすエピソードに聞き入っていた。