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CHEERZ×KKBOX×TuneCoreが目指す“アイドル楽曲との接点作り” 多様化するシーンとサービスはどう結びつく?

2016年11月14日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

CHEERZ 伊藤崇行氏、KKBOX 山本雅美氏、TuneCore Japan 野田威一郎氏

 アイドル応援アプリ「CHEERZ」が、定額制音楽配信サービス「KKBOX」、楽曲販売サービス「TuneCore Japan」との3社共同プロジェクトをスタートした。このプロジェクトは、CHEERZに参加するアイドルがTuneCore Japanを通じて、KKBOXを中心に、iTunes Store、amazon music、LINE MUSICなどの音楽配信プラットフォームに自身の楽曲を配信することが可能になるというもの。主な配信先となるKKBOXは、今秋から音楽ジャンルに「アイドル」を新設し、注目音源をピックアップしていくほか、アイドル自身がミュージックキュレーターとして、様々なジャンルの音楽を紹介。キュレーター第1弾として、小山ひな(神宿)、櫻井優衣(ピンク・ベイビーズ)、青葉ひなり(FES☆TIVE)、和田輪(Maison book girl)が登場している。今回、リアルサウンドではCHEERZプロジェクトマネージャーの伊藤崇行氏、KKBOXビジネス・ディベロップメントの山本雅美氏、TuneCore Japan代表取締役社長の野田威一郎氏による鼎談を企画。3者の出会いから、プロジェクトスタートのきっかけのほか、“アイドルの交換留学”など、アイドル楽曲に触れる“きっかけ”を作るために何をすべきか、存分に語りあってもらった。(編集部)


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・「アイドルなんて関係ないという人間が揺り動かされる」(山本)


──まずは、今回三社が共同プロジェクトを立ち上げた理由を聞かせてください。


山本雅美(以下、山本):1月にラフォーレミュージアム原宿で開催されたアイドルイベント『iCON DOLL LOUNGE』を観に行ったんです。決してアイドルには詳しくなかったんですが、アイドルの人たちが会場で握手会とかフィジカルな面において活動しているのを見て、「デジタルってそういえばどうだったっけ?」という話になったのがきっかけでしたね。


伊藤崇行(以下、伊藤):例えば、地下アイドルと言われるインディーズのアイドルの子たちが、どうやって楽曲を広めているかというと、YouTubeに音源やライブ映像を上げたり、イベントのライブで聴いてもらう以外に方法があまりないんです。そんな眠ってしまっているアイドルの曲たちを世の中に出してあげたくて。最近では元アーティストが手掛けている楽曲なんかも増えてきていて、楽曲の魅力をもっと伝えられないかと山本さんと話したのがスタートでした。そこで一緒にタッグを組めそうな方として、山本さんから野田さんを紹介してもらったんです。


──野田さんとしてはプロジェクトを最初に話を聞いたとき、どのような印象でしたか?


野田威一郎(以下、野田):アイドルに対しては、ライブでCDを売るのが中心で、「デジタル配信ってよく分からない」とか、そもそも配信楽曲がないグループもいたりして、「このジャンルに僕たちが浸透するまでには、時間がかかるな」と思っていました。その反面、おやすみホログラム、BPM159、STARMARIE、カラーポワントなどのように楽曲に力を入れたアイドルも多くいて、このプロジェクト以前から自然発生的に3社サービスを利用してくれている事例も出てきていました。STARMARIEのみなさんがKKBOXとコラボし始めた状況で、今回のプロジェクトのお話を頂いて。僕らからすると、アイドルという新しいジャンルを開拓できる嬉しい話でした。


山本:そういえば、若いミュージシャンの友達にTuneCoreを紹介すると「え! そんなサービスあるんですか!?」と言われるんです。アイドルに限らず、インディペンデントで頑張っている人たちに、「こういうことをやったら自分たちの音楽が広がるきっかけになるんだよ」と、TuneCoreのサービスが、もっと理解してもらえるといいですね。


野田:ありがたいことに、音楽業界の方たちには、徐々に認知して頂けるようになってきました。ただ、若い学生さんや地方の方まで浸透してるかといえば、まだまだ全然で。自分で主導権を持って活動していくような積極的なアイドルたちとお話する機会は少なかったので、プラットフォームであるCHEERZと組むことで、僕らだけじゃ深く関わることもなかったかもしれない「アイドル」というジャンルに携われて、面白いなと感じています。


