スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。今週末開催されるFIM CEV欧州選手権の最終戦バレンシアでは、4人の日本人ライダーがスポット参戦し、合計9名が出場する。しかし近年、日本人ライダーが世界に挑むことは非常に厳しいといわれている。果たしてその理由とは……?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■世界の舞台に挑戦する若手の日本人ライダー
11月13日にバレンシアで今季のMotoGP最終戦が終わった後、日本人の方はバイクレースのシーズンがほぼ終わったと思ったのではないだろうか。スペインでは、FIM CEV欧州選手権があと1戦残っており、世界に才能を示すチャンスがある。そして、そのレースはMotoGP最終戦の1週間後に行われるのだ。
モーターサイクル・レーシングを数年に渡って追っているファンなら、恐らくFIM CEV欧州選手権の名前を知っているだろう。というのも、このシリーズはスペイン選手権が原点となっている。そして、その選手権は南ヨーロッパ、特にイタリアやスペインのチームやライダー、組織の文化が背景となっている。
しかし、スペイン人やイタリア人のライダーだけがこの競技に参加しているわけではない。世界各国からライダーたちがチャンスをつかみ、世界の舞台でよい印象を与えようと懸命に努力して集ってくるのだ。この中には少数ながら日本人ライダーも含まれており、フルタイムで参戦している者もいる。
それはアジア・タレント・チームからMoto3クラスに参戦している真崎一輝や鳥羽海渡、佐々木歩夢や、Moto2クラスに参戦している山田誓己と長島哲太のことだ。そして、バレンシアでのレースはCEVの最終戦となるため、数名の日本人ライダーもスポット参加する予定となっている。
ホンダ・チーム・アジアからアジアロードレース選手権に参戦する中村大輝と全日本ロードレースのJ-GP3クラスでランキング2位となった栗原佳祐がMoto3クラスに参戦。Moto2クラスにはアジアロードレース選手権に参戦する羽田大河が出場する。またチームカガヤマで今季J-GP2のチャンピオンを獲得した浦本修充がスーパーバイククラスのレースに参戦するのだ。
スポット参戦する彼らは、細かい技術や速さを持っているだろうが、それらよりももっと重要なことは、文化と“日常生活”にある。
■日本人ライダーがヨーロッパで活動する難しさ
もし将来有望な若いスペイン人ライダーに、日本へ行き全日本ロードレース選手権に参戦するように頼んだとしたら、彼らは悪戦苦闘するだろう。言葉の違う、初めて行く国に移り住むことは、大人でさえ怖気づくようなことなのだから、若いレーサーたちにとってみればトラウマとなる出来事になるであろう。
こういった例は、CEVに挑戦する日本人ライダーにも言えることだ。
モーターサイクルの世界において、日本人ライダーは優れた仕事への倫理と姿勢を兼ね備えており、素晴らしいチームプレイヤーとして評価されている。しかし同時に、丁寧で、時に几帳面な日本文化はスペインやイタリアなど南ヨーロッパの文化とは真逆なのだ。
ヨーロッパのチームは世界を制覇できるような気の強い若者を求めている一方で、控えめな性格の日本人は現実の厳しさを味わうのだ。
優れたスペイン人ライダーたちは個人主義的であるため、どこかへ旅行をするといったことは彼らにとって問題ではない。その一方、才能ある日本人にとって、スペインに移り住むといったことは、未だに高い壁であり、ヨーロッパに住むことは困難なことだろう。家族や友人から離れて暮らすことによる不安などが、成功の可能性を減らしかねない。我々は優れた才能を持った日本人がヨーロッパに渡り、世界選手権にアピールする前に姿を消してしまう例を何年にも渡って目の当たりにしてきた。
これは、CEVに参戦している多くのチームがスペインのチームであり、クルーのほとんどがまともに英語を話せないために発生してしまう問題でもある。メカニックとコミュニケーションをとり、迅速に問題を解決できるスペイン人ライダーにとってはハンディキャップにならないが、日本人が同じことをしようとすると乱雑になってしまう。そして自分自身を磨くために使わなくてはならない時間の一部が、結局はコミュニケーションをとるための言語習得に費やされる。
言語が障壁となり、文化の違いが溝となれば、それらの障害を乗り越えようとする時間が有望な若手ライダーたちから速くなるための時間を奪っているのだ。
スペイン人は自分たちがどのように振る舞いどのように働くかを心得ている人々と母国語で語り合い、レースを楽しみ、レースが終われば家へ帰る。一方日本人は、国の言葉を知らずにレーストラックへ向かうだろうし、所属するチームは日本人選手から最大を引き出す方法を把握していない。そしてレースが終われば、家族や友人が暮らす何千キロメートルも離れた日本ではなく、スペインにある家へと帰るのだ。
こういった背景が、元GPライダーである上田昇が立ち上げたTeam NOBBYのようなプロジェクトが存在している理由だろう。このプロジェクトでは、スペイン人チームの強みと知識を組み合わせることにより、チームの能力を最大限に引き出すことができている。
ホンダが所有しているチーム・アジアも、成熟した日本チームであり、よい選択肢だ。カギは環境に適応することであり、何人かの日本人ライダーは実際に成功している。
長島哲太は数多くの困難を乗り越え、FIM CEVのMoto2クラスで多くの表彰台を獲得し、ランキング3位につけている。またMoto3クラスでは鳥羽海斗がバレンシアでの1勝によりランキング3位につけ、参戦している3人の日本人ライダーもランキングでトップ7以内に入っている。
日本人は新たな地平に立ったようだ。困難な環境に順応するという逆境に打ち勝ち、彼らは外国人ライダーたちにとって恐れられる対戦相手になりつつあるのだ。そして少しずつではあるものの、日出づる国はその爪を研ぎ澄ましつつある。