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lyrical schoolが明かす、アイドルラップの進化とビジョン「パーティ感満載のラップを広げたい」

2016年11月20日 18:41  リアルサウンド

リアルサウンド

lyrical school

 ヒップホップアイドルユニット・lyrical schoolが11月16日、メジャー1stフルアルバムとなる『guidebook』をリリースした。大江千里、韻シスト、GAKU-MC、かせきさいだぁ、サイプレス上野ら多彩な作家陣が顔を揃える今作は、彼女たちが積み重ねてきたアイドルラップとしての進化はもちろん、強いメロディーに導かれて「歌」としての強さも増した一枚になっている。さらに幅を広げたlyrical schoolはメジャー初のアルバムの手応えをどう感じているのだろうか。そして、Zepp Tokyoをファイナルとする年末の全国ツアーに向けてどのようなビジョンを持っているのか、メンバー5人に話を聞いた。(香月孝史)


・「今、ラップをやっている意味が込められた作品」(mei)


ーーメジャー1stアルバムとなる『guidebook』がリリースされました。今作は街のいろんな情景を集めて一枚のアルバムを描いているような印象があります。制作にあたって、どのようなイメージで作ろうという話があったのでしょうか?


mei:私たちが初めて出したフルアルバム『CITY』も街っぽいイメージがあったんですけど、『CITY』みたいなアルバムをこの機会に出せたらいいなというプロデューサーの考えもあって。ジャケットも女の子と男の子が街で待ち合わせしているイラストだし、タイトルも『guidebook』。ひとつの街の中でのときの流れと変化がコンセプトになっているので、時計台という言葉が歌詞に入っていたりと、みんなが物語をイメージできるようなアルバムをあらためて作ったのが今回の『guidebook』です。


ーー特にアルバム後半では、「リリシスト」「マジックアワー」「恋わずわず」と、メロディの強い歌ものの曲が多くなっています。歌への意識は強くなっていきましたか?


minan:かなり歌メロの印象が強い曲がたくさん入った一枚になっていると思います。なので、「歌がヘタ」ってバカにされたくないなって気持ちがすごくあって(笑)。歌も頑張ろうって、かなり強い意志を持ってレコーディングに取り組みました。ラップはもちろんなんですけど。


ami:アルバムができてみて、確かに歌メロが多いなとは感じました。ラップを聴いたことがない方の中には、歌メロが多いほうが聴きやすい人も多いと思います。なので、私たちも歌を頑張って強化していかないとっていう気持ちになっています。


ーーラップパートと歌メロを歌う時とでは、意識をはっきり切り替えるものですか?


minan:私はラップする時と歌を歌う時を比べると、声を出す場所が全然違います。意識的にそうしてるというわけじゃないんですけど、ラップしてる時はこっちの筋肉、歌う時はこっちの筋肉みたいなものが自分の中にあって、自然とそうなってますね。


hime:私は意識を変えてますね。ラップは本当に自己流だし、けっこうすぐレコーディングも終わったんですけど、歌のサビとかを録るときはヘッドホンの片耳からminanさんの歌声を流してもらって、minanさんの声をガイドにして歌いました。そうすることで、自然にその曲の自分の中でのイメージもできてきて。そうやって助けてもらいながらレコーディングしました。


ーー歌パートを録る時に先導するのはminanさんですか?


ami:基本的にminanが一番最初に歌って、みんながそれに続いて歌いやすくなるようなものを録ってくれるので、最初はminanにお願いしてます。


ーー今作はlyrical schoolに初めて曲提供される方々を含めて、参加されているアーティストの顔ぶれも多彩ですよね。


minan:もう、すごく嬉しいです。本当にありがたいなって思うと同時に、これだけ素敵な方々に作っていただいた楽曲なので、私たちが壊すわけにはいかないぞっていうプレッシャーみたいなものもありつつ。それも気持ちのいいものなんですけどね。ちゃんと歌っていきたいなっていう気持ちですね。


ーー「リリシスト」に楽曲提供されている大江千里さんについては、10月リリースのシングル『マジックアワー/格好悪いふられ方-リリスクの場合-』で「格好悪いふられ方」をサンプリングして収録していました。


mei:みんなが知っているメロディーなので、インストアイベントなどで歌っても今まで以上に立ち止まってくれる方がいたりして。大江千里さんの曲だと気づいてステージに近づいてきくれてるのかなとか思いながら歌っていました。嬉しいですね。


