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渡部優衣が語る、“声優が歌う”理由「キャラクターを前に進めるために、私自身も大きくならなきゃ」

2016年11月16日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

渡部優衣

 ソーシャルゲーム『THE IDOLM@STER MILION LIVE!』の横山奈緒役や、TVアニメ『プリパラ』の白玉みかん役、『輪るピングドラム』の伊空ヒバリ役、『てーきゅう』の押本ユリ役などのメインキャラクターを演じる人気声優・渡部優衣が、11月16日にメジャー1stシングル『夢のキセキ』をリリースした。同作は6月に発売したメジャーデビューアルバム『FUN FAN VOX』収録曲「Brightest story」の続編的な位置づけにある表題曲をはじめ、渡部優衣の「歌」にフォーカスを当てた作品ともいえる。


 数々のラジオ番組においては、その特徴的な声と独特のテンションで、熱狂的ファンである阪神タイガースの話を交えながら快活にトークをする彼女だが、いざ歌声を披露すると、ファンが「誰がキャラクターボイス担当してるんだよ」と驚くほどのギャップを持っている。リアルサウンドでは、同作について渡部にインタビューを行ない、その歌声が生まれた経緯や、過去のアーティスト活動について、そして作詞・ライブ・レコーディングと向き合うことで強まった歌手としての自覚について、じっくりと語ってもらった。(編集部)


・「思い描いていたものとは全く違った」インディーズ時代


ーーリアルサウンド初登場ということで、まずは渡部さんの音楽的ルーツについて聞かせてください。声優として現在大活躍中の渡部さんですが、歌うことも幼少期から好きだったそうですね。


渡部優衣(以下、渡部):そうなんです。おばあちゃんがすごく演歌好きだったこともあって。3歳とか4歳くらいの頃から、おばあちゃんの行きつけのお店や地元の集まりで演歌を歌ったりしていました。その後、小学生の頃はモーニング娘。さんやSPEEDさんにハマって、友達と一緒にテレビ番組を見ながらフリや歌の真似をしていましたね。


ーーその頃からステージの上に立つ人になりたいという夢はあったのでしょうか? 歌って踊るのが好きだった少女が、いかにして声優を目指したのかを教えてください。


渡部:「芸能界」というざっくりしたものには、物心ついた頃から興味がありました。そのなかでも、特に声優さんという職業を意識し始めたのは中学生の時で。私、元々小さい頃からアニメが大好きだったのですが、声優さんというものは意識したことはなかったんです。でも、声優さんがラジオでパーソナルな部分やお仕事の話をしているのを聴いているうちにすごく興味が湧いてきて、気づいたらアニメを見ながらキャストをチェックするようになったり、声優雑誌を購読したり。あと、当時から声が大きかったこともあって、友達から「声優さんになれるんじゃない?」と言われて、その気になった、というのもあります。


ーーそこから声優としての活躍を経て、6月8日にアルバム『FUN FAN VOX』でメジャーデビューを果たしました。ですが、渡部さんはその前にもソロアーティストとしての活動期間がありましたよね。


渡部:まだこの世界に入ったばかりで右も左もわからない状態のとき、当時のマネージャーさんに「CDデビューが決まった!」と言われて喜んでいたんですが、自主製作だったんです。でも、私は一生懸命に、夢に向かってがむしゃらに頑張っていました。歌手ではなく声優を目指していたのですが、その時は歌うことも必要ということで「やるしかない」と覚悟を込めて挑みました。ですが、知名度も何もないなかだったのでお客さんも全然集まらないですし、CDを出しても売れ行きがいまひとつで。スタッフさんが自腹でCDを買っている姿を見たりと、思い描いていたものとは全く違ったんです。


ーー苦しい時期でしたね。


渡部:本当に苦しかったのですが、そんななかでも応援してくださる方がいたので、だからこそ頑張らなければと感じました。その後は事務所移籍のタイミングで声優活動に専任することになり、歌に関してはキャラクターソングを中心に、作品にまつわるものを担当させていただいたんです。いまはこうして改めてソロでCDを出す立場になったんですけど、インディーズの頃の不安は未だに拭えないところがあるんですよ。


ーーでも、『FUN FAN VOX』のリリースイベントでは、インディーズ時代に苦しい思いをした原宿アストロホールが満員のお客さんで埋まるなど、その不安を払拭できる嬉しいこともあったのでは?