──改めて、それぞれ2社のサービスについてどう思うかをお伺いさせてください。


伊藤:LINE MUSICやAWAといったサービスは、アメリカやヨーロッパの音楽っぽい雰囲気を出しているのですが、KKBOXは「日本の、しかも東京のカルチャー感」があるというか。山本さんの色が出ていて、ほかの音楽サービスにないすごくサブカル感もあるように思えるんです(笑)。カルチャー感という点においては、CHEERZも共振していると考えていて。ほかのカルチャーとどう関わっていくかを重要視していますし、その繋がった先にファンがいると思っているので。TuneCoreさんについては、もっと昔に知っていたかったです。


野田:それ、よく言われます(笑)。


伊藤:前職でレーベル所属の決まっていない新人アーティストを担当した際に、会社内で「インディーズレーベル作ってみる?」という話があったのですが、結局それを見送ったという経緯がありまして。その当時TuneCoreを知っていれば完全に使わせていただいていたなと思ったのが、最初の印象でした。


──山本さんはどうでしょうか。


山本:新しいサービスが出た時は必ず試してしまうタイプなので、CHEERZはリリース当初から「アイドルを応援する」という、非常に距離が近いコンセプトを面白いと感じていたんです。アイドルを実際に現場に観に行ったら、SPINNSなどファッションブランドとコラボレーションをしていて、裾野が広がっているのを感じました。あと、うちの会社に洋楽しか聴いてこなかった若い社員がいるんですけど、最近CHEERZで課金をし始めたんですよ。どうやら応援したいアイドルを見つけたみたいで(笑)。


ーー身近に良いサンプルケースが居たんですね(笑)。


山本:そうなんです。“アイドルなんて関係ないという人間が揺り動かされる”のを間近で見て、「彼が想像出来なかったコミュニティが作られたんだな」と面白く思いました。TuneCoreさんに関しては、サービス自体は知っていたのですが、どのようにしてお付き合いしていったらいいかというイメージが湧かなかったんです。様々なサービスがある中で、自分の楽曲がどういった形で聴かれているか、再生単価はいくらかといったところまで見ることができて、これまでダイレクトにアクセスできなかった情報が、アーティストに可視化されるという点は、面白いと思いますし、大きな可能性を秘めたサービスだと感じています。


野田:ありがとうございます。僕にとってCHEERZは「今までになかった手軽さでアイドルとの距離を近くに感じられる」サービスなんです。アイドルの濃いアンダーグラウンド的な部分って、WEBでなかなか表面化されることがないと思うんですよ。でも、CHEERZはそれらを一気に表面化させて、本人たちも面白そうに扱っているので、上手くやっているなという印象を受けました。CHEERZに参加しているアイドルの中には、TuneCoreでリリースしている子たちもいて、上位にランクインすると娘のように嬉しく思えるんです(笑)。KKBOXについては、国内においてストリーミングサービスで新しい波を作ろうとしているサービスだと思っていました。特にアジアで絶大な人気なので、例えるなら「Spotifyのアジア版」といった印象もありましたし、アーティストとチャットをしながら音楽を聴くことができる「Listen with」の機能は、個人的にもっと広がるべきだと感じています。


・「昔のアイドルとは違う感じの曲調も多く、多様化が進んでいる」(野田)


──それぞれ、アイドル楽曲に対する認識はどうでしょうか。


野田:僕らは自分たちのサービスを使ってくれるアイドルを聴くことが多いのですが、音楽にこだわりを持ってる人たちが僕たちのサービスを使ってくれる傾向にあるので、クオリティはどんどん高くなってきているという印象があります。昔のアイドルとは違う感じの曲調も多く、多様化が進んでいるというか。


伊藤:CHEERZを使ってくれているアイドルの中でも、ハードロック、メタルとか、エレクトロなどのジャンルも増えてきていて、特に名古屋シーンはロック色の強いアイドルが多くなるなど、地域性も出てきているんですよ。


山本雅美:アイドルソングは、クリエイティブクオリティも高いので、もっとみんなに聴いてもらえればいいのにという曲が多いですね。


──今回、KKBOXでは「Listen with」において、アイドル自身がミュージックキュレーターになり様々なジャンルの音楽を紹介していきます。キュレーターに選ばれたアイドルのみなさんが、第1弾に神宿の小山ひなさん、ピンク・ベイビーズの櫻井優衣さん、FES☆TIVEの青葉ひなりさんとMaison book girlの和田輪さんの4人です。こちらはどのようなセレクションなのでしょうか。


伊藤:僕が山本さんにCHEERZ参加アイドルの名前と特色を一斉にお送りして、山本さんにセレクト頂きました。今回選ばれたのは、音楽的な趣向を持つ子たちが中心ですね。海外展開を視野に入れているFES☆TIVE、カルチャー感のあるMaison book girl。現行シーンのネクストブレイク組で王道路線ともいえる神宿、昔と今の楽曲を繋ぐピンク・ベイビーズと、良い感じで色もバラバラになっていると思います。


