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バックドロップシンデレラが初ベスト作で示した「DIY精神」、そしてインディーズバンドのあるべき姿

2016年11月14日 14:11  リアルサウンド

リアルサウンド

バックドロップシンデレラ

 今年結成10年を迎えたバックドロップシンデレラが、11月2日に初のベストアルバム『BESTです』をリリースした。「COOLです」「池袋のマニア化を防がNIGHT」といったライブでも人気の高いキラーチューンをはじめ、彼ららしい不条理メタルな問題曲「ブラスト和尚」、バンドマンの本音をコミカルに歌う「君がやってくる」という新曲2曲とボーナストラックを含めた、濃厚ながらももどこか爽快な全21曲。世界の民族音楽を独自に昇華した音楽を“ウンザウンザ”とかき鳴らし、唯一無二の存在感を否応なしに撒き散らすバンドの魅力を知ることができる1枚だ。


(関連:バックドロップシンデレラ、なぜ名曲を“ウンザウンザ”で踊る? 各国民謡とBUCK-TICKカバーが並ぶ異色作を分析


「激しい曲もあるけど、意外にポップなものもあるので、普段ロックを聴かない人にもおすすめです」アサヒキャナコ(Ba.)


「これを聴いてダメだと思ったら、その人にとってバックドロップシンデレラは無理なんだと思います……(笑)。それくらい出し惜しみしてません!!」豊島“ペリー来航”渉(Gt.)


 代表曲とライブ定番曲を中心に選ばれた過去曲18曲のうち、8曲が新録音されている。古い曲だから録り直したわけではなく、聴き返したときに「この曲はまだ突き詰められる」と思った楽曲をあらためてレコーディングしたそうだ。ニューアレンジではなく、原曲の持ち味をそのままに図太いサウンドとライブで培ってきたグルーヴで、今の音として蘇らせている。


「僕らは5年前に出した音源を聴くと『もっとやれたな』と思うけど、リスナーはその音を聴き込んでるわけで、それが好きと思っている人も多いだろうし。そこを踏まえつつも、新録をしました。録音時のクリック音をなくしたりして、ライブ感を大切にしましたね。ライブでたくさんやってきたからこそのグルーヴもあるので、アレンジを変えようとは思わなかったです。むしろオリジナルよりもすっきり聴こえるかもしれない」(ペリー)


 意表をついたセンスと騒々しいサウンド、人を食ったようなボーカルながらも、不思議と耳に残るメロディ。むさ苦しくも妙な親しみやすさを感じてしまうバックドロップシンデレラ。そんな彼らの持つキャッチー性は意外なコラボレーションを生んだ。


■柏レイソル応援団とのコラボ


 今年初頭、サッカーJリーグの柏レイソルの応援歌に「さらば青春のパンク」が使用されていることが話題になった。“チャント”と呼ばれるJリーグの応援歌は洋邦ジャンル問わず、既存曲を替え歌として使用されることが多い。大勢のサポーターが歌うものであり、当然誰もが口ずさみやすい曲が使われる。バックドロップシンデレラのような、いちインディーズバンドの楽曲が使用されるのは珍しいことではないのだろうか。


「柏レイソルの応援団自体がユニークというか、他とは違ったことをやっていこう、というスタイルなんですね。チャントの選曲もいい意味で“おかしい”なんて言われているみたいで(笑)」(ペリー)


 サッカーは体育の授業以来。これまでJリーグはおろかワールドカップすら興味がなく、「サッカーとは最も遠いところにいる人間」だったという彼ら。柏レイソルとの邂逅は思わぬところからだった。


「最初、Twitterで知ったんですよ。ファンの方が『柏レイソルのチャントに使われてますよ』って。『チャントって何ですか?』というところからはじまり」(ペリー)


 サポーターには「応援の核をなす」という意味で“コア・サポーター”と呼ばれる人たちがいる。その幹部の中にインディーズロックが好きでバックドロップシンデレラのライブにもよく足を運んでいた人がいた。


「その方が提案してくれたようで。僕らは面識も接点すらなかったんですけど。うれしいから『どんどん使ってください』と伝えたら、応援団幹部の“みゃ長”さんという方から連絡をいただきまして、試合に誘われたんです。人生初のJリーグ体験。試合はもちろんですけど、自分たちの歌が大勢の人たちに歌われている光景を目の当たりにして……。いやぁ、感動しましたよ!」(ペリー)


 数あるチャントの中でも、「さらば青春のパンク」は“ここぞ”というとき歌われる勝負曲になっている。


「後半45分のうち、20分くらいずっと歌ってるんですよ。休みなしで。『何回歌うんだろう!?』っていうくらい(笑)」(キャナコ)


「実際、バックドロップシンデレラの曲だと知らないで歌っている人がほとんどですし、みんな“自分たちの歌”として歌っているんですね。『俺たちのチームの大事な歌だ』と。なので、うれしいんだけど、歌が一人歩きしていってしまったような……不思議な感覚になりましたね」(ペリー)


 「ヒット曲が自分から離れていってしまう」とは、アーティストからよく聞く話だ。形は違えど、そうした感覚と同じなのだろう。だが、彼らはそこで一つの妙案に行き着いた。


「他人様のものになっているという反面で、僕らのところにもう一度引き戻したいという気持ちも芽生えたんです。じゃあ、ゴール裏で歌われている『突き進め柏』をもとに『さらば青春のパンク』をAメロから全部作り直そう、それを一緒に作詞しましょうと。そうすれば、サポーターのみなさんも“バックドロップシンデレラと作った特別な曲”だと思ってくれるのではないかと」(ペリー)