ーー『guidebook』ではメロディーの強い楽曲だけでなく、ラップの面でも進化した姿が見られます。「プレイルーム」ではサイプレス上野さんのカラーが強いリリックをlyrical schoolがマイクリレーしていくことでリリスク色に仕上げているのが面白いです。


minan:面白いですよね。録る時は、基本的に歌う順番で録っていくんです。


ami:順番とかを飛び飛びにして録っちゃうと雰囲気が変わっちゃったりもするので、順に録っていこうと。こういうマイクリレーが多い時でも、順に録っていくようにはしています。


ーーアルバム終盤に収録された「ラストソング」はまず、ラップがとても難しそうですよね。


minan:歴代ナンバーワンくらいに難易度が高かった一曲ですね。みんなそれぞれ、苦戦した場所があるんじゃないかなと思います。


hime:女の子がやるラップは特に、次に踏む場所やタイミングが想像つきやすいというか、わかりやすい流れのものが多い気がするんですけど、「ラストソング」は真逆ですね。まったくそういう想像がつかないところが難しくて。ビートも変則的じゃないですか。だからラップの乗せ方も一種類じゃないし、一番と二番とでも同じではなくて。難しかったですね。


ayaka:「ラストソング」は、今回のアルバムで一番難易度が高くて。去年のアルバム『SPOT』に収録されている「I.D.O.L.R.A.P」と同じくALI-KICK(ROMANCREW)さんに作っていただいた曲なんですけど、それをさらに超える難易度のものを私たちに作ってくださって。曲に負けてられないぞって気持ちで挑みました。


minan:この曲はプロデューサーのキムヤスヒロさんが、「難しいやつを作って欲しい」ってALI-KICKさんに依頼した曲で(笑)。だから最初はメンバーが苦戦することも承知の上での楽曲だったんです。レコーディングが終わってラフミックスができあがった時に、ALI-KICKさんからも「いいものになったね」って言っていただけたのでよかったなと。


ーー「ラストソング」は歌詞も時間軸が広くとられていて、世界観にも奥行きを感じます。


mei:「ラストソング」は今まで私たちがやってきたアイドルラップとしての成長があってこそ歌える曲なのかなと思います。今まで歌ってきた歌詞もいろんなところに散りばめられていたりもしているし、そこで思い描くこともあって。今、lyrical schoolがラップをやっている意味とかもたくさん込められた作品になっているので、私たち自身も、ジーンとしますね。


ami:ライブで早く「ラストソング」をやりたいなっていう気持ちもあるんですけど、すごく難しい曲なので、ちょっとドキドキしてる一曲でもあります。歌詞がエモーショナルなので、泣かないでやれるかなって少し思っちゃうくらい。そんな曲なので、ライブでやるときにはバシッと決めたいなって気持ちが強くあります。


・「アルバムではバシッと決まるテイクを持っていこうと」(hime)


ーーそしてメジャーデビューシングルだった「RUN and RUN」がアルバムの最後に収録されています。今年の春に歌っていた頃とは、この曲の意味もまた深まって変わってきているように思います。


ami:このアルバムの中で一番最後に収録されたことで、また違う意味を持ったかなと。ただ、それは聴いてくださる方々の感じ方だと思うので、私が決めつけるのはどうかなとは思うんですけど。でも、「RUN and RUN」がリリースされた頃は、みんなの背中を押すような応援ソングという印象が強かったように思います。今ももちろん応援ソングではあるけど、「大丈夫だよ、未来は明るいから今のリリスクを信じて」みたいな、なんて言えばいいかわからないんですけど、そういうことを伝える曲になってるようにも思えて。同じ曲なんですけど、感じ方が変わるものになってきて、面白いなと思いました。


ーー「RUN and RUN」以降の楽曲は、himeさんが加入して以降の歩みということにもなります。アルバム完成までを振り返っていかがですか?


hime:うーん、そうですね……。私、アルバムを出すのが初めてなんです。だから思い入れも強くて。シングルを3枚リリースして、だんだんと馴染んできたんですけど、アルバムの段階で初めて本当に馴染むのでは遅いかなと思って。なので、アルバムではバシッと決まるテイクを持っていこうと思ってレコーディングに挑んでいました。私は学校があっていつも最後にスタジオに入ってたので、他のみんなのテイクがほぼ出来上がってる状態でのレコーディングだったんです。だから馴染ませやすかったというのはありました。仮歌とみんなの声が入ったバージョンとでは、全然違うんですよ。前後関係ができあがった状態で、みんなの声を聴いてから録っていたのでやりやすかったですね。