山本:今回の取り組みを始めたのは、「アイドルの中でも、ミュージシャンと同じくらい音楽に詳しい人もいたりするんじゃないか」と考えたことがきっかけで。自分たちの活動から離れて、より音楽的な選曲をしてもらうことがそのまま個人のキャラクターに繋がっていくし、すごく面白いのではないかと考えました。実際に神宿の小山さんと話をしていたら「My Hair is BadがKKBOXにないのが残念です」と言っていて、「知ってるんだ!」と驚かされたり(笑)。4人の方が選曲してくれたプレイリストを見たら、今回の4人が間違いじゃなかったと確信しましたね。


伊藤:グループの特性とは別に、その子の音楽性を見てもらえたりすると面白いですよね。「あの子、◯◯◯◯に詳しいみたいだよ」という事象は、すぐにネットで「まとめ」として取り上げられたりすることもありますし。


──このような場でアイドルがキュレーターとして音楽を広めていくというのは、アイドル自身もそのファンも改めてその音楽ジャンルを聴く機会になります。


野田:キュレーターとして素晴らしいアイコンになることができるはずですね。


山本:今回の企画とは別の話ですが、最近ミュージックキュレーターとして中学生インスタグラマーとして人気のあるmappyさんが参加してくれたんです。彼女に「好きなアーティストは?」と聞いたら「ジェームス・ブラウンとパティ・スミス」と答えてくれて。実際に掘り下げてみたら、僕より詳しいんです(笑)。彼女は70年代のファッションが好きで、YouTubeでどんどん掘っていった結果、そこに到達したらしく、彼女のような子がジャズ、クラシック、ロックを語ったりする機会は滅多にないですし、ファッション誌ではそのような取り上げ方をすることが少ないので、いろんな方にもっと普段は見せない顔を紹介できればと思います。


──今回のプロジェクトを進めていく中で、目指しているところを聞かせてください。


野田:まずは、音楽ファンに目を向けてもらうことが第一で、その環境を作っていけたらいいかなと考えています。その先に関しては、「この企画を通して売れた」というアーティストが出てきてくれたら最高ですね。まずは知られることが重要だと思っていますし、CHEERZでのトップアイドルはもっと聴かれるポテンシャルがあると感じているので、これをきっかけにブレイクしてくれるといいですね。


──続いて各社の現状についても訊いていきたいのですが、CHEERZは最近、生配信が出来る機能「ちあスト」をリリースしました。


伊藤:ちあストに関してはまだ試行錯誤の段階で、細かい部分を調整しているところです。将来的に自分たちでもちゃんと配信出来るシステムを整備して、物語性を帯びるものになればいいなと思っています。先日には、CHEERZ内での映画オーディション企画もちあストを通して実施し、台本を実際に読んでもらっている動画をアーカイブ化して審査してもらうなど、様々な可能性が広がっているので、どんどんアイドルの子たちに使ってもらえたら嬉しいです。


──山本さんはKKBOXにおいてListen withなど、様々な企画を平行してらっしゃいます。


山本:ミュージックキュレーターもそうですが、サービスとしてもお預かりしてる楽曲をどのようにキュレーションしていくのかが1番のポイントなので、新曲とか目先の曲だけではなく、様々な作品と真摯に向き合っていきたいです。これはアイドルでもどのジャンルであろうと同じですね。


野田:TuneCoreはまだまだ浸透しきれてないように感じるので、ゆくゆくは若年層や地方の若い子に楽器感覚で使ってもらえるようなWebツールになりたいです。海外でも配信先は広げていこうと思っていますし、5月にローンチした動画広告収益をマネタイズする仕組みも認知させていきたいですね。


──基本的には楽曲をアップして終わりですもんね。


伊藤:僕らは最終的にはアーティストが自分の楽曲で食べていけるということを実現したいので、そこに対していろんなツールを用意してあげたいと思っています。


──もともとKKBOXとTuneCoreは海外法人があって、日本にそれぞれ来たという背景があります。現在はアイドルを海外展開という形でイベント出演などして、持ち出す方の役割も果たしていますが、今回の取り組み自体も目的としては、海外にアイドルの楽曲を広げるということもあるのでしょうか。


