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ミシュランGT500初のタイヤ無交換の裏事情。スーパーGTラスト2レース制の怖さ

2016年11月17日 20:11  AUTOSPORT web

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前人未踏のタイトル3連覇はかなわなかったが、最終戦までGT-R+ミシュランの強さは健在だった。
過去3シーズン、最強マシンとしてGT500のトップに君臨してきたニッサンGT-Rだが、最終戦でその座をレクサスRC Fに奪われてしまった。勢力図の大幅な変更は、どうして起きてしまったのか。スーパーGT最終戦でのニッサン&ミシュラン関係者の声をまとめた。

「悔しいを通り越して、しょうがないという心境です。レクサス速すぎです」

 スーパーGT最終戦もてぎで、史上初の3連覇を逃したMOTUL AUTECH GT-Rの松田次生は、意外と吹っ切れたようにレース後に語った。2014年から始まったクラス1の現行規定で圧倒的な強さで最強の名をほしいままにしたGT-Rとしては、まさかの最終戦となった。

 MOTUL GT-Rとしては、想定外の連続だった。このもてぎから投入したシーズン3基目のニューエンジンは、他のチームでは問題はなかったが、MOTULは制御系の調整を決勝直前に変更するなど、クルマのセットアップがまとめきれなかった。「決勝前にそんなことをやっているようではダメ。その時点でレースがダメです」と話したのはMOTUL GT-Rの鈴木豊監督。

 レースでは最初のスティントで装着したソフト系コンパウンドのミシュランタイヤはコンディションにマッチせず、後半スティントに投入したミディアムタイヤでようやくペースを取り戻したが、時すでに遅しで9位が精一杯だった。

 さらに、翌日の最終戦を考えるともてぎのコンディションに合ったミディアムタイヤでは、どうしてもウォームアップに時間がかかり、予選は厳しくなる。結果としてMOTUL GT-R、そして同じミシュランタイヤを装着するS Road CRAFTSPORTS GT-Rの2台は第8戦の決勝でタイヤ無交換作戦を敢行することになったが、GT500の決勝でミシュランがタイヤ無交換作戦を行うのは初めてのことだった。ミシュランのモータースポーツマネージャー、小田島広明エンジニアが話す。

「タイヤ無交換は持ち込みの時点で考えていたものではありませんので、今回は想定外ということになります。タイヤ無交換をGT500でやるリスクというのもわかっていますし、今回はラップタイムとリスクの取りしろを考えて選びました。GT500でのタイヤ無交換は初になります」と小田島エンジニア。

 もちろん、タラレバで持ち込みタイヤの選択が違っていたら、結果は異なったはずである。

「事前にテストがあれば、もう少し絞れたと思いますが、今回は絞りきれなかったというのが実力と言えば実力なのでしょう。ただ、大きく間違ったわけではないですし、これを踏まえて来年はよりいい選択ができる材料にしたいと思います」


 2014年からの3年間、GT-R+ミシュランは最強パッケージとして君臨したが、3連覇は夢となり、最後の最後で、その座を明け渡してしまった。ミシュランタイヤにとっても歴史的なチャンスを逃してしまうことになったが、小田島エンジニアには落ち込むそぶりは見えなかった。

「みなさん、3連覇を期待されてがっかりされているのはわかりますが、年間でチャンピオンを獲るのがすごく難しいことなのに、すでにそれを2年連続で獲っているわけですから、それだけでも十分、称えられるものだと思います。今年も最終戦に臨むまで十分、チャンピオンのチャンスを持ちながら期待される位置にいたわけですし、シーズンもずっと優位に進めて、開幕戦から一度もランキングトップを逃すことなく最終戦前に初めてランキング2位になったわけですよね。それを考えると今年のGT-Rの強さ、ミシュランの強さはシーズンを通じてお見せできたかなと思います」

 この最終戦ラウンドのもてぎを除けば、ウエイトが100kgを越えるもっとも重い状態でも、GT-R+ミシュランのパッケージはどのサーキットでもポイント圏内でフィニッシュできるパフォーマンスを見せていた。その強さを踏まえると、GT-R+ミシュランがもてぎでパフォーマンスを発揮しきれなかったことがあるとはいえ、レクサスRC F+ブリヂストン、そしてヨコハマタイヤがこのもてぎでパフォーマンスを大きく上げたことは間違いない。

 ミシュランの小田島エンジニアはライバル勢のタイヤを、純粋に称える。

「今年はタイヤメーカーの切り口で考えれば、我々は同じGT-Rを使った他のタイヤメーカーと比較していますので、そういう中ではGT-Rの中ではベストのタイヤだと思っています。ただ、GT500のシリーズ全体を見たときにタイヤメーカー別で見れば、今季はブリヂストンさんが3勝、ヨコハマさん3勝、ミシュランは2勝です」

「もちろん、ラッキーもありますが、それもレースですので、タイヤメーカー別の切り口ではテクニカルな面では我々だと思っていますが、スポーティングな面ではブリヂストンさん、ヨコハマさんの勝ちなんです。しかも、ヨコハマさんは我々と同じ参戦台数が2台なのに3勝している。供給台数を考えると私の中ではヨコハマさんの3勝は素晴らしいなと思います」

 RC Fはこのもてぎで投入したニューエンジンのパフォーマンスがかなり良かったとチーム、ドライバーが声をそろえる。そのエンジンとともに、タイヤがもてぎのコンディションにマッチし、勝敗を左右したこともまた、見逃してはいけない。

 チャンピオンを獲得したDENSO KOBELCO SARD RC Fはこの最終ラウンドのもてぎの2戦で合計、37ポイントを獲得した。結果的に、今シーズンのスーパーGT500クラスのタイトル争いは、1ラウンド2レースのギャンブル性の高さが如実に表れた形となった。