トップへ

さかいゆうが語る、音楽への情熱とポップスの難しさ「止まることもなく、ずっと続けてる」

2016年11月19日 14:21  リアルサウンド

リアルサウンド

さかいゆう(写真=池田真理)

さかいゆうが7thシングル『再燃SHOW』をリリースする。映画『幸福のアリバイ~Picture~』(原案 / 監督 陣内孝則)の主題歌として制作された表題曲は“人生は何度でも再燃させることができる”というメッセージを反映させたナンバー。4つ打ちをベースにしたダンサブルなサウンド、しなやかなグルーヴを感じさせるメロディを含め、さかいゆうの新境地とも言える楽曲に仕上がっている。


 今回のインタビューでは「再燃SHOW」の制作プロセスを軸にしながら、アルバム『4YU』以降のビジョン、シンガーソングライターとしてのスタンス、ポップスに対する考え方などについても幅広く語ってもらった。(森朋之)


・「いろんな音楽が受け入れられているのは、幸せなこと」


ーーまずは4thアルバム『4YU』(2016年2月リリース)以降の活動について聞かせてください。ツアー、イベントなども精力的に行っていましたが、制作も続けていたんですか?


さかいゆう:いろいろと曲を書き貯めていましたね。けっこう数はあるんですけど、もうちょっと考えてみようと思って、まだぜんぜん取り掛かってはいないんですけど。方向性も決めてないです。


ーー新しい方向性、ビジョンを模索する時期でもあった?


さかいゆう:うーん、僕の場合は「曲を書くことがすべて」という感じなんですよね。ただ、これから音楽は変わっていきそうな気がしています。トランプさんが大統領になったし(笑)。


ーーかなり衝撃的な結果でしたからね。


さかいゆう:社会の変化と音楽は密接に関わってるから、こういうときってすごい音楽が生まれたりするんですよね。芸術に携わっている人にとっては、悲しいことがあったとしても、それがマイナスにならないこともあるので。僕の場合は純粋に音楽が好きでやってるから、幸せだろうが何だろうが、作る音楽にはあまり関係なくて。その点はけっこう強いのかなって思いますね。15年以上淡々とやり続けてきて……そういう意味では、スーパー等身大ミュージックなんだと思います。


ーー音楽を聴くことも変わらずに好きですよね?


さかいゆう:はい。もっと趣味がほしいと思うくらい、“音楽、酒。以上”というのが僕のリアルライフなので。新しい音楽って、自分にとってはサプリメントみたいなものなんですよ。いろんな音楽を聴いて、それが“さかいゆう”っていうフィルターを通って、そこに引っかかったものに影響されて、また音楽を作って。そういう体質になってるんですよね。そこまで「新しいものを聴こう」って意識しているわけではないけど、自然と入ってきますから。CDショップに行って、自分の音楽とはあまり関連性のないアーティストのアルバムを試聴して、「いいな」と思って買ったりもするし。それでどこまでフォローできているかはわからないですけどね。


ーーポップスをやっている以上、できるだけたくさんのリスナーに聴かれることも大事だと思いますが、自分がやりたいこととポピュラリティのバランスについてはどう捉えてますか?


さかいゆう:そのバランスはあまりないかもしれません(笑)。まあ、ジャズもロックもポップスだし、キューバに行けばラテンもポップスですから。「僕らにとってのポップスとは何か?」というのは哲学的なテーマでもあるし、ふだんはあまり考えないです。流行ってるものが最新かと言えば、そうでもないですからね。最近はハイトーン(のボーカル)が多いけど、マイケル・ブーブレみたいに低い声のボーカリストも人気だったりするから、一概には言えないじゃないですか。ただ、そうやっていろんな音楽が受け入れられているのは、幸せだなとは思いますけどね。何でも聴けるし、何でも吸収できる時代にいられるのはラッキーだなって。ここからどうなっていくかはわからないですけど。


・「長く続けるためには再燃の技術が必要」


ーーニューシングル「再燃SHOW」からも、さかいさんの多様な音楽性が感じられました。この曲は映画『幸福のアリバイ~Picture~』の主題歌ですが、どんなテーマで制作されたんですか?


さかいゆう:映画を観させてもらってから作りました。トレーニングじゃないですけど、ふだん映画を観るときも「自分だったら、どういう主題歌を書くかな」って思っていたりするので、お題をもらえる書き下ろしはありがたいですね。今回の場合は自然にこういう曲が出て来たから、それを録音したって言う感じですね(笑)。


ーー当然、映画のストーリーやメッセージも反映されているわけですよね。


さかいゆう:はい。いろんな人の失敗だったり、ダサいところ、恥ずかしい部分がおもしろおかしく描かれていて、人間のことが好きになれる映画だなと思って。ミュージシャンでも何でもそうですけど、人生のなかで、何回も燃える技術ってすごく大事だと思うんですよね。


