トップへ

ジブリ宮崎駿監督、復帰への期待 CGアニメへの挑戦は何を意味する?

2016年11月15日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 11月13日にNHKで放送されたドキュメンタリー番組『終わらない人 宮崎駿』が話題を呼んでいる。宮崎駿監督の長編アニメ引退宣言から3年。引退後の約700日間を記録したこのドキュメンタリーでは、宮崎監督がCG表現に初めて挑戦した短編アニメ『毛虫のボロ』の制作風景や、新たな長編アニメへの構想を練っていることが明かされた。


参考:『コウノトリ大作戦!』は『崖の上のポニョ』からインスパイア? 製作者がコメント公開


 宮崎監督の長編アニメへの復帰や、CGアニメを制作することにはどんな意味があるのか。映画評論家の小野寺系氏は次のように語る。


「2013年の長編引退宣言では、“自分の持ち時間の限界”、“体力の限界”を理由としてあげていました。時間が足りないからこそ安易に長編の企画を出せないというジレンマがあり、短編の製作に移ったのだという事情が、今回のドキュメンタリー番組でより明確に示されていました。現代の日本人の多くが考える生き方の感覚と、宮崎監督が考える“人間の生き方”の間にはズレがあり、年々それは広がってきていると思います。短編を含め、次回からの作品は、『君の名は。』のように観客の求めるものに合わせていく作品ではなく、ときに時代の流れに逆行し、そういったズレを強く意識せざるを得ないような内容になるのではないでしょうか。自ら書いたという長編アニメの企画がどんなものなのかはまったくわかりませんが、とくに近年の監督は、自分のテーマを極限まで突き詰めるような鬼気迫るものを描いてきているので、たとえほのぼのと見えるような内容になろうとも、その流れに沿って迫力を帯びたものになると思います」


 ドキュメンタリーでは、CGクリエイターと一緒に短編アニメを制作する中で、人工知能が制作したCG映像に嫌悪感を示す場面もあった。


「過去作品からも分かるように、宮崎監督は生命や自然に対する畏怖の念を大事にしてきました。また、宮崎監督が尊敬する黒澤明監督は、ドイツや旧ソ連で興った表現主義の流れに対し、人間を人間として描かない不自然な手法だとして批判をしたことがありました。今回のドキュメンタリーでも、宮崎監督がCGアニメに、何よりも生命感を求めている様子が映し出されており、そのときの黒澤監督の考えに通じるものを感じました。そのため、人間を人間として扱わないようなCG表現は、宮崎監督の思想とは隔たりがあるものだったのでしょう」


 しかし、宮崎監督がいま、CG表現に挑むことは意味のあることだと小野寺氏は続ける。


「長編アニメが作られると仮定して、それがCGになるのか、手描きになるのかは、制作中の『毛虫のボロ』の出来次第でしょう。CGクリエイターに何度もダメ出しをする様子からも、宮崎監督が求めるハードルの高さが伝わってきます。現時点では、監督の理想とCG技術がかみ合っていないようですが、それが一致するのも時間の問題かもしれません。実際、初めてのCGアニメ制作であるにもかかわらず、的確にCGならではの良い点、悪い点を指摘していました。手描き一筋で来た宮崎監督が、いちからCGと格闘し、理想の表現を求めて若いスタッフとぶつかる様子は、すごく面白いです。高畑勲監督の『かぐや姫の物語』や、ジブリ初の外国人監督を起用した新作『レッドタートル』も、CGを使って革新的な表現に到達しました。生命感や感情を乗せていく表現は、CGの苦手なところです。宮崎監督が、そこを独自のやり方で突破することで、誰も見たことのないものすごいアニメーションを作ってしまう可能性は十分あると思います」


 ドキュメンタリー内では、2019年に向けて長編アニメーションの構想が語られている。もし実現するのであれば、革新的なアニメーションが生まれる可能性もありそうだ。※宮崎駿の“崎”は旧字体(泉夏音)