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今夜『Mステ』で初披露! 桑田佳祐の新曲『君への手紙』はなぜ“万人に届く名曲”と呼べるのか?

2016年11月18日 17:02  リアルサウンド

リアルサウンド

桑田佳祐

 久しぶりに名曲を堪能したなあ、というのが率直な感想だ。桑田佳祐の新曲「君への手紙」には“名曲”という看板がふさわしい。それも、この曲を耳にしたたいていの人が納得できるレベルではないだろうか。もちろん人によって名曲の定義は違うので、すべての人に同意してもらえるとは思わない。しかし、彼の多彩なリリース・アイテムの中に、時折入ってくるこういうタイプの楽曲こそ“名曲”という印象が強いし、実際に多くのファンも同じことを感じるに違いない。しかも、リリース前の早い段階でミュージック・ビデオが公開されて話題になっているし、リリースに先がけ「ミュージック・ステーション」に出演して初披露もするという。


(参考=桑田佳祐の新曲「君への手紙」いち早く聴いた! 小貫信昭が「ヨシ子さん」からの流れを読む


 今回の新曲「君への手紙」は、いわゆるミディアム・テンポのロッカ・バラードだ。切ない歌詞とメロディーが、心地よいミドル・テンポのリズムとシンプルな演奏に乗せて披露される。これまでの桑田のディスコグラフィーを振り返れば、こういったタイプはいわば王道中の王道といえる。古くはサザンオールスターズの「いとしのエリー」(1979年)に始まり、「Ya Ya (あの時代を忘れない)」(1982年)、「さよならベイビー」(1989年)、「真夏の果実」(1990年)、「BLUE HEAVEN」(1997年)、「TSUNAMI」(2000年)、「彩 ~Aja~」(2004年)と、サザンの桑田としても数年ごとに多くの名曲を生み出し続けてきた。ソロとしては「いつか何処かで (I FEEL THE ECHO)」(1988年)や「白い恋人達」(2001年)などがそのカテゴリに入るといえるだろう。


 しかし、ミディアム・バラードが桑田の王道とはいえ、ここしばらくこういったタイプの楽曲はシングルとして発表してはいなかった。この6月にリリースされた前作のシングル「ヨシ子さん」はエスニック・テイストの異色作だったし、その前の「Yin Yang(イヤン)」(2013年)もいかがわしさ満載の歌謡R&B的な楽曲だったから、そのギャップは非常に大きい。ここ数年の流れでいえば、アコースティック・ギターで始まるというサウンド面の類似から、フォーク・ロック風の「明日へのマーチ」(2011年)がいちばん近い質感を感じるが、この曲はアップテンポでバラードではない。いわゆる桑田らしい王道ミディアム・バラードということに絞ると、2007年の「風の詩を聴かせて」以来ということになる。


 こういった過去のミディアム・バラードの例に漏れず、「君への手紙」も普遍性を持つ歌詞に仕上っている。わかりやすい言葉で切ない世界が綴られているのは彼の得意技といってもいいだろう。この歌の主人公は、ある程度年齢を重ねてきた男である。過去の恋愛も含めた人生を振り返りつつも、今を生きている。ノスタルジックな気分を醸し出すことでさらりと年輪を感じさせながらも、しかもけっして過去に縛られ過ぎないというバランス感覚は絶妙だ。湿っぽくならず、適度にドライな質感もこの曲の特筆すべきところといえるし、そのことが年齢や性別を超えて心を打つ要因にもなっている。また、アコースティックでフォーキーな導入部でありながら、中盤では中期ビートルズを思わせるブリティッシュなテイストを加えたアレンジもユニークだ。そしてこういった細やかな要素を過度に主張することもなく、ナチュラルにメロディーとサウンドを溶け込ませているのがさすが。どこを切り取っても、文句なしの一曲なのだ。


 さて、冒頭の“名曲”の話に戻るとするならば、いい曲を作った、歌ったというところでは先述の通りすでにクリアしており、次は多くのリスナーに届ける段階へと入る。その目玉が、今夜の「ミュージック・ステーション」出演だ。前回は「ヨシコさん」の時に3年半振り、しかも2週連続の出演ということで話題になったが、今回は半年も待たずしての出演となる。ただ、「君への手紙」のようなシリアスなナンバーはかなり久しぶりということもあり、いつもとは一味違うパフォーマンスに期待できる。そして、この出演で大きな花火を打ち上げた後は、リスナーがどこまでこの曲を育てていってくれるのかが、今後“名曲”として残っていくかどうかの指標にもなってくるだろう。「君への手紙」が発するメッセージが、聴く者の心にどれくらい影響を与えられるのか。今の世相にどこまで響かせられるのか。大いに期待して楽曲の成長を見守りたいと思う。(文=栗本 斉)