ーーたとえ失敗したとしても、自分の気持ちを燃え上がらせることが必要だと。


さかいゆう:そうですね。音楽を長くやっている方、60代、70代になっても現役でやられてる方って、自分のパッションを燃え上がらせるのが上手いと思うんですよ。めちゃくちゃ激しく燃え上がり過ぎて死んでしまう人もいますけど、長く続けるためには再燃の技術が必要なので。幕末みたいに激しく時代が動いているときは研ぎ澄まされた芸術が生まれたりしますけど、僕らは平々凡々のなかでもモノを作っていかなくちゃいけないですからね。


ーーなるほど。さかいさんの音楽人生はまだ前半だと思いますが……。


さかいゆう:うん、めちゃくちゃ前半ですね。まだ何もやってないです(笑)。


ーー現時点では、パッションを再燃させる必要もない?


さかいゆう:うーん……僕はずっと弱火くらいですかね(笑)。20代の頃から「じっくり、隠れてやりたい」と思ってましたから。強火だったら、もっと早く何らかのアクションを起こしてたんじゃないですかね。だから30才デビューなんですよ。そう考えると“走る”より“歩く”っていう感じかもしれないですね。止まることもなく、ずっと続けてるというか。ふだんの生活のなかで、嬉しいこととか悲しいこととかワクワクするようなことがあって、それをもとにして曲を書き続けて。だから、今回みたいにタイアップのお話をいただけるのはありがたいですね。映画にも同じ世の中を生きているなかで感じていることが表現されているし、そこに向けて曲を書くのも好きなので。こういう応援ソングもいままでやってなかったし、助かりました。


ーーモチベーションを再燃させるという意味では、たとえばポール・マッカートニーのように、バンドを組むとか、新しいプロデューサーを招くといった方法もありますが。


さかいゆう:エリック・クラプトンも腕のいいプロデューサーを起用してるし、そういうことも“再燃”の技術だと思います。もしかしたら男女の違いもあるかもしれないですね。日本の女性アーティストは男性のプロデューサーやディレクターがいる場合が多いし、自分でプロデュースするタイプの方でも、その都度、いろんな才能を取り入れている印象があって。男のミュージシャンはマイペースな人が多いような気がするんですよね。長く活躍されている男性ミュージシャンって、みなさん独特じゃないですか。良い意味でまわりの意見は聞いてないというか。


ーーそうかも(笑)。


さかいゆう:まわりの意見を聞きながら音楽をやっていると、お客さんにも伝わっちゃう気がするんですよね。「こいつ、やらされてるな」って思えばシラけるし、興奮しないんじゃないかなって。年齢とかキャリアではなくて、そのアーティストのパワーを感じられないと惹かれないというか。人の意見を聞きすぎたり、空気を読んでばかりだと、音楽にもパワーがなくなる気がするんですよ。もちろん僕も例外じゃないから、人の言うことに振り回されないように、淡々と自分のことをやっていますけどね(笑)。それを何年続けられるかが勝負でしょうね。いずれにしても、ひとつひとつ純度が高い曲を作るだけですよ、僕は。作品同士の関連性も考えていないし、ひとつひとつの作品が勝負なので。


ーーマイペースに自分の表現を追求している印象はありますね、確かに。流行やトレンドも意識してないですよね?


さかいゆう:流行ってる音楽も聴いてますけどね。ただ、自分が心から楽しめないとやらないし、ちゃんとフィルターを通して咀嚼したうえで作った曲じゃないと、3年後には歌ってないと思うので。と言いつつ、僕は一応、まわりの意見は聞いてますけどね。「さかいゆうからどんな曲が出て来たらワクワクする?」って3人くらいに(参考になる)曲を出してもらって。それを聴いて「さあ、自分の音楽をやろう」っていう(笑)。直接的にはあまり関係ないかもしれないけど、出してくれた曲のなかには結構カッコいいものもあるし、レコード会社や事務所のスタッフが言ってくれることも参考にはなりますね。音楽の聴き方がミュージシャンとは違いますから。ただ、そういう意見を聞くのは多くても2人か3人まで。やっぱりトリオくらいの人数がいちばんいいんですよ。バンドの最小人数も3人だし。


・「ポップシンガーはその人自身が売れないと意味がない」


ーーシングルの2曲目に収録されている「Drowning」は「いま、さかいゆうがダンスミュージックをやればこうなる」という楽曲だと感じました。オリエンタルな雰囲気が少し感じられたり、いろんな音楽の要素が混ざっているのも、さかいさんの個性ですよね。


さかいゆう:うん、「Drowning」はダンスミュージックですね。シティポップ、ファンク、ディスコなんかが混ざっていて。シンセの感じはザ・ウィークエンドを意識してるんですけど、出来上がってみるとジャンルがわからない曲になりましたね。やっぱりジャンルは関係ないんですよ。グッドミュージックはグッドミュージックだし、僕もそういう音楽をやりたいと思ってるので。作品を作れば作るほど、ひとつのジャンルに属せない感じになってますけどね、僕の場合は(笑)。ずっと前にユーミンさんがインタビューで「じつはポップシンガーがいちばん孤独」ということを仰ってたんですけど、その通りだなって思います。


ーーポップシンガーの孤独というのは、具体的にどういうことなんですか?


