ブラジルGPで、土曜日以降、マシンバランスに問題を抱えてしまい、本来の走りができなかったジェンソン・バトン。ブラジルGPが行われたインテルラゴスは、全長4.309kmと短いにもかかわらず、高低差があるので、ほかのサーキットに比べて、アップ&ダウンが大きい。中でも、それが顕著なのが、セクター2である。
セクター2には4コーナーから11コーナーまでの8つのコーナーがある。セクター1の3つ、セクター3の4と比べると、ハンドリングが重視される。しかも、日曜日は雨。本来であれば、ウエットコンディションが得意なバトンだが、インターミディエイトを履いていたとき、「このタイヤじゃ走れない」と無線で返答。
エンジニアからは「ほかにもインターミディエイトで走っているドライバーがいて、彼らはまだ走り続けている」と言われたが、バトンは「そんなの関係ない」と言って、ピットインしたほどである。それほど、バトンが駆るマクラーレン・ホンダのマシンは問題を抱えていた。
結局、予定よりも1回多くピットインしたバトンは、レース終盤には最後尾まで転落し、完走したマシンの中で最下位の16位でフィニッシュした。
この結果だけを見ると、来シーズンはレースしないことを発表しているバトンには、もうモチベーションが残っていなかったのではないかと思う人もいるだろう。しかし、そんなことはないと言いたい。
というのも、もしバトンが本当にやる気がなかったら、「マシンがどこか変だから、リタイアする」と言って、ガレージに帰って来ればよかっただけの話である。しかし、バトンはそうしなかった。そればかりか、タイヤを履き替えてレースに復帰。
しかも、多くのドライバーがインテルラゴスの雨に足をすくわれる中、マシンバランスが悪いマシンと格闘し、スピンやコースオフすることなく完走した。2度も赤旗中断となるような雨が降っていたインテルラゴスで、集中力がなければ、そんなことは決してできない。
2017年はF1を走らないバトンにとって、残されたF1でのレースは、とりあえずこのブラジルGPを含めて2戦。モチベーションが失われる訳などなく、むしろ1周でも多くレースを続けようと、やる気は満々だった。
レースではポイントをとったフェルナンド・アロンソの走りに注目が集まるのは仕方ないことだが、ホンダ陣営にとってはアロンソだけでなく、バトンの走りにも大きな収穫を得るものがあった。それは信頼性の確認である。
バトンがレースで走らせたパワーユニットは、スペック3.5である。これは、日本GPのレースから投入した6基目のパワーユニットだった。日本GP後もアメリカGP、メキシコGP、ブラジルGPで使用し、いよいよ次のアブダビGPで最終戦を迎える。アブダビGPでも無事完走すれば、21戦を6基で走りきったことになる。
レギュレーションでは今シーズンは年間5基となっていたため、バトンの6基は1基多いわけだが、バトンのパワーユニットは2戦目のバーレーンGPでトラブルを起こして、翌戦から新しいものに交換されている。
事実上、19戦を5基で走りきる計算となる。したがって、ブラジルGPで無得点に終わったバトンだが、ホンダにとってはデータ収集という観点から、完走してくれたことが大きな収穫だった。
最終戦のアブダビGPはバトンにとって、1年間の休養に入る前の最後の一戦。だからといって、バトンにモチベーションの欠如などはない。チェッカーフラッグを受ける最後の一周まで、バトンは思いを込めて走り続けるはず。そして、バトンが刻む一周一周がホンダにとって、すべて来年へ向けた重要なデータとなる。
ホンダ辛口コラムはF1速報公式サイトで連載中
ホンダ辛口コラム ブラジルGP編:ウエットではもちろん、ドライでも進歩ゼロのパッケージ