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WRC:オジエよ、どこへ。英AUTOSPORT記者が占う移籍先

2016年11月18日 12:11  AUTOSPORT web

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フォルクスワーゲンの撤退で、来季のシートを突然失ったセバスチャン・オジエ
フォルクスワーゲンの世界ラリー選手権(WRC)撤退に伴い、世界最高のラリードライバーがマーケットに放たれた。だが、彼はどこに行くのだろうか。イギリスAutosport誌のラリー編集者であるデイビッド・エバンス(@davidevansrally)が予想する。

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 セバスチャン・オジエの行方について、同僚たちと議論をするとは数年前は想像もしていなかった。フォルクスワーゲンの“ディーゼルゲート”に端を発する騒動は、同社に150億ドルの賠償金を残しただけでなく、4度のワールチャンピオンから来季のクルマと仕事を奪ったのだ。

 オジエはどこに行くのか? そして何をするのか?

 もし昨シーズン半ばに、このシナリオをオジエに伝えていたら軽くあしらわれていただろう。

 彼にとっては幸運なことに、WRCの競技委員会は“掃除役”としての負担を軽減することを決めた。現行の出走順規定では、競技最初の2日間はポイントランキング順で走行順が決められ、最終日のみ当該イベントの総合順位に基いて走行することになっているが、来季からの新しいルールではポイントリーダーは初日のみ先頭で走ることとなる。

 このルールが改定されなければ、オジエはWRCから引退すると語っており、当時の上司であったヨースト・カピートもそのように確信していた。

 しかし、フォルクスワーゲンのスペシャルアドバイザーを務めるカルロス・サインツは「いずれににせよ、オジエはWRCにとどまるだろう」と語る。サインツはオジエのことをよく理解しており、あわせて6回シリーズを制覇しているふたりは互いを多いに尊敬しあっている。

「彼はこの出来事を新たな試練だと考えているだろう」

「彼は驚くことになるだろうし、がっかりすることにもなるだろう。だが彼はWRCにとどまるはずだ」

 また、オジエは週明けにも新チームとテストをする意向を示している。オジエがWRCに留まることははっきりした。だが彼はどこへ行くのだろう。候補を見てみよう。なお、ここから紹介する順序は硬度の高さではなく、アルファベット順だ。

■シトロエン:出戻りなるか
 オジエがデビューチームであるシトロエンに戻るという選択をするだろうか。私にはそう思えない。

 彼のWRCでのキャリアは当時のシトロエン代表であるオリビエ・ケネルに見出されたところから始まった。2009年にオジエがWRCデビューした当初からケネルは彼を支持していたが、チームメイトであるセバスチャン・ローブのチーム内での圧倒的な地位や上層部のローブ優遇により、ナンバーワン待遇を求めるオジエは2011年末でシトロエンと袂を分かった。

 現在のシトロエン代表であるイブ・マトンも、オジエが袂を分かつこととなった原因をすぐに指摘している。

 シトロエンは、オジエの行き先として、多くの人が真っ先に思い浮かべるだろう。フランス人のワールドチャンピオンドライバーがフランスのワールドチャンピオンチームに復帰するのだから。

 しかしながら疑問もある。マトンがどのようにして資金を工面するかだ。チームの懐はかつてのように暖かくはない。

 加えて、シトロエンCEOのリンダ・ジャクソンがオジエをチームに引き戻すために、資金をみつけ、もう少しだけ努力をする覚悟があるのかどうかもまだ分からない。

 シトロエンのエース格で、唯一オジエに対抗できるドライバーであるクリス・ミークは、驚くべきことにオジエ加入を歓迎するという。

 ミークは「あくまで個人的な意見だが」と前置きした上で、「オジエが他所で僕たちよりポテンシャルがありそうなマシンに乗っているよりも、チームメイトとして同じマシンに乗っているほうがいいね」と述べた。

■ヒュンダイ:ここに空きはない
 これはもしかすると一番簡単ですぐに答えが出る問いではないだろうか。 

 オジエにとって、ヒュンダイ加入はもっともあり得ない。ヒュンダイのチーム代表であるミシェル・ナンダンはすでにティエリー・ヌービル、ヘイデン・パッドン、それにダニ・ソルドと契約を結んでおり、この3名のラインアップを向こう2年間は維持すると語っているのだ。

