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アンダーソン・パーク新ユニットNxWorries、今年のベスト作候補か? 小野島大による新譜8選

2016年11月14日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

NxWorries『Yes Lawd!』

 NxWorries(ノーウォーリーズ)のファースト・アルバム『Yes Lawd!』(Stones Throw)が大変素晴らしい。ドクター・ドレーのソロ・アルバム『コンプトン』(2015)に6曲フィーチャーされ、今年初頭に出したソロ・アルバム『マリブー』も素晴らしかった米西海岸出身のラッパー/ボーカリスト、アンダーソン・パークと、ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』に参加して名を上げたフィラデルフィア出身の気鋭のプロデューサー/トラックメイカーのノレッジ(KNXWLEDGE)のユニットです。マッドリブやJ・ディラを輩出した<ストーンズ・スロウ>からのリリース。


動画はこちら。


 クラシカルなソウル/ファンクやディスコ、80年代R&B、90年代ヒップホップの伝統と普遍性を感じさせ、流行りものに色目を使ったようなところは皆無なのに、きちんと今の時代のブラック・ミュージックとしてのポップネスとレイドバック感とカッティング・エッジな切っ先が見事に共存しています。ソウルフルで色気のあるアンダーソンの声と、ノレッジの作る人肌の体温と厚みのある肉感的でグルーヴィなトラックが融合したオーガニックでスポンテニアスなグルーヴは実に素晴らしい。年末の各誌ベスト・アルバムにランクインするんじゃないでしょうか。


 フライング・ロータスとも交流があるLAのビートメイカー、デイデラス(Daedelus)の新作『Labyrinths』(Magical Properties)。多作な人で、音楽性やサウンドも多岐に渡りますが、フライローのような緻密でカッティング・エッジでパラノイアックなビート・メイクというよりも、本作のようにエレガントでドリーミーでノスタルジックでアンビエントでサイケデリックな叙情性が、この人の本領だと思います。カラフルで才気に富んだ音作りはリラックスして楽しめます。


 カニエ・ウエストの新作がTIDAL先行で配信され日本ではまだ聴けなかった時、そのカニエの新作を妄想だけででっち上げ、クオリティの高さに世界中が驚いた京都出身のトラックメイカーTOYOMUがデビュー。ファーストEP『ZEKKEI』(Traffic)が、これまた驚きのレベルの高さです。自身の生まれ育った京都をテーマにしたという、優雅で叙情的ですが、きわめて現代的な切っ先の鋭さも併せ持ったアンビエント・エレクトロニカです。11月23日発売。


 広島出身の3人組スピーカー・ゲイン・ティアドロップ(speaker gain teardrop)の新作『cluster migration』(Penguinmarket Records)。もう17年ものキャリアを持つベテランで、これが8作目にあたる作品です。幽玄の境地を思わせるポスト・ロック/シューゲイザーで、モグワイやシガー・ロスに通じる圧倒的に美しく深遠な音を聴かせます。積み上げたキャリアの重みを感じさせる完成度の高さの一方で、どこか都会的な洗練を感じさせる軽やかで淡い透明感が漂うあたりがこのバンドの個性でしょうか。


 フル・アルバムとしては6年ぶりとなるワールズ・エンド・ガールフレンド(world's end girlfriend )の『LAST WALTZ』(Virgin Babylon Records)。クラシカルからエレクトロニカまで幅広く多彩な音楽性、生音と電子音をレイヤーしながら巧みに構築していく美しくドラマティックな世界はこの人ならでは。アルバムを聴き進めるにつれ、圧倒的なエモーションの奔流に飲み込まれそうになります。6年待った甲斐のある大傑作。11月26日発売。


 ロンドンのジェローム・アレキサンダーによるソロ・ユニット、メッセージ・トゥ・ベアーズ(Message To Bears)の『Carved From Tides』。デリケートな音のレイヤーが印象的なエレクトロニカ~フォークトロニカ。メロディアスなボーカルもフィーチャーされ、肩肘張らず楽しめるポップな一作です。


 元エメラルズのシンセサイザー奏者スティーヴ・ハウスチャイルド(Steve Hauschildt)の新作『Strands』。キラキラと輝く細かい粒子状の電子音がゆったりとたゆたうように舞う、コズミックでサイケデリックで幻想的なアンビエント・エレクトロニカ。もはや大きく変わりようもない唯一無二の世界ですが、やはり素晴らしい。


 最後に、発売はちょっと先ですが、相当に話題になりそうな新譜を。バッファロー・ドーターのシュガー吉永(G)と、元マーズ・ヴォルタのホアン・アルデレッテ(B)と、新世代ジャズ・ドラマーとして注目の気鋭マーク・ジュリアナ(Ds)が組んだ新バンド、ヘイロー・オービット(Halo Orbit)のファースト・アルバム『Halo Orbit』(Beat Records)。「エレクトロニックでかっこいいもの」というえらくざっくりとしたコンセプトのもと、主にLAで録音されたという全9曲(プラスボーナストラック1曲)は、これぞまさにテン年代のオルタナティヴ・ロックというべきバリバリのコンテンポラリー・ミュージック。ホアンやシュガーのルーツである80年代90年代のオルタナティヴ・ロックのエッセンスに、ジュリアナが持つテクノ/エレクトロニカ以降のエクレクティックでヴァーサタイルなセンスが融合しゾクゾクするほどかっこよくて刺激的な音楽です。3人の豊富な経験を反映して、音楽的にバラエティがあり、しかもどの曲も創意工夫に富み、アイディアも豊かで、まさしく「今の時代の音楽」らしいカッティング・エッジかつポップなアルバムに仕上がりました。ホアンとデルトロン3030を組むデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンやマニー・マーク、マーズ・ヴォルタのエイドリアン・テラサス・ゴンザレスやマルセル・ロドリゲス=ロペスなどゲストも豪華。初ライブは来年を予定しているそうですが、早く日本でも見たいですね。12月14日発売。(文=小野島大)