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丸本莉子は2年かけて、“悲しみ”をどう歌に昇華させたか?「希望も感じられる曲になった」

2016年11月18日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

丸本莉子(写真=池田真理)

 丸本莉子が11月30日にアルバム先行シングル『誰にもわからない』を配信リリースする。この楽曲は、ピアノの旋律と丸本の歌い出しからゆっくりと始まり、エレキギター、ドラム、ベースサウンドが徐々に熱を帯びていくバンドサウンド。ポップなイメージの強い彼女の楽曲からは、一線を画す仕上がりになっている。また、「誰にもわからない」というタイトルには丸本自身の強い思いが込められており、映像作家・白石タカヒロ氏が監督を務めたMVでは2人のダンサーによって、その思いが美しくダイナミックに表現されている。今回のインタビューでは、丸本が2年間をかけて作詞・作曲を手がけたという「誰にもわからない」の制作秘話から、MV撮影、3rdミニアルバム『誰にもわからない~何が幸せ?~』の構想にまで迫った。


・「何とも言えない気持ちを共感してもらえたら」


ーー丸本さんのデビュー前の動画を見直していたら、そこで「将来の目標」を答えていたんです。その時にどう答えたか覚えていますか?


丸本:死んでも歌い継がれる名曲を残すこと……ですか?


ーーはい。「誰にもわからない」はそんな名曲だと思います。


丸本:ありがとうございます。この曲は先にメロディが浮かんだ曲です。歌詞をつける時にこの<誰にもわからない>というフレーズが出てきて、タイトルになりました。2年前に一緒に仕事をしていたカメラマンさんが心臓発作で亡くなってしまったんです。それからずっとモヤモヤした感情があって。2年間をかけて歌詞を書いていきました。


ーーずっと「誰にもわからない」を書きたいという思いがあった。


丸本:カメラマンさんが亡くなった後、その方の写真を見ていた時にメロディが浮かんだんですけど、これをどういう風に歌詞にしたらいいかずっと考えていました。それからしばらくして、芸能人の方の訃報のニュースを観ていた時に「昨日まで元気な人が次の日にはいないということが普通に起こるのだな」と、どうにも言えない感情を歌にしたいと改めて思ったんです。「未来は誰にもわからない」という感情が強くあって。


ーーこのタイミングでリリース出来たきっかけは何だったのでしょう。


丸本:今年4月に開催したファンクラブイベントで、今までリリースした曲に加えて普段歌うことができない曲も歌う機会があって、この「誰にもわからない」を歌ったんです。そこに、ビクターのプロデューサーも来ていて、「リリースする価値がある曲ではないか」と言っていただき、話が進んでいきました。


ーーその時に歌詞は全て出来ていたんですか。


丸本:すでに出来てはいたのですが、作詞家の藤林聖子さんに聴いた人がより共感できるよう少し手を加えていただきました。元々あった「彼」という表現ではなく「あの子」にしていただいたり、自分の感情をしっかり表現できるようアドバイスをいただきました。私がうまく言葉にできなかった部分に藤林さんが<温(ぬる)い笑い声>という言葉を当てはめてくださったり。


ーー<温(ぬる)い笑い声>という表現は、雑踏で人とすれ違う際の情景が思い浮かびますね。その後の<唇を噛んでた>の歌詞からは共に夢を叶えられなかった悔しさが伝わってきます。


丸本:ありがとうございます。カメラマンさんとは仕事帰りの電車で一緒に帰ったり、よく私の相談相手になってくださっていました。そこで彼が「俺はカメラマンとして有名になりたい」と話していたことは、もう叶えられないんです。悔しいと思ったけれど、私はまだ夢を叶えられるし、この曲を歌えば夢を追いかけようというポジティブな気持ちも思い出す。そして彼が生きていた証になればという思いもあって作った曲です。


ーー<でもあの日夢を語っていた あの顔ばかりが浮かんでくる>という歌詞ともリンクします。


丸本:<あの顔ばかりが浮かんでくる>という歌詞は1番、2番の両サビに入っているのですが、それぞれ意味は違っていて。1番はその方が亡くなった時の悔しさ、2番はあの時夢を語っていた情景を表していて、もがきながらも今私は生きている、その先にある幸せは何だろうという思いで書きました。


ーー丸本さんは癒やしをテーマにずっと活動されているわけですが、今作はこれまでにないアプローチの楽曲になりました。


丸本:“癒やしの歌声”をテーマに活動していますが、音楽を聴いてモヤモヤとした感情がなくなったり、元気になったりすることが癒やしであり音楽だと思っています。そして「誰にもわからない」では、どうにもならない感情も言葉やメロディで表現することができ、聴いてくれた方にとって希望も感じられる曲になったんじゃないかと思います。種類は違えど、これも癒やしの一部なのかなと思います。


ーー新たな表現方法を見出せたんですね。


丸本:そうですね。この様な経験は誰もが経験していくことですし、何とも言えない気持ちを自分はこう思っていたとか、こういう感情だよねと共感してもらえたらと思います。


ーーまた、曲の構成も面白いと思っていて、最初にAメロが来て、最後にまたAメロで終わる。これまでの丸本さんの曲にはあまりなかった展開ですよね。


丸本:この曲はAメロが出来た時から最後もAメロで締めたいなと思って作ったんです。最後は<今もすれ違ったような気がしたんだ>という歌詞にしています。全ての出来事が嘘で、彼がどこかで生きていてくれたりしたら良いなと思うこともあったりして。