 こうして生まれた、応援団幹部“みゃ長”氏との共同作詞曲「さらば青春のパンク~突き進め柏~」は本作のボーナストラックとして収録されている。通常、チャントが音源化されることは前例がなく、お互いにとって特別な曲になったことは言うまでもない。そして、柏レイソル応援団とバックドロップシンデレラのファンが集まったミュージックビデオも制作された。

「ウチらのファンの方もサッカーに興味を持ってくれたり、そうした良い橋渡しができたんじゃないかと思います。何より僕らが楽しいです」(ペリー)


 思わぬ巡り合わせから生まれた、サッカーチームとインディーズロックバンドの絆は一つの大きな形になったのだ。


■完全DIY&完全セルフプロデュース


 本ベストは2011年リリース『シンデレラはウンザウンザを踊る』以降の楽曲から選出されている。このアルバムは「ウンザウンザ」を提唱するきっかけになった作品であり、自ら立ち上げたレーベル<NaturalAfroRecord>からの初の自主制作アルバムだ。


「最初はインディーズレーベルに所属してリリースしていたんですけど。決して大きくはないところだったので、正直歯痒さを感じることもあったり……。逆に、これなら自分たちでもできるな、自分たちならもっといろいろ出来るんじゃないかと」(ペリー)


 「とりあえず1枚だけ自分たちだけでやってみよう、それでまたいい話が来るかもしれない」そんな軽い気持ちではじめたレーベルだったが、手応えを感じることができた。やればやった分だけの結果もついてきた。それがいつしかバンド活動のモチベーションになっていく。


「2008年から2011年の間は音源を作ってない時期もあったし。ライブはやってましたけど、状況は変わらずで……。それが渉さんがバンドを引っ張っていくようになって、変わりましたね。それまではみんなが勝手に意見を言って、でも答えは出ず……といったことも多かったので」(キャナコ)


「活動するにあたって、曲づくりだけではない音楽以外の役割も必要ですよね。ライブのブッキングにはじまり、物販や機材車の管理だったり。それは得意なヤツがやっていけばいいと思うんです。他のメンバーはそこを信頼すればいい。2011年くらいに、メンバーが僕を信頼してくれるようになった。『任せます』と思ってくれたことが大きいです」(ペリー)


 もちろん、ペリーがそうした運営的な役割に向いていたところもあっただろう。バックドロップシンデレラにはマネージャーもいない。スケジュール管理も売上も活動におけるすべての管理をバンド自らが行っている。だからこそ、活動しながらノウハウを学んできたのだ。


「CDの売上枚数が倍になれば、儲けも倍になるかといえばそうではない。売上を倍にするためにはそれなりのプロモーション、先行投資が必要になってくるわけです。DIYでやっているとそういうことを身をもって知ることができる。僕自身、ライブハウスで働いていることもあって、いろんなバンドに接してますけど、みんな知らないことが多すぎる。知ろうともしていない。どこそこのフェスに出たいと口にしているバンドも多いですけど、“どうやったらそのフェスに出演できるか?”を知らないんですよ。お客さんが増えれば、人気が出れば、勝手に声が掛かってくると思ってる。そんなわけないじゃないですか。そういうことを知らないインディーズバンドが多いですね」(ペリー)


 インターネットの普及により自己表現の場が広がったと言われるようになってからだいぶ経つ。アーティストが表現する形は増え、その手段も容易になった反面でそれを世に拡めること自体は難しくなっているようにも思う。ますますセルプロデュースの方法とセンスが問われる時代になっている。実際、バックドロップシンデレラのように、個人レーベルで活動するバンドの活躍も目立つようになってきた。


「レーベル運営とバンド活動はまったく同じ感覚でやってるんです。レーベルは『これが僕らのレーベルです』と名乗った瞬間に成立するので、誰でも作れると思うんですよ。でも、それをちゃんと運営していこうと考えたら、いろんなハードルを超えなければならない。だから、業界の仕組みや、メジャーレコード会社や大手インディーズレーベルがやっていることはちゃんと勉強していかないといけないと思います。ただ、こういうことはメジャーじゃないからできないんだ、と思わないほうがいいと思う。自分たちの力だけでも、それに見合うものになっていれば何でもできるんですよ。個人レーベルだからこの程度しかできない、なんていう線引きはいらない。アイデアと実行力次第でどこまでも行ける」(ペリー)


 突出した音楽性はもちろん、突拍子もない発想力とそれをすぐに実行するフットワークの軽さも彼らの武器だ。先述の柏レイソル応援団とのコラボレーションにしても、バックドロップシンデレラだからこそ、ここまでのことができたように思う。発想とアイデアで周りを巻き添いにしていくパワーがとてつもないのだ。


「ちょうど10周年の今が、これまででいちばん規模が大きく活動できている。ドカーンと行ってるわけではないけど、ライブ会場もお客さんも常に右肩あがりで増えているのはうれしいですね。若いバンドじゃないのに(笑)」(ペリー)


 「今の時代だからできること」と「自分たちらしさ」を常に考えてきたのがバックドロップシンデレラだ。音楽を表現しながら賢く活動していく。何よりもやっている本人たちが楽しんでいる。それはDIY精神を貫く、“インディーズバンド”の本来あるべき姿なのだろう。(冬将軍)