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アニメーションMVの良作続くーーP・ロビンソン&マデオン、GOUACHE 、さユりらの作品を解説

2016年11月20日 18:41  リアルサウンド

リアルサウンド

Porter Robinson & Madeon『シェルター』

 今回は、アニメーションMVのここ最近の注目作を紹介しようと思う。単に手法としてアニメーションを取り入れただけではなく、曲の世界観やアーティストの音楽性と深くからみあったような映像表現が成されているものをピックアップした。


(参考:紹介する5作品のMVはこちら


・Porter Robinson & Madeon『シェルター』


 まずはアメリカのエレクトロニック・ミュージックのシーンを牽引する若き俊英ポーター・ロビンソンが盟友マデオンとコラボした「SHELTER」。この曲はショートストーリー的な作りのミュージックビデオとなっている。


 「この先に何があるんだろう? いつからか、考えなくなった。考え方、それすら忘れてしまったのかも。変わらない、自分だけの世界が、毎日が続いていく。でも、淋しくはない。どうってことないんだ」


 という女の子の独白からMVは始まる。一人の可憐な女の子が、ベッドルームの中でタブレットを使ってVR的な世界を作り上げる。その仮想空間の中で彼女はかつての大事な思い出と父親に出会う。そうして、かつて訪れた黙示録的な危機状況の中で、女の子は自分が安全な場所(=SHELTER)に守られていたということを知る。そういうストーリーが描かれている。


 楽曲自身も、とてもエモーショナルで、とてもセンチメンタルだ。メロディと歌っている内容と映像も深く結びつている。大きなポイントは、ストーリーの原作をポーター・ロビンソン自身が手掛けていること。制作はポーター・ロビンソン自身が大ファンであることを公言しているアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を手掛けてきたアニメーションスタジオ・A-1 Picturesが担当し、1年以上の時間がかけられて映像が完成した。


 彼の音楽を深く聴けば、日本のアニメーション文化との関わりはきっと感じ取れることだろう。音楽が醸し出すイメージの根幹に、ある種の孤独や、目に見えないものを夢見するロマンティシズムが息づいていることがわかる。そして、それは日本のアニメが培ってきた想像力と感傷でもある。彼自身、ライブでのVJでは日本のアニメ素材を多用している。そのセンスが、彼のフィルターを通すことでグローバルな広がりを持って伝わっている。


 ダフト・パンクによるダンス・ミュージック屈指の名曲『ワン・モア・タイム』は松本零士とのコラボレーションによるミュージックビデオもとても感動的だったが、それと同じようなポテンシャルを持つ楽曲だと思う。


・GOUACHE(ガッシュ)「RED」


 GOUACHE(ガッシュ)とは、「カゲロウプロジェクト」を手掛けてきたじんが、GARNiDELiAのメイリア(Vo)らと共に新たに結成したバンド。バンド初の楽曲「RED」を、劇場版ムービー『MX4D™カゲロウデイズ – in a day’s -』の主題歌として公開した。


 曲の長さは2分5秒、BPMは200オーバーという強烈な疾走感と酩酊感を持つこの曲。音だけ聴いてもかなり格好いいのだけれど、MVで見るとその「よさ」が数割増しになるのがポイントだと思う。


 ミュージックビデオはA4Aの東市篤憲がディレクションを手掛けたマッシュアップムービー。これまでの「カゲロウプロジェクト」楽曲の映像と劇場版の映像の素材を元に作られたものなので、「RED」という曲の世界観と完璧にマッチングするかと言えば、実はそうではない。ただ、ミリ秒単位でカットアップされた映像と大写しの文字が次々に目に飛び込んでくるような映像のスピード感は、まさに楽曲のテイスト、そして「だんだん目が回って 夕焼けが燦々空に散って行った」という歌詞の描いている情景ともリンクしているように思う。