渡部:着実に私は一歩ずつ前に踏み出していけているのかなと感じますし、もっとその人たちだけではなく、たくさんの方に知ってもらえるよう、私自身も頑張らなきゃなと思っています。


ーーその思いが詰まっているのが1stアルバムである『FUN FAN VOX』ですよね。このアルバムは今作『夢のキセキ』に通ずるようなロック風の楽曲はもちろん、アニソン・キャラソン・電波ソングともいえるカラフルなものまで、さまざまな渡部さんの声の魅力を感じ取ることができます。


渡部:声優活動に専任していた時期に私のことを知ってくれたたくさんの方は、インディーズ時代の活動を知らないことが多くて。だからこそ、声優として「歌う」ことにもう一度向き合ったとき、歌のみを追求している歌手の方ではできないような世界観を大事にしたいと思うようになり、声を使ったさまざまな表現に挑戦しました。


ーーそれが個性としてすごく際立っていて、非常に良いアルバムだったという印象です。これまで応援していたファンの方も、1曲目「Brightest story」の一行目にある歌詞を見て、「新しい物語の幕があがる」のだと思ったでしょうし。そういえば、今作の表題曲「夢のキセキ」は、この「Brightest story」の続編的な位置付けにあたるそうですね。


渡部:「Brightest story」は過去を振り返りつつ、現在を見据えるというメッセージの曲なのですが、「夢のキセキ」はそこから未来へ繋がる様な楽曲になっています。続編というよりは、「Brightest story」を踏まえて、ファンの方々へ新たに届けたい思いというものを意識しました。


・選曲会議にも参加した『夢のキセキ』楽曲について


ーー今回のシングルについては、選曲会議にも参加されていたということですが。


渡部:そうなんです! アルバムの時は頂いた曲を歌わせてもらうという形だったのですが、今回は選曲会から参加しまして。40曲近くあるデモ音源をたくさん聴いて、候補を絞らせていただきました。表題曲に関しては、その中から最終的にはスタッフさんへ委ねています。


ーーそこで、最後に残ったのが藤永龍太郎さん(Elements Garden)の曲だったと。


渡部:エレガさんらしい、かっこいい曲だと思いました。次へと進んでいく渡部優衣を表現するには恰好の曲なんじゃないかとスタッフさんとも話していたのですが、レコーディングにすごく苦戦して……。


ーーどんな部分が大変でしたか?


渡部:Aメロの歌い出しがすごく低いところから始まるのですが、Bメロで上がって、サビで思いっきり高音になり、また下がったりと、音の行き来が大変でした。


ーーその大変さをどのようにして乗り切ったのでしょうか。


渡部:「上手く歌おう」と思い過ぎないようにしました。音程を意識すればするほど中途半端な音取りになっちゃっていたので、気持ちをバーン! とぶつけるように、思い切って歌うことを心がけたら上手くいきました。


ーーちなみにレコーディングは、バンド編成で行なった1stライブの後だったりするのでしょうか。ロック調の楽曲なのに、声が負けていないし、前作よりも力強くなっている印象を受けたのですが。


渡部:1stライブより後ですね。インストアイベントや自宅での練習はカラオケ音源だったので、1stライブでいざバンドさんと合わせるとなったときは、あまりにも迫力がすごくて、「生の音の力ってこんなに凄いんだ」と圧倒されましたから。その経験があって、「音の力をもっと届けられるようになりたい」と思っていたので、力強いと感じてもらえたのは嬉しいです!


