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パワハラでうつ病「金銭的に解決したい」…労災認定が大切な理由【小町の法律相談】

2016年11月18日 08:51  弁護士ドットコム

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パワハラでうつ病を発症したため、現在休職中という方が、「金銭的に解決できないか考え中です」と、Yomiuri Onlineの「発言小町」に相談を寄せました。


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トピ主によれば、過去にもパワハラが原因で辞めた人はいます。しかし、「長いものに巻かれろ体質・自分には関係なし・面倒なことに巻き込まれたくない等」が理由で、「証言してくれる人」はいないそうです。「このまま泣き寝入りして退職した方がいいのかなと思う反面、年齢的に就活が厳しいので金銭的に解決できないか考え中です」と、トピ主。


レスには、「証拠を集める」、「社会的に信頼できる人に相談する」、「労働組合に相談」などを勧める声が集まりました。裁判をする提案をした人もいますが、「うつ病に苦しむ貴方(トピ主)が、能力や人格を徹底的に否定されるこの状況に耐えきれるか?」とも心配します。


パワハラでうつ病になってしまった。そんな場合、「金銭的に解決」するために、どのような対応をするべきなのでしょうか。土井浩之弁護士に話を聞きました。


(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「無駄でしょうか?」はこちら(http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/1101/783442.htm?g=15)


 ●第一に「労災申請」を検討するべき


トピ主さんが考えている「金銭的な補償」のためには、まず第一に「労災(労働者災害補償保険)」申請を検討されるべきです。


「労災」というと、怪我や身体的な病気のイメージがあるかもしれませんが、パワハラなどによるうつ病も、職場の環境が原因となっていれば、労災として認められる場合があります。現在、民間労働者に限らず公務員においても、パワハラによる精神疾患が、職務上の原因で起きたという認定が増えています。


厚労省が定めた「心理的負荷による精神障害の認定基準」によれば、発症前の約6カ月間に起きた業務により「強い心理的負荷」があったことが認定要件の1つです。また、病気を招いた要因として、離婚や近親者の死去など業務以外の心理的負荷などがないことも条件にあげられます。


認定されれば治療費が労災から出るほか、賃金の8割程度の支給金などがありますので、生活を支えることができます。



 ●「命を落とさないことを最優先にしてほしい」


なお、労災認定は労働基準監督署が職権で調査をしますので、労働者側が全証拠を提出する必要はありません。ただ、証拠となりうる文書の名前や、本当のことを言ってくれそうな人物の連絡先など、調査のヒントを出す活動をすることは大切です。


また、労災認定を受けても、慰謝料は支給されません。そこで、認定を受けた後に、病気になったことで発生したすべての損害を賠償してもらうために、上積み交渉や裁判をすることになります。この交渉や裁判も、労災が認定されていると、圧倒的に有利になります。


労災認定を経ない労働審判や調停等は、会社がパワハラを否定することが多く、金銭的な効果は期待しがたいということが実情です。


つまり、大切なことは、労災認定をいかに確実に受けるかという点にあります。弁護団等で研鑽を重ねている専門の弁護士に相談することをお勧めします。


もっとも、うつ病が重い場合は治療を優先するということもあり得ることです。治療に必要であれば、ストレス源である職場からの無条件の離脱も検討され、命を落とさないことを最優先にしてほしいと思います。多くの悲惨な事件を担当して、ご遺族と接している私としては、切実にそう思います。




【取材協力弁護士】
土井 浩之(どい・ひろゆき)弁護士
過労死弁護団に所属し、過労死等労災事件に注力。現在は、さらに自死問題や、離婚に伴う子どもの権利の問題にも、裁判所の内外で取り組む。東北学院大学法科大学院非常勤講師(労働法特論ほか)。
事務所名:土井法律事務所
事務所URL:http://heartland.geocities.jp/doi709/