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コメディに『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』方式を応用!? 『世界の果てまでヒャッハー!』の衝撃

2016年11月21日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『世界の果てまでヒャッハー!』(c)AXEL FILMS - MADAME FILMS - M6 FILMS - CINEFRANCE 1888

 映画にとって“語り口”は生命線ともいうべきものだ。どんなに魅力的なストーリー、キャラクター、豪華絢爛なセット、仰天のクライマックスを擁していたとしても、語り口が魅力的でなければすべては無に等しい。逆に、乱暴な言い方をすると、仮にこれらすべての要素を兼ね備えていなくても、語り口さえ際立っていれば全ては自ずと魅力的に見えはじめ、語り主はそうやって観客を煙に巻いたまま、まんまと逃げおおせるのかもしれない。ちょうどそんな具合に映画の勢いになぶられて、上映中大笑いしてしまったのがフランス映画『世界の果てまでヒャッハー!』だ。


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 フランスで公開されるや2週連続で興行成績NO.1を獲得し、その後8週連続でTOP10入りを続けたという本作。フランス人御一行様がブラジルのリゾート地にて陽気にはしゃぎ回っていつしか秘境へと足を踏み入れてしまうーーとまあ、ジャンル的にはさながら『ハングオーバー』シリーズを彷彿とさせるノリのコメディなのだが、しかしその語り口はそこらのコメディとはまるで異なる。前半部こそ誰もが浮かれて奇声を発するくだらない場面が続くものの、後半は一転し、彼らは一台のハンディカムを残して忽然と消息を断つ。残された者たちは記録された映像を再生し、彼らの身に一体何が起こったのか息をのむ覚悟で見届けることになる。つまりこれ、コメディながらも、いわゆる“ファウンド・フッテージ”を内包した語り口となっているのだ。


 このファウンド・フッテージと聞いて真っ先に思い出すのは、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』だろう。まだYouTubeもない時代に降臨したこのホラーの“ファウンド”感は、映像から受ける独特な気色の悪さが心にベットリとした手跡を残した。もちろんファウンド・フッテージはホラーだけではない。『クローバーフィールド』ではハンディカムの主観映像を通じて巨大怪獣の進撃を描き、観客がまったくもって全体像を把握することができない点が画期的だったし、さらに『クロニクル』でもハンディカム映像がその大部分を織りなし、VFX加工した超能力シーンの臨場感のみならず、少年の心の襞までも映し出すかのようなタッチが生々しかった。


 これらの語り口が狙うのはいずれもリアリティの極致だ。映像の質感がこうして独特な粗さを呈しているが故に、観客はその映像と自分との間に何ら他者の手が介在していないリアルな状態に触れたような気分にさらされる。さらにこうした映像を撮影した本人が行方不明であるという点もファウンド・フッテージの特徴。これまた話者の辿った運命を示唆しているかのようで、なんとも言えない不気味さが先行する。


■ファウンド・フッテージ内で描かれる奇想天外なアドベンチャー


 とはいえ、『世界の果てまでヒャッハー!』はあくまでコメディ。作り手たちは本作の構想を練るにあたって、かつて少年時代に熱狂した『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』などの冒険映画を参考にしたそうで、その持ち味をよりによってファウンド・フッテージと掛け合わせてしまったところに本作の大胆不敵さがある。


 そもそもハンディカム映像を多用するということは、長回しが多用されることにもつながるではないか。回しっぱなしのカメラの隅々でおかしな事件や事故、それにアマゾンの奥地に暮らす原住民との遭遇なども待ち受けているわけだが、いずれも一発勝負の混沌にのまれていく様子が臨場感あふれる映像として活写されていて興味深い。中でも本作のハイライトと言えるのが、飛行中の小型機からのスカイダイビング・シーン。一連の流れをずっと目撃しっぱなしの観客からすれば、今この瞬間、機内ですったもんだした末に大空へとダイブしていくのがスタントマンではなく紛れもないキャスト本人であることは一目瞭然だろう。


 もちろん11メートルの高さの崖から川に飛び込むという危険なシーンもキャストが自らこなしているという。ここには、かつての『ブレア・ウィッチ』の頃とは一味も二味も違う現代版“ファウンド・フッテージ”のあり方が見え隠れする。というのも、YouTubeの時代となり世の中にはハンディカムやウェアラブル・カメラで撮られた刺激的、超絶的な映像が尋常でないほど溢れているわけである。それらを見慣れた観客を驚かせるのは並大抵のことではない。唯一の打開策といえば、キャスト自ら身体を張ってリスクを取ることくらい。


 さらに、昨今のヒット映画における“ライブアクション”を重視する潮流も彼らを率先して挑戦へと向かわせた要因と言えるだろう。思えば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』ではスタッフとキャストが一致団結してグリーンバックやスタントマンに頼らないリアルな映像を追究したのも記憶に新しい。何を血迷ったのか『ヒャッハー!』チームも高すぎる理想を掲げて突っ走り、気がつくと嬉々として限界を超え、結果、とんでもないシロモノを完成させてしまったというわけだ。


 お下劣なシーンもあるし、かなりヒヤヒヤさせられる危険な描写もある。もしかすると全編通して一向に笑えなかったと主張する人もいるかもしれない。ただし、ストーリーを単調に追いかけても面白味のない本作が、ひとたび“ファウンド・フッテージ”という語り口を獲得するや映画に二重、三重の“うねり”が生まれ、そこに香るリアリティの魔法が観客とキャラクターとの心の距離をグッと近づけてしまうことだけは確かだ。その意味でも一見の価値ありと言えよう。


 ちなみに『ヒャッハー!』には前作があり、こちらもフランスで大ヒットした作品らしい。日本の配給会社が続編の方を先んじて発掘してしまったのも、まさしく“ファウンド・フッテージ”物らしいところ。いつの日か眠れる前作が発掘される日はやってくるのだろうか。(牛津厚信)