伊藤:そうですね。昨年は5カ国に渡り、アイドルの皆さんにパフォーマンスしてもらっているんですけど、実際海外の人たちが本人たちの楽曲を手にすることができないんですよ。「彼女たちの曲はどこに行ったら手に入るんだい?」と言われて、それに答えられるようになるっていうのはすごく大きいなと思っています。アイドルシーンは、近年、アジアに積極的に進出はしているのですが、行ったのだけどそこから先に中々繋がらないというのが現状の問題かなと思ってます。今回の取り組みでアイドルを知った人たちが、香港、台湾で認知率9割のKKBOXで検索して、曲を聞くことができる。求めた時にちゃんと曲がそこにあるという形が理想ですし、正常な仕組みを整えたいですね。


山本:スタマリのみなさんが台湾でListen withをおこなった時には、現地の人たちからコメントをかなりもらいました。プレイリストにも台湾の曲とかが選曲されていたり、すごく素敵な使い方をしていましたね。離れていてもちゃんとコミュニケーションができる。音楽を通して本人に触れ合いながら音楽を知るということができるようになるんじゃないかなと思っています。Listen withは台湾、香港でも共通で観ることができるんですよ。あまり構えず、例えば寝る前に、自分が聴いている音楽を共有するだけで、実はそれがアジアのリスナーに繋がる。そのフォーマットがKKBOXにはあるので、もっと僕らもPRしていってそのきっかけを一緒に作っていかないといけないと思っています。


・「アイドルの交換留学みたいなことも考えてます」(伊藤)


──現在、日本の音楽を海外に輸出する場合、洋楽志向のバンド、もしくはアニソンを意識したバンドの2強だと思いますが、そこにアイドルが介入していく可能性についてどうお考えですか。


山本:楽器や機材が必要なバンドに比べると、物理的にアイドルの方々は移動も楽です。そういった人たちが、他国でカルチャーを作っていくことを応援できればと。僕らの本業はあくまで音楽配信サービスです。でも国内だけでなくアジアグローバルで展開ができます。 アジアグローバルで活動をするアーティストをKKBOXでサポートできることは、まだまだたくさんあると思います。その上でもアイドルの方や、インディペンデントで活動している人が、もっとグローバルサイズでの音楽配信に目を向けて欲しいですね。


──継続させるための地盤作りになるわけですね。


山本:そうですね。僕らのプロジェクトとしても、そこを一番応援していきたいと思っています。今後の音楽業界として、海外は一つのフィールドですからね。それをスタンダードにしていきたいですね。


伊藤:海外の人たちからすると、アイドルと言われてAKB48は出てくるんですけど、ほかの選択肢があまりなくて。そうすると、2番手、3番手くらいに海外進出したアイドルの人気が出る。海外の人の中での“メジャー”が変わってくるんですよ。海外に攻めてないアイドルが多い中で行って認知されると、もうそこの土地はそういうものになっちゃうので。台湾はアイドルが行くと、ファンが空港で待っているレベルになっていますね。


──CHEERZとしては海外でのイベント回数は増やしていきたいということは考えているのでしょうか。


伊藤:シンガポールやベトナム辺りには今年中に現地調査して、来年には本人たちを海外に連れて行こうと考えています。最近、海外のイベンターの方とお話していると、最近では日本カルチャーの中でもアイドル需要がすごいという話を聞きます。そのイベンターさんは以前のビジュアル系ロックバンドのブームの時から活躍されていて、当時、ビジュアル系が流行った時って、日本のビジュアル系ロックバンドというだけで「ギャーッ!」という感じだったらしいんですよ。その状況が今アイドルで起こっているのになぜ行かないんだということを言われました。


──KKBOXは、香港や台湾に強いですが、逆に現地でアイドルとして活動しているグループを日本に輸入するということは考えていたりするのでしょうか。


伊藤:現地でアイドルとして活動してる子たちと、日本のアイドルの子たちの交換留学みたいなことも考えていたりします。現地では、日本のアイドルの曲をカバーしてる子たちもたくさんいるので。向こうでコンテストをやって、日本のアイドルをゲストに呼んでもいいでしょうし、逆に現地の子を日本に連れてきて一緒にライブを行うでもいいですし。その辺りは一緒にできたらいいですよね。


山本:台湾のアイドルはクオリティも高いですし面白いですよ。日本のアイドルシーンを見て頑張ろうとしてる子たちも多いから、すごく新鮮なんです。


野田:向こうも変わってきましたよね。台湾=露出が高い子たちみたいなイメージでしたけど、日本のアイドルカルチャーが入ってきて、どんどん日本のアイドルに近づいてきました。


山本:台湾はアイドルだけじゃなくて、ロックやオーガニック系のアーティストも多様化していてすごい面白いですよ。フェスもいろんな形で増えてきていますし。その中でアイドルに関しても、台湾独自の進化をしているのではないでしょうか。


(中村拓海)