ーー作品自体もメジャー1stシングルということで、アルバムとはまた違った気持ちで制作に臨みましたか?


渡部:アルバムだと、11曲の中に色んな私を詰め込むことができたのですが、次は3曲で渡部優衣らしさを表現しなければいけないんだという部分は強く意識しましたね。


ーー「夢のキセキ」「FUN FUN LOVE」「Days」と、テイストはそれぞれ変えながら、今回は「歌」で渡部優衣さんをどう伝えるかというラインナップに感じました。表題曲と「FUN FUN LOVE」に関しては、これまでもタッグを組んできたハラユカ。さんが作詞を手がけていますね。


渡部:ハラユカ。さんとは、1度お会いしてお話をしたあとで「Brightest story」「スキがあふれて止まらない!」を書いていただいたんです。そんなに長い時間話したわけでもないのに、私の性格や思い、過去のことまでが丁寧に汲み取られた歌詞になっていて、すごくおどろきました。今回の「夢のキセキ」も同じで、私が普段ファンの方に伝えたいけど、照れ臭くて言葉にはできない思いを形にしてくださって。「こんなに私、見透かされているんだ!」と驚きつつ、本当にありがたいなと思いました。


ーーカップリングの「FUN FUN LOVE」は、こちらもエレガ楽曲(母里治樹が作曲を担当)です。


渡部:この曲は、選曲会で私が選ばせていただいた最終候補の曲なんです。Aメロ→Bメロ→Cメロの流れが個人的にすごく大好きで。実際にいただいた歌詞をはめてみると、女の子の可愛い一面や素直さが表現されていて、素敵だなと感じました。「夢のキセキ」に比べて、「FUN FUN LOVE」の方はあまり言葉そのものが飾られていないというか。まっすぐ突きつけてくる様な印象があったので、そのあたりは意識してレコーディングに臨みました。普段はあまり身振り手振りしながら歌わないんですけど、手を広げて歌ったりして(笑)。


ーーなるほど、そんな熱量の高さが楽曲に反映されていたわけですね。


渡部:でも、リズムをはめるのが難しかったり、サビは途中でメロを一部変更したところがあったので、それに対応するのに苦戦したりもしました。あとはファルセットでいくのかどうかという判断も、スタッフさんと相談しながら進めていきました。


ーー通常盤のみに収録される3曲目「Days」は、前作『FUN FAN VOX』では「Say La La La」を手がけ、渡部さんの出演作品『アイドルマスター ミリオンライブ!』の楽曲でもおなじみのKOHさんが作ったものですね。


渡部:こちらも選曲会で選ばせていただいた曲で。心にスッと入ってジワっと広がるというか、音がファンタジーのような感じなのですが、サビはストレートに言葉をぶつけていて力強い楽曲に仕上がっているんです。3曲ともストレートに気持ちをぶつけているという意味では、「夢のキセキ」「FUN FUN LOVE」を踏まえての「Days」なのかなと思いました。


ーー音の高低差は少ないものの、音数とリズムが少し難しいのではないかと感じたのですが。


渡部:大変でしたね。聴いている分にはそんなに難しく感じなかったんですけど、いざ歌ってみると符割りが結構難しくて。特にサビの<変えられるはずなの>という部分は、1番と2番で文字数も違ったりしたので、その歌い分けも含めてすごく大変でした。


・「渡部優衣という一個人をどう知ってもらうか、という意識」


ーーこれまで渡部さんは歌手としての活動もキャラソンのお仕事に加え、ルーツになっている歌謡曲や演歌、ポップスと、色んなジャンルの歌を通ってきていますが、そのなかでいまの渡部さんを構成している要素はどういう割合なのでしょうか。


渡部:中学生以降に声優さんの楽曲やアニソンをがっつり聴き出したので、やっぱり私の中ではそれが1番大きくて。歌い方もアニソンからの影響が色濃く出ていると思います。


ーー中学生時代に聴いていた声優さんの楽曲というと、水樹奈々さんとか?