 そして上記3名との契約は、まもなく効力を持ち交渉は終結する。入り込む隙はほとんどない。

 オジエとふたりの同僚が散り散りになるかどうかに関わらず、フォルクスワーゲンの撤退は来シーズンのヒュンダイにとって少なからずプラスの影響をもたらすと言ってよい。

■Mスポーツ:“3度目の正直”なるか
 マーカス・グロンホルムが去って以降、Mスポーツにスポットライトが当たることは少なかった。しかし、チーム代表のマルコム・ウィルソンがここまで興奮しているのを見るのは初めてだ。

 実はウィルソンは2005年にローブと契約寸前のところまで行っていた(その年にローブは極秘でフォード・フィエスタRS・WRCをテストしていた)し、6年前にはオジエとも契約寸前のところまで行っていた。彼は今度こそ、フランス生まれの“セバスチャン”は逃さないと心に決めたのである。

 もしシトロエンにとって資金調達が問題となるようであれば、Mスポーツも同じ問題に直面するだろう。しかし、オジエが示したパフォーマンスによってシトロエンが財布の紐を緩めたように、Mスポーツと協力関係にあるフォードが利益を享受する可能性もあるかもしれない。

「彼に5度目のワールドチャンピオンを取らせてやれるだけのマシンはあると自負している」。オジエとの交渉の可能性を明らかにしたウィルソンはそう語る。

 Mスポーツのエンジニアリング力に疑いの余地はなく、2017年仕様フィエスタRS WRCはモータースポーツ関係者から賞賛の声を集めている。マシンのエアロダイナミクスについては、マティアス・エクストロームがウィルソンにわざわざ電話をかけて、ウイングやエアロスプリッターの配置について意見したという。

 その上、オジエとウィルソンは互いに尊敬し合う間柄だ。

 そして忘れてはならないのが、オジエは時おりサーキットレースへも参加したがっている。MスポーツがGTプログラムを始動させれば、あるいは……。

■トヨタ:荷が重すぎる?
 この選択肢は、現在あるもののなかでもっとも実現性が高いものであるべきだ。

 トヨタのWRC復帰については、今年多くの人々が議論を行ってきた。チームの開発スケジュールも断続的に早まったり、遅れたりを繰り返してきた。

 オジエにとって、トヨタ加入は最大のギャンブルになるだろう。しかし、このチームは現在残されている選択肢のなかでは、もっとも高い給料を支払い、長期契約をオファーすることは間違いない。

 また、今週末のWRC第13戦オーストラリア終了後にオジエはフォルクスワーゲンの一流エンジニアを引き連れて、トヨタのファクトリーを訪れる可能性もあるかもしれない。

 チーム代表のトミ・マキネンが興味を示していることは疑いようがない。ただ、ワールチャンピオンを招き入れることは、WRC復帰初年度のトヨタには荷が重すぎるかもしれない。

■記者が占う移籍先
 理性的に決めるなら? シトロエンを選ぶだろう。感情的に決めるなら? Mスポーツに行くかもしれない。

 しかし、少し考えて欲しい。シトロエンCEOが充分な資金を用意できなかったとしても、オジエがシトロエンと契約する可能性もあるのではないか。答えはノーだ。

 確かに、フォルクスワーゲンをサポートしてきたレッドブルは、個人スポンサーとしてオジエをサポートすると表明しているし、フォルクスワーゲンも来季分の契約金は支払うだろう。つまり、オジエは当面、給料には困らないのだ。

 しかし、彼は自らの価値を知っている。そんな彼が自分の価値を下回る金額で契約を結ぶだろうか。

 レッドブルがシトロエンのスポンサーに復帰する可能性はないだろうか。レッドブルの国際モータースポーツ部門代表のトマス・ユーバーアルは、フォルクスワーゲンに投入している予算を、他所へ回す計画は“今のところ”ないとしている。

 また、シトロエンの『アブダビ』からタイトルスポンサーの座を奪うことは難しい。こういった状況ではシトロエンC3 WRCにレッドブルのステッカーが小さく貼られている光景を目にすることはないだろう。

 では、レッドブル・Mスポーツ・ワールドラリーチーム誕生の可能性は? ありうる話だ。ウィルソンはかつてエナジードリンク会社とともに働いていたこともある。(15年前、ライマンド・バウムシュラッガーがフォード・フォーカスをドライブしていた時代だ)。それに、今のところ2017年仕様のフォード・フィエスタRS WRCには一切スポンサー名がない真っ白な状態だ。

 そうだ。理性的にも感情的にも考えた。私個人としての考えではオジエはMスポーツへ行く。もしかしたら、週明けにもオジエはフィエスタをテストドライブしているかもしれない。