ayaka:メジャーデビュー以降は、歌詞もhimeが歌うものとして作ってもらってるんですけど、ライブではそれ以前から私たちが歌ってきた曲も歌いますよね。himeが歌う箇所は本当にhime自身のパートとして生まれ変わっていて、ずっしりと芯がある感じです。minanが加入した時も思ったんですけど、自分のものにするっていうのが二人とも本当に上手で、すごいなと思って見ています。


ami:himeもminanも、すごく真面目に努力してそのパートに取り組むので。だからこそ、前のメンバーのファンだった方のことも考えていて、でもそのうえで自分のものにして披露するんです。うちらもそれに負けてられないっていう思いがあるので、そうやって気持ちが繋がってるぶん、馴染んでいくのかなって思います。


ーー今はフリースタイルバトルの流行りなどもあって、ラップが少し世の中に浸透しやすいタイミングにあると思います。そういう状況を意識することはありますか?


ami:どうだろう、初めてのイベントやインストアライブとかで、meiがあおってlyrical schoolを見たことがない人たちを盛り上げてくれたりというのも、けっこう前からやっていたりすることなので、自分たちが何か変わったというのはあんまりなくて、興味持ってくれる人が増えたのかなという感じかもしれないです。


minan:でも、ラップがブームみたいになってきているこのタイミングで、前回のシングルの「格好悪いふられ方」のサンプリングみたいな曲も持っているというのは心強いというか、いいタイミングだったかなと。


ayaka:ラップブームといっても男性のイメージが強いですよね。そこを女性だったりアイドルもこんなにラップができるんだぞっていうのをより知ってもらうには……どうすればいいんですか?(笑)


ーーでもlyrical schoolは、こういう女性ラップの仕方もあるんだということを何年も見せてきたグループだと思うんですよ。


ayaka:あ、でも今のこの状態で5、6年前に出ていたようなイベントに出たいです。その頃はヒップホップイベントにたくさん出てたんですよ。めっちゃやばかったよね。


ami:クラブイベントがすごく多かったね。


ーーSIMI LABと一緒に出演したりとか、実はそういうブッキングもけっこうありましたよね。


ayaka:今のこの状態で出たい! あの時はもう本当に怖くて。ラップし始めたばかりの頃でしたし、いつブーイング浴びるかわかんないと思ってました。でも実際は、一緒に出演していた方々皆さんとても優しくて。そこにびっくりしました。


ーーそういう時期も経て、アイドルラップとして見せ続けてきてくれたのは、その後いろんな女性ラップのバリエーションができてくるうえで大きかったのでは。


minan:私たちがやってるラップって、刺々しい部分が一切ないじゃないですか。棘とか毒々しさとか、たぶんそういう部分を見せるパフォーマンスって人目を引くところもあると思うんですけど、私たちのやっていることって、ひたすらハッピーでパーティー感満載で、平和的解決を望む、みたいな(笑)。そういう部分を前面に押し出して、それで戦ってきたので、私たちみたいなグループのラップももっと広がったらいいなと思います。


ーーメジャーデビューからの半年間はリリースのペースも早かったですが、ここまでは短かったですか?


minan:一瞬でした。


ami:もう、本当に一瞬。今年4月のメジャーデビューから、いま11月に入りましたけど、すっごく早くて。一年ってこんなに早いんだってびっくりしてます。


・「リリスクのハッピーなラップを聴いてもらいたい」(ami)


ーーそして年末にかけては全国ツアーがあります。初日の福岡公演ももうすぐですが、意気込みを聞かせてください。


ami:全国ツアーが11月27日から始まって、Zepp Tokyoでのツアーファイナルまで、1カ月くらいで一気に駆け抜けるんですけど、ワンマンライブの数が多いぶん、自分たちの成長するスピードもすごく早いと思うんですよ。このアルバムの曲をものにして、新しい今のlyrical schoolを見せていけたらなと思っています。最後のZepp Tokyoは満員にして、2016年最後のプレゼントとして、お客さんに最高のパフォーマンスを見せられたらなと思います。


hime:私は去年のツアーファイナルのZepp DiverCity公演を客席で見てたんです。今回はステージに立つ側として、前回泣くほど感動した気持ちをお客さんに味あわせてあげたくて。私が客席で見ていたその時のlyrical schoolが頂点だって思ってたんですけど。でも、今までlyrical schoolを見てきた人や前回のツアーファイナルを見てた人、新しく好きになってくれた人たちも、前回を超えるだろうと思って見に来てくださると思うから、自分で限界を作らずにラップもどんどん磨いて、音源以上に格好いいライブを見せたいと思います。


minan:以前、好きなアーティストのライブを観に行った時に、一緒に行った友達がそのアーティストのパフォーマンスを観て、隣でぼそっと「やばっ、口からCD音源!」って言ったんですよ。


mei:えっ?