ーー<それは何でもないような一日>という歌詞も一巡しているように感じました。


丸本:そうですね。完結していない、ずっと続いている感じで作りました。


ーーサウンドはピアノのイントロから入って段々とバンドサウンドで熱を帯びていく仕上がりです。


丸本:アレンジャーの松岡モトキさんに初めて手がけて頂いて、この楽曲の格好良さを最大限に引き出していただけたと思っています。ボーカルとバンドサウンドはスタジオで別録りしたんですけど、バンドを録る時も私がブースで歌わせてもらいました。バンドで一斉に録るグルーヴを経験して、メンバー一丸となって作れたと思っています。


ーーレコーディングメンバーも松岡さんのほかに、沖山優司さん、河村“カースケ”智康さん、渡辺シュンスケさん、宮田“レフティ”リョウさんと錚々たるメンバーです。


丸本:同じスタジオで歌うことはできたのですが、ボーカルはブースに分かれ、ヘッドホンをしての録音だったので、次は同じ空間で収録したいです。


・「ありのままの思いを綴った楽曲を作ってみたい」


ーー「誰にもわからない」のMVも公開になっています。楽曲の世界観を表現したストーリー性のある映像、2人のダンサーが特徴的です。


丸本:映像作家の白石タカヒロさんに監督を務めて頂いたのですが、事前に「この曲はダンスで表現できたら」という案をいただいていて、撮影前から私も絶対格好良いMVになると思っていました。ダンスで陰と陽を表現していて、街中で撮影している高校生のAOIさんは自分で振り付けも考えてきてくれて。工藤響子さんは伊豆で白いドレスを着て撮影したのですが、ずっと雨が降っていたのが撮影開始の10分前に晴れて神秘的な映像が撮れました。


ーー丸本さんはリップシンクで収録されていますね。


丸本:監督は芸術肌の情熱的な方で「もっと感情をぶつけて」とリクエストがあって演じるのは難しかったです。


ーー「誰にもわからない」は“アルバム先行シングル”という名目ですが、3rdミニアルバムのレコーディングは順調ですか?


丸本:「誰にもわからない」はマイナー調の楽曲ですが、全体としてはポップなアルバムに仕上がりそうです。例えば、前作の「ガーベラの空」は、ありふれた日常の中で大切な人と一緒に過ごしたいという気持ちをこめたポップな楽曲でした。ミニアルバム全体を通して改めて「幸せとは何だろう」と考えることができるような1枚になればいいと思います。


ーー様々な幸せや癒やしの形が収められた作品になるということですね。ストリートライブプロジェクト『ライヴワーク2016~1万人との癒し旅』ではカバーを披露することも多いですが、次作にも収録されますか。


丸本:今回アレンジに参加して頂いた松岡さんに手がけていただいた中島みゆきさんの「糸」のカバーを収録する予定です。


ーーカバーはレギュラーパーソナリティーを務めるラジオ番組『Music Spice+!』(FM FUJI)でも披露しています。ラジオの経験をどう自身の作品や『ライヴワーク』に活かしていきたいですか?


丸本:ラジオでは時間が限られている中で、よりリスナーの方に自分の思いを伝えるにはどうしたら良いかと考えるので、それはライブのMC、ストリートライブでもお客さんにより届くように意識ができ、役立っています。


ーー年末には恒例のワンマンライブ『丸本ん家(ち)へようこそ~ぷれぜんとふぉーゆー2016~』が広島と東京で開催されます。


丸本:毎年クリスマスをテーマに、いつも応援してくださっているファンの方に恩返しする気持ちで歌っています。東京での開催は初めてで、広島は今年が4回目になります。昨年はユニコーンの手島いさむさんが出演してくださったり、ゆるキャラが登場してファンにプレゼントを贈ったりしたので、今年もライブ以外でも楽しめる企画を考えたいですね。ユニコーンの「雪が降る町」、松任谷由実さんの「恋人がサンタクロース」など毎年クリスマスソングを歌ってきたので、今年も何か歌いたいと思っています。


ーー楽しみにしています。インタビュー冒頭で「誰にもわからない」は名曲とお話しましたが、丸本さんにとってこの曲はどのような楽曲ですか?


丸本:みなさん今までと違う楽曲だと言ってくださるんです。でも、私の中ではこの曲だけが「新境地と言える曲が出来たぞ」という感じではなく、シングル全部同じような思いで作っています。今まではハッピーエンドを意識して作ってきたんですけど、答えのない曲もあってもいいということを表現できたのではないかと思います。答えがないにせよ、プラスな気持ちも入れることができて、自分の新しい一面が出せました。


ーー「誰にもわからない」は2年間思っていた気持ちを楽曲にしたものですが、ほかにも構想している曲や思いはありますか。


丸本:楽曲作りは「こういう感情を歌にしたい」というところから入っていくのですが、さまざまな感情がいくつも浮かんでいます。ただ、そこに肉付けしていくのが難しいのですが。今は結婚ソングを書きたいなと思っていますね。ハッピーなことだけじゃなく、結婚すれば相手のダメなところも見えてきたりする。そんなありのままの思いを綴った楽曲を作ってみたいです。(取材・文=渡辺彰浩)