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「ザ・ローリング・ストーンズはこの映画の柱」 『胸騒ぎのシチリア』監督インタビュー

2016年11月19日 15:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『胸騒ぎのシチリア』(c)2015 FRENESY FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED

 ティルダ・スウィントンが主演を務める映画『胸騒ぎのシチリア』が、本日11月19日に公開された。ジャック・ドレー監督がメガホンを取ったアラン・ドロン主演作『太陽が知っている』(1969年)を原案にした本作は、声帯の手術を受けたばかりでほとんど声を出すことができないロックスターのマリアン(スウィントン)、マリアンの恋人で映画監督のポール(マティアス・スーナールツ)、マリアンの元カレでカリスマ音楽プロデューサーのハリー(レイフ・ファインズ)、ハリーの娘ペン(ダコタ・ジョンソン)による、愛と欲望、誘惑と嫉妬が渦巻くセレブたちの四角関係を描いた人間ドラマだ。リアルサウンド映画部では、『ミラノ、愛に生きる』に続いてスウィントンとタッグを組んだ、監督のルカ・グァダニーノにメールインタビューを行ない、主演ティルダ・スウィントンとの映画制作や、劇中で楽曲が使用されているザ・ローリング・ストーンズなどについて答えてもらった。


参考:『胸騒ぎのシチリア』予告編、ティルダ・スウィントンが美しい島で叫び狂う


■「ティルダといることは家族といるみたいなもの」


ーー原案となった『太陽が知っている』から、踏襲しようとした部分と新たに挑戦しようとしたことを教えてください。


ルカ・グァダニーノ(以下、グァダニーノ):僕にとって『太陽が知っている』はスタート地点であり、それ以上ではなかった。ただ、オリジナル版をベースにしながら、“欲望”をテーマに掘り下げてみたら面白いのではと考えたんだ。それで、“欲望に駆られた4人”を登場させた。主人公のマリアンを中心に、彼らの人生が交わり、もがく姿を想像した時に、自分たちの人生を形成する“欲望の法則”を見つけたように感じた。目に見えるものだけが優先されるのではなく、答えを観客の考えに委ねる展開にしたかったんだ。


ーー主演のティルダ・スウィントンとは、前作『ミラノ、愛に生きる』と次作「Suspiria(原題)」でもタッグを組まれていますね。あなたにとって、彼女の役者としての魅力はなんでしょう?


グァダニーノ:ティルダは僕にとって、パートナーであり、素晴らしい友人だ。一緒に仕事ができることは純粋な喜びで幸せだよ。21年もの間、僕たちは絆を築いていたけど、それはいろいろな場所や、物語、キャラクターを創作していく中で形成されていった。人生を冒険や生きる喜びと捉えながらね。だから僕にとってティルダといることは家族といるみたいなものなんだ。彼女と一緒に仕事をするというのは、役者を演出するということではなく、映画制作者と組むということになる。僕は誰かとコラボレーションをする時、いつもそういったものを求めている。ティルダがこの企画に加わることになった時、彼女は変更前の脚本のダイアログ部分をすべて読んできたんだ。マリアンヌが声を失うという発想はティルダによって持ち込まれたもので、その発想は映画制作の中でもレベルの高い一例だと思うよ。


ーーレイフ・ファイン演じるハリーはザ・ローリング・ストーンズのプロデューサーという設定で、劇中では彼らの楽曲も効果的に使用されています。ザ・ローリング・ストーンズを劇中に盛り込むというアイデアはどこから生まれたのでしょうか?


グァダニーノ:ザ・ローリング・ストーンズは、映画の舞台であるパンテッレリーア島と並んで、この映画の柱になっている。スタジオカナル(本作の製作会社)で初めて友人に会った時、僕はこう言った。「これはロックンロールであり、パンテッレリーアの映画である」とね。ロックンロールとは、ザ・ローリング・ストーンズのことだ。ザ・ローリング・ストーンズを知らなければ、ロックンロールを知っているとは言えないからね。そして僕たちは、バンドとマネジメントと慎重かつ丁寧に連絡を取り始めたんだ。ローマで彼らがコンサートをやっている時に会いに行き、ロン・ウッドとチャーリー・ワッツに会うことができた。彼らは洗練されていて、感じがよくて、しかも僕たちに助言をくれたんだ。例えば、彼らが1994年に発表したアルバム『Voodoo Lounge』内の楽曲「Moon is Up」では、曲を作るにあたって、ドラムではなくゴミ箱を使ったというエピソードを教えてもらった。ストーンズの協力によって、ハリーのキャラクター設定の精度が上がったんだ。登場人物の過去をストーンズの歴史に組み込めたことは、僕たちにとっても素晴らしいことだった。ちなみに、ティルダ演じるロック歌手マリアンについて、僕はクリッシー・ハインドを参考にしたよ。


■「15歳の頃の思い出が製作の根底にあったのかもしれない」


ーーストーンズの音楽もパンテッレリーアの街並みもそうですが、ラフ・シモンズが手がけたDiorのファッションなども、“出演者”として大きな役割を果たしているように感じました。監督自身は、音楽や衣装、ロケーションなどの要素は映画にとってどのような存在だと考えていますか?


グァダニーノ:映画撮影の要素は僕だけが考えているわけではないから難しい質問だけど、僕は映画を音と映像で力強くしたいということを最優先している。だからと言って、ロケーションをただの受動的な背景にはしたくない。パンテッレリーア島に、キャラクターたちの理性を破壊して、粉々にして、かき乱してほしかった。この島は、4人が互いに溺れていく様を描ける場所として、素晴らしい役目を果たしてくれたよ。


ーーシチリア生まれのあなたがこの場所で撮影を行うことは何か役立つことはありましたか?


グァダニーノ:このストーリーについて考え始めた時、僕は登場人物たちの“嫉妬と欲望”をシチリア州にあるパンテッレリーア島の景色とともに映し出したいと思った。パンテッレリーアに初めて行ったのは15歳の時。大勢の友人とね。初めての両親のいない休暇で、初めて自由を得たんだ。僕たちは1人ひとりアイデンティティを探していた。誰が誰を、どう欲しているかということをね。僕は若者たちの間抜けなとげとげしさにとても影響を受けた。この映画と同様、風がとても怖かったのを覚えている。僕たちの家があった谷に吹いていた不気味な風を。あの休暇は、僕を“今の僕”に導いてくれた、人生における変化の瞬間だった。そんな思い出が、製作の根底にあったのかもしれないね。(宮川翔)