minan:それくらい上手いっていう(笑)。


mei:そういうことか(笑)。


minan:「すっごい、その表現!」って思って(笑)。もちろん、ライブならではパフォーマンスや熱気もあるんですけど、その中でも歌はCD音源レベルに物凄いという土台がしっかりあって。私たちも『guidebook』という新たな武器を手に入れたので、それを全国ツアーで披露していくにあたって、CD音源以上のパフォーマンスを見せたいですし、それ以下はないと思っているので。自分たちのスキルも磨いて、やっていきたいなと思ってます。リリスクはライブが武器だって言っているので、それをきちんと実行できるようにしたいです。


mei:アルバムを発売するたびに毎回思うんですけど、ライブのパフォーマンス、表現の仕方が本当に一気にガラッと変わるんです。今はまだアルバム曲をあまり披露していないですけど、またさらに新しい曲が増えて楽しみです。今回の全国ツアーでは、以前よりも楽曲の幅が広くなったと思いますし、歌メロの多い曲も増えたので、lyrical schoolはこういう曲も歌うんだよっていうところも伝えていきたいなと思いますね。短い期間でワンマンライブをたくさんするので全国ツアーは自分たちにとってもすごく成長できる場なので、パワーアップして12月29日、ファイナルのZepp Tokyoに挑めたらいいなと思います。


ayaka:今回のアルバムで初めて私たちに歌を提供してくださった方も多くて、新しい武器を手に入れたので、このツアーで一個一個のライブを大切にして、最後にZepp Tokyoでパッと花開くように、いいライブを積み重ねていけたらいいなと思います。


ーーツアーファイナルが終わると、もう2017年です。来年に向けてはどんなビジョンを描いていますか?


hime:そうですね、来年かあ……。このアルバムでも「ラストソング」から「RUN and RUN」への流れで、ファンの方々に明るい未来を提示できてると思いますし、多方面から注目されていくと思うので、ちょっとでも気を緩めてラップのスキルが下がったら余計に目立ってしまうと思うので、来年も気を引き締めてラップに集中したいです。


ami:いつも目の前のことを精一杯やることしかできなくて。もちろん、先のことも考えてますし、明るい未来を想像してやってはいるんですけど。リリスクをたくさんの人に知っていただきたいです。それから、さっきayakaが6年前に出ていたようなライブにいま出たいって言いましたけど、そういうイベントに出るのも面白いんじゃないかなって。どういう反応が返ってくるかわからないですけど、そういう場でもいろんな方にリリスクのハッピーなラップを聴いてもらいたいなって思いました。


minan:うーん、2017年……。私、いつもあんまり目標って立てなくて。なんだろう。今の感じのままで、ふわふわキラキラしたラップをやっていけたらなと。今のlyrical schoolの世界観は引き続き持ちつつ、もっとたくさんの方に知ってもらう!それを目標にしたいです。


mei:全国ツアーが終わると、アルバム曲もさらに自分たちのものに染め上がってるんじゃないかなと思いますし、lyrical schoolのやっている音楽をもっとたくさんの方に広められたらいいなって思いますね。ヒップホップ、ラップが流行っている中で、ラップアイドルとして私たちがやっていることは違う色を持っているので、このジャンルを知ってほしいという気持ちがすごくあって。アイドル好き、ヒップホップ好きじゃない方にもlyrical schoolを入り口として、アイドルとヒップホップが苦手だった方にも触れてもらえたらいいなってすごく思いますね。それから、ライブではもうちょっとアウェーな現場というか、そういう場所でも成長できたらいいなって思います。あとはフェスに出まくりたいです(笑)。


ayaka:今はツアーファイナルのZepp Tokyoに向けて頑張ってるんですけど、去年、当時の6人でZepp DiverCityでのツアーファイナルを終えた時、今までに感じたことがないくらいの達成感で、見えた景色がそれまでとまったく違ってて。それを今年、Zepp Tokyoでもう一回みんなで見たいなと思っています。それが終わって2017年に入るとすぐ、1月2、3日に『TOKYO IDOL PROJECT×@JAM ニューイヤープレミアムパーティ2017』があるんですよね。新しいお客さんも来やすいイベントがすぐにありますし、まずそこに向けて頑張りたいなと思います。
(取材・文=香月孝史)