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yahyel 、向井太一、Srv.Vinciーー世界水準の音楽を奏でる新世代ミュージシャンの台頭

2016年11月21日 15:12  リアルサウンド

リアルサウンド

向井太一『24』

 2016年、海外の音楽シーンとシンクロする20代前半アーティストの活躍が話題を集めている。インターネットをはじめとする音楽を取り巻く環境の変化をネイティブに吸収してきた新世代の台頭だ。いわゆる“J-POP”でもなければ、“洋楽”と呼ばれる類いでもない、現在進行形の時代性を反映した日本オリジナルな“ポップミュージック”を志向する存在だ。


 きっかけのひとつは、アシッドジャズなどブラック・ミュージックにインスパイアされたバンド、Suchmosの登場だったかもしれない。その後、チャート・シーンを席巻するメジャー的趣向性とは一線を画した、スキルの高さとセンスに溢れたオンタイムなサウンドを打ち出すアーティストがシーンを騒がせていることに注目したい。


 現象として思い出すのは、90年代にカウンター・カルチャーとして一世を風靡した渋谷系文化だ。渋谷系のカテゴライズの特徴として興味深いのが、音楽ジャンルだけでくくっていなかったポイントだ。


 渋谷系時代、主流メディアは音楽雑誌やCS音楽番組だったが、現在はインターネットにおけるSNSでの拡散力や、音楽ニュース・メディア、ミニコミ感溢れるブログ・メディアなどへ日常の音楽接点は移り変わった。しかし、ネット時代、国や地域性を限定しないアーティスト発のインディペンデントなシーンと、メディア発信のムーブメントだった渋谷系に、接点は感じられない。しかし、“ジャンルレス、センスにこだわる”というスピリットは継承されているように思う。


 オンタイムな世界水準といえば、ポスト・ダブステップ、インディR&B、ジャズ/ファンク、ヒップホップ、ベース・ミュージック、トラップ、フューチャー・ビートなどを感じさせるセンスーーあらゆるジャンルのごった煮だ。さらに興味深いのが、動画共有サイトなどインフラ発でくくられる盛り上がりでもなく、あくまで動画サイトやSNS、テクノロジーをツールとして活用し、ごく自然にライブ活動が主軸であることも“いま”っぽい主体性である。


 まずは20代前半で若くして才能を開花させ、2016年、圧倒的な成長を遂げた3組を紹介したい。


 ポップ・ミュージックの“いま”を体現したドープなサウンドを奏でるyahyel(ヤイエル)、柔らかくフェミニンでフューチャー感あるソウルフルな歌唱が魅力的な向井太一、ジャジーでソウルフルでロッキンなサウンドを奏でるSrv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)の3組だ。


 もちろん、他にもD.A.N. 、WONK、DYGL、LUCKY TAPES、TOUR ROMANCE、Day and Buffaloなど、気になるバンドはたくさんいる。しかし、今のところシーンを総括するような言葉はなさそうだ。いや、もしかしたら便宜的なワードを必要としていないのかもしれない。百聞は一見に如かず。まずはこの3組からオンタイムに世界水準を奏でる新世代の台頭を感じてみて欲しい。そう、話はそれからだ。


(関連:ペトロールズ、Suchmos、cero……“今っぽさ”と“懐かしさ”を併せ持つ都市型バンドたち


■yahyel(ヤイエル)


 平均年齢23歳、ボーカル、サンプラー、ラップトップ、ドラム、VJの5人編成による、テクノロジーと圧倒的なセンスを感じさせる新世代バンド。ポスト・ダブステップ以降、オルタナティヴなインディR&B、ベース・ミュージックを経由したオンタイムな音使いへのこだわり、身震いを覚えるほどの“日本人離れした”ブルージーで甘い歌声とエモーショナルなメロディ、ディストピア的な情景を感じさせるビートセンスが一歩先ゆく時代の空気感を解き放つ。今年1月には、イギリスの老舗レーベル・ショップ『ROUGH TRADE』を含む5カ所で欧州ツアーを成功させ、7月にはMETAFIVEのオープニングアクトに抜擢、さらに『FUJI ROCK FESTIVAL'16』深夜3時の「ROOKIE A GO-GO」ステージにて満員のオーディエンスを熱狂させるなど、着実に知名度が高まっている。「ギミックを使わずとも音楽だけで勝負したいと思い、今のような匿名性のフィルターを使うスタイルを選びました(篠田ミル)」。そんなyahyel が、初のアルバム作品『FLESH AND BLOOD』を11月23日にリリースする。マスタリングを、JAMES BLAKEをはじめ、Aphex Twin、Arca、Blood Orange、FKA twigsなどを手掛けるMatt Coltonが担当していることにも注目したい。


■向井太一


 1992年福岡生まれのシンガー・ソングライター。オンタイムなサウンドを自由に乗りこなす浮遊感あふれるソウルフルな歌声を武器に活動を続ける気鋭のニューカマー。人気ファッション・ブログでの連載、インスタグラム・フォロワー1万人超えなど、ファッション性と音楽を兼ね備えた新しい才能。自身の年齢をタイトルにした最新EP『24』を11月16日にリリースしたばかり。これまでの半生を振り返り、人生を反芻するかのように噛み砕いていくコンセプトを感じさせる1枚。ゲスト・クリエイターに、ハイセンスなプロデューサー陣、starRo、yahyel、grooveman Spot、JiNeous、CELSIOR COUPE等を迎え、共同制作していることも話題だ。レーベル・メイトでもあるstarRoとの共作「SPEECHLESS」で聴けるスペーシーなサウンドの気持ちよさ、「SIN」での耳が喜ぶ軽やかなビート&シンセポップなサウンドに心奪われた。無機質なサウンドがせつなさで空間を満たしてくれる「STAY GOLD」、「SOLT」では、yahyelがプロデュースを手掛けているのも気になるポイントだ。さらなるステップへと実験的精神で突き進むスキマの美学、音の響きの心地良さ。日本人オリジナルのソウルミュージックの未来系といえる存在感。グローバルな活動にも注目していきたい。


■Srv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)


 1992年生まれの、アカデミックでありながらもアナーキーな匂いを漂わせる4人組バンド、Srv.Vinci。バンド結成は2014年。当初は、東京藝術大学を辞めたばかりの鬼才音楽家、常田大希を中心としたユニットだったが、よりロックやポップミュージックへのフィールドを視野にいれ、同世代のテクニカルな才能を持つメンバーが集結した。昨今世界的に音楽シーンを騒がせているロバート・グラスパー、ゴーゴー・ペンギンなど、ドン・ウォズ率いるブルーノート・レコード所属の新世代バンドと近い感触を感じさせるロック、ヒップホップ、テクノ、現代音楽などが同列で解き放たれるサウンド・センス。しかし小難しくはなく、時にアメリカの絵本作家エドワード・ゴーリーのようなナンセンスかつ不条理な世界観を醸し出すインパクトがエモい。あらゆる音楽を呑み込んだサウンドを日本語歌詞によって歌を通じて届けてくれる。「今って音楽の進化自体が止まっていて、音楽以外のことで差別化しているアーティストって多いじゃないですか? でも、まだ音楽だって発展する余地があると思っているんですよ(常田大希)」。9月にリリースされたmini Album『トーキョー・カオティック』をチェックして、演奏力の高さに圧倒されるライブを体験して欲しい。(ふくりゅう(音楽コンシェルジュ))