さかいゆう:ポップスをやる人は、自分そのものが売れないとダメなんですよ。たとえばレゲエを好きな人は日本にも何万人かいて、新しいレゲエのアーティストが登場したら、そのうちの何千人かはCDを買うと思うんです。ロックもそうだし、ヒップホップもそうですよね。そう考えると、ジャンルに属せないポップシンガーがいちばん孤独なんですよ。そのジャンルのなかで売れるんじゃなくて、その人自身が売れないと意味がないから。


ーーなるほど。ジャンルに属せない部分、ポップスのほうが音楽的な自由度は高いのでは?


さかいゆう:確かにいろんなことは出来るけど、シンガーソングライターということで言えば「歌詞と声が聴ければいい」というリスナーの方も多いですからね。僕の場合はさらにわかりづらいというか、たとえば「Drowning」はダンスミュージックだけど、僕はダンスしないじゃないですか。ブルーノ・マーズみたいに踊って表現する人もいますけど、僕は音楽だけに頼ってるところが大きいと思います。まあ、この体型で踊っても笑われるだけなんで(笑)。


ーーでも、ダンスミュージックは好きですよね?


さかいゆう:好きですね。ダンサブルなライブをやってみたいなと思うこともあるんですよ。大きい会場で1万人くらいの人たちと一緒に楽しむというか、そういう状況でしか得られない一体感ってありますから。ただ、いまのところはホールでライブをやることが多いし、楽曲をしっかり聴かせるということを意識していますね。


ーーパフォーマーというより、あくまでも楽曲のクオリティで勝負すると。


さかいゆう:まあ、そうなんでしょうね。細かい部分まで音を聴いてもらいたいという欲がどうしても勝っちゃうから。それは音源も同じで、ミックスやマスタリングにもすごくこだわってるんですよね。


ーー今回のシングルの音もいいですからね。低音がしっかり出ていて。


さかいゆう:うん、ローが出てるっていうのは大事なので。ずっと洋楽を聴いてきたせいもあるんですけど、低音がしっかり聴こえていてほしいんですよね。そのうえで日本人的な繊細さを反映できるのがいちばんいいと思ってます。“パワー+繊細さ”というか。洋楽には花鳥風月を感じさせるところがないし、ずっと聴いていると疲れてくるんですよ、僕は。自分の音源に関しては、パワフルなローも欲しいし、すべての音の細かい部分まで聴こえてほしいし、さらにボーカルの息づかいまで伝えたくて。すごく大変ですよ、ミックスとかマスタリングは。そのぶん、出来上がった曲は楽しんで聴けるんです。自分の音楽がいちばん好きですからね。


ーー3曲目の「But It’s OK!」はR&Bテイストのミディアムチューンですね。


さかいゆう:3曲のなかではいちばんエネルギッシュかもしれないですね。歌詞はドラマ(NHKプレミアムドラマ『受験のシンデレラ』)の台本を読ませてもらってから書きました。僕も一応、受験生をやっていたことがあるので、そのときのことを思い出して。あまり大学に行く気もなかったし、受験した学校も忘れちゃってるくらいなんですけど(笑)。その時期に(音楽を志していた)友達が亡くなって、音楽の道を目指し始めて……。いま振り返ってみると、中学を卒業したら高校に行かないで、すぐにミュージシャンをやれば良かったと思いますね。高校で勉強したことなんてぜんぜん覚えてないし。まあ、人それぞれにタイミングがあるから、しょうがないですけど。


ーーニューシングルの初回生産限定盤の特典CDには、11月21日から始まる全国ツアー『POP TO THE WORLD』のリハーサル音源4曲を収録。今回のツアーはどうなりそうですか?


さかいゆう:バンドっぽいライブになると思いますね。いままではスーパーミュージシャンたちによるJ-POPという感じだったんですけど、今回はバンドらしさを出そうと思っていて。バンドでやれることを凝縮して、カッコいい部分を抽出するというか……上手く説明できないけど、ライブを観てもらえればわかりますよ。すでにバンドの一体感がハンパないし、ストイックな良いライブになると思うので。


ーー12月21日NHK大阪ホール、25日の中野サンプラザの公演は『“POP TO THE WORLD” SPECIAL』というタイトルが付けられていますね。


さかいゆう:クリスマス・スペシャルですね。これも初めてなんですけど、クリスマスソングを何曲か演奏しようと思っていて。洋楽、邦楽それぞれ2~3曲やる予定なんですけど、さかいゆうにしか出来ない選曲だし、みなさんにも喜んでもらえると思いますね。
(取材・文=森朋之)