・RADWIMPS「スパークル [original ver.]」


 RADWIMPSのニューアルバム『人間開花』からの一曲。彼らが音楽を担当した映画『君の名は。』のサウンドトラックにも収録された「スパークル(movie ver.)」は映画の中でも重要なパートを担った楽曲だったが、そのオリジナルバージョンがこの曲だ。


 そして、この「スパークル [original ver.]」のミュージックビデオは新海誠監督が手掛けたもの。映画『君の名は。』を新たに編集し直した映像に加えて、MVのために新たに描き下ろされたカットを加えたものになっている。


 「スパークル [original ver.] –Your name. Music Video edition-」と題されたこのMVを観て改めて痛感するのは、新海誠監督とRADWIMPSというバンドが本当に深いところまで感性や価値観をぶつけ合ってクリエーションに当っていたんだな、ということ。


 以前にも当サイトで書いたように、(http://realsound.jp/2016/08/post-8839.html)、『君の名は。』という映画は音楽とアニメーションが今までになかった次元で融け合い、手を取り合った作品だった。


 だからこそ、新海誠監督も楽曲にぴたりと符合するMVを作ったのだと思う。


 アルバムについて、そして「光」という曲のMVについて(これもめちゃめちゃ素晴らしいのだ!)は、また改めて機会があったら書こうと思う。


・酸欠少女さユり「アノニマス」


 そのRADWIMPSの野田洋次郎が表題曲の楽曲提供・プロデュースを手掛けたシングル『フラレガイガール』をリリースする“酸欠少女”さユり。そのカップリングに収録された「アノニマス」は彼女自身が作詞作曲を手掛けているのだが、こちらのミュージックビデオも興味深い内容となっている。


 「2.5次元パラレルシンガーソングライター」をキャッチコピーに活躍する彼女。ライブではステージ前に紗幕が張られ、歌詞の言葉やビジュアルイメージと実際にステージに立つさユり自身の歌う姿が重なり合うようなパフォーマンスが繰り広げられる。アーティストのビジュアルにも、2次元のキャラクターイラストと3次元の写真が重なり合っている。彼女の歌詞の世界観は、現実世界の中で感じる息苦しさや違和感、そしてそこから一歩踏み出す決意や覚悟を描いたものが多い。そういう意味ではamazarashiの世界観に通じるものもある。ただ、さユりの場合は「レイヤーが重なり合っている」というのがポイントだろう。


 この「アノニマス」のMVでも新宿の街に立って裸足でアコースティック・ギターをかき鳴らす「さユり」(=3次元の彼女自身)に加え、後悔の象徴“さゆり”と、2次元キャラクター“サゆり”が登場するストーリーが描かれる。


 実写とCGが交錯する演出が、彼女の世界観と深くリンクしている。


・ポップしなないで「エレ樫」


 続いては「セカイ系おしゃべりポップ」を標榜する2人組ユニット、ポップしなないでの「エレ樫」。漂白されたセンチメンタルなトラックの上で、ちょっと脱力した感じのラップや歌が乗る。


 「孤独な彼女が握りしめるのは ゼンマイ仕掛けのウォークマン」という歌詞を歌うこの曲は、アニメーター・ryosuke oshiroがミュージックビデオを手がけている。パステルカラーな色合いのアニメーションの世界観は、キュートな絶望と乾いた諦念を感じる曲のテイストにすごくピッタリとフィットしている。


 12月21日には、初の全国流通盤となる5曲入りCD『Faster, POP! Kill! Kill!』をタワーレコードとAno(t)raksによるレーベル<LUCK>からリリース。このアートワークもryosuke oshiroが手掛けていて、トータルな統一感を感じられる一枚になっている。


 こうして5曲並べてみると、見えてくるものは沢山ある。以前の新譜キュレーションの原稿では「音楽と映画の新しい関係」について書いたが、(http://realsound.jp/2016/09/post-9358.html)、アニメーションMVという分野においても、音と映像とが深く結びついた良作が増えてきているようだ。


(柴 那典)