トップへ

でんぱ組.inc新作、音楽的スケールの大きさ 地球の裏側にまで向かうファンキーなサウンドを紐解く

2016年11月12日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

でんぱ組.inc『最Ψ最好調!』(通常盤)

■宗像明将のチャート一刀両断!


【参考:2016年10月30日~2016年11月6日のCDシングル週間ランキング(2016年11月14日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/js/w/2016-11-14/)


 2016年11月14日付の週間CDシングルランキングを1位から10位まで聴いた中で、もっとも耳に残ったのは5位のでんぱ組.inc「最Ψ最好調!」のファンキーさでした。これは黒い。曲名の読み方は「さいさいさいこうちょう」だそうです。


(関連:でんぱ組.incの真骨頂! ライブ映像作『GOGO DEMPA TOUR 2016』に見る“絶対的個性”


 先にMVを見ていたので、でんぱ組.incの歴史を組みこんだ映像のほか、メンバーがバンドに扮するシーンの印象が強く残っていました。ただし、MVでのジャズバンドのような編成(具体的には古川未鈴がドラム、相沢梨紗がトランペット、夢眠ねむがサックス、成瀬瑛美がエレキ・ギター、最上もががピアノ、藤咲彩音がウッド・ベースです)とは裏腹に、音楽的にはファンク寄りです。それに加えて、これほどラテン・ミュージックの要素が濃い楽曲がJ-POPのメンストリームにいるのもユニークだと感じました。


 冒頭のブラス・セクションとリズム・セクションの生みだすファンキーなサウンドから、20秒頃にはラップがスタート。サビのカリブっぽい感触が面白いな……と感じていると、さらに怒涛の展開が。1分30秒頃からはボサノヴァなアコースティック・ギターが響きだします。そして、そこにスティールパンの音色が加わることで、ブラジルとトリニダード・トバゴの地理性がミクスチャーされてしまいます。さらに1分47秒頃からのブラス・セクションには、キューバ音楽の感触が。


 こうして、みるみるうちにラテンアメリカの音楽絵巻が展開されていくのですが、それでも物足りないといわんばかりに、2分45秒頃からはさらにドラマティックな盛りあがりを見せていきます。どんな要素を取りこんでもJ-POPである、という軸はブレていません。


 作詞作曲編曲は浅野尚志。彼がでんぱ組.incに提供した楽曲というと「バリ3共和国」(2014年のシングル『でんぱーりーナイト』のカップリング)を思いだしますが、情報量で言えば「最Ψ最好調!」のほうが圧倒的です。


 また、でんぱ組.incの楽曲の情報量が多く、さながら高濃度圧縮の様相を呈しているのは珍しくないことですが、それがラテン・ミュージックの方向に振りきれているのは非常に面白いと感じました。歌詞には<全世界 巻き込んでゆく>というフレーズがありますが、音楽的にもまさに地球の裏側にまで向かっているのが「最Ψ最好調!」なのです。


 カップリングの「Ψです I LIKE YOU」は、Tom-H@ckが作編曲。Tom-H@ckは、清 竜人25のアレンジでも活躍しているアーティストです。全編でジャズのフィーリングを漂わせながら、ときに細かいビートを挿入してくる手腕がTom-H@ckらしいです。


 また、同じくカップリングの「待ちぼうけ銀河ステーション」もジャジーな楽曲。こちらの作編曲は三好啓太で、特にベースラインの動きが洒落ています。そして、ドリーミーなポップスとしても成立している佳曲です。


 通常盤とカセットテープ(!)の最後に収録されているのが、『ひみつのアッコちゃん』のエンディングテーマ「すきすきソング」のカバー。前山田健一の手によって、細部まで作りこまれたトラックになっています。


 『最Ψ最好調!』の収録曲は、ジャズからボサノヴァまでを、つまり地理性で言い換えればアメリカ南部からブラジルまでを包み込んでいます。実は音楽的なスケールが大きいシングルなのです。(宗像明将)