渡部:まさにそうです! あとはJAM Projectさんやangelaさん、KOTOKOさん、ALI PROJECTさんも聴いていました。


ーーこの時代のアニソンって、アニメかラジオ経由もしくはネットと、どの媒体を介しても、共通言語的に同じアーティストや楽曲にたどり着いていたような気がします。


渡部:林原めぐみさんとかもまさにそうですよね。


ーーいずれもパワーがあるタイプの歌い手ですね。で、今は状況も変わって、声優さんが歌を歌うことはより当たり前になっているわけで。その中でどう自分を出していくのか、という部分も渡部さん自身は意識しますか?


渡部:キャラクターソングとは違うので、渡部優衣という一個人をどう知ってもらうか、という意識はしていますね。いつもキャラクターたちに支えてもらっていたので、すごく不安なんですけど。またそのキャラクターたちを一歩前に進めるというか、さらにそのキャラクターたちを大きくするために、私自身も大きくなっていかなきゃいけないのかなと感じました。


ーー渡部さんは自身をネガティブな人間だとよく評しますが、前向きな曲を歌っていく中で、徐々にマインドが変わってきたりしました?


渡部:歌っている間は割とポジティブになれますね。でも、歌が終わってしばらくすると戻っちゃいます(笑)。


ーー他の声優さんと差別化をするうえで、「自身で歌詞を書く」のは大きな要素のひとつだと思います。渡部さんは『FUN FAN VOX』の「常夏ココナッツ」「Last_Pain」で作詞をしていますが、そういう時はポジティブとネガティブ、どちらの自分が出ることが多いですか?


渡部:今回は陽の「常夏ココナッツ」に陰の「Last_Pain」と1対1ですね。どちらかに振り切らず、バランス良くどちらもあるのが渡部優衣なのかなと思います。自分では「明るいネガティブ」と呼んでいるんですけど(笑)。


ーーステージに上がって歌っている間はポジティブな自分になれるということですが、演技している時の感覚とはまた違った感覚でしょうか。


渡部:お芝居している時はその役というか、別人格になりきっているのですが、ステージに立っている自分もある意味では同じといえますね。でも、お芝居のときは意識的で、ステージに立ったりラジオで話したり、渡部優衣として出させていただくときは無自覚に明るくなっているので「みなさんを笑顔にしたい」とか「楽しんでもらいたい」という気持ちがそうさせているのかもしれません。


ーー12月3日と4日には、東京と大阪でそれぞれバースデーライブ『FUN FAN BIRTHDAY 2016』が開催されますが、内容はもう決まってきていますか。


渡部:何にも決まってないので、これから徐々に決めていけたら良いなと思います。とか言っているうちに本番になりそうな気がしますね。演出に関しては……もう少し大きなところでできるようになってから考えます(笑)。まだそこまでわがままを言える立場ではないですし、バンドメンバーさんがいてくれるだけでありがたいです。


ーーバースデーライブはバンド編成で?


渡部:その予定です! 


ーー『夢のキセキ』の楽曲がバンド編成で見られるわけですね。楽しみです。ちなみに、次の作品について「こういうものを作りたい!」という希望は?


渡部:やっぱりシングルは一貫性のあるものを作っていきたいですね。で、カップリングに少しテイストの違うものを入れて、渡部優衣らしさも出しつつ挑戦し続けていけたらいいなと思っています。


ーー渡部さん自身が考える“渡部優衣らしさ”とは。


渡部:私が最初に「Brightest story」を発表したとき、ファンの方から「これ誰が歌ってるの?」とか「誰がキャラクターボイス担当してるんだよ」みたいことを言われるのがすごく面白くて。自分自身がもともと変わった声なので、そことのギャップを楽しんでもらえればいいなと思っています。いずれにせよ、あくまでも声優であるというところは、これから音楽をやるにあたっても忘れず大事にしていきたいですね。(取材・文=中村拓海/撮影=三橋優美子)