2016年11月12日 09:42 弁護士ドットコム
多摩美術大学の八王子キャンパスで開催された学園祭で11月6日、アートディレクター・佐野研二郎氏の「葬式」に見立てたパフォーマンスが実施されたことが、ネット上で物議を醸している。
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ツイッターに投稿された写真などによると、2020年東京五輪のエンブレム問題で話題になった佐野氏の肖像を持った喪服の人や袈裟を着た人などが映っていた。佐野氏は多摩美大の美術学部グラフィックデザイン学科出身で、現在は同大学の教授をつとめている。
ネット上では「不謹慎だ」という声や「センスがなさすぎる」といった批判の声もあがっているが、一方で「現代アートって、こういうものじゃないか」という寛容な意見もある。
同大学は11月11日、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「まだ調査中でお答えすることはない」と話している。他人の写真を使って「葬式」に見立てたパフォーマンスを行うことは、法的には問題ないのだろうか。秋山亘弁護士に聞いた。
「今回のようなケースは、肖像権侵害の違法性が認められるかという点がポイントになるでしょう。
参考になる最高裁の判例(2005年11月10日)を紹介しましょう。これは、写真週刊誌のカメラマンが、法廷にカメラを持ち込んで、被告人の様子を撮影し、公表したことが不法行為にあたるのではないかという点が争われた裁判でした。
最高裁は、まず『人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する』として、人の肖像に関する人格的利益の存在を認めました。
そのうえで、人の肖像の無断撮影が違法となる場合の判断基準について、次のような基準を示しました。
『被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである』」
今回のようなケースにも、基準は当てはまるのか。
「他人の肖像を本人に無断で公表したり、使用する場合においても、人の肖像に関する人格的利益の侵害が『社会生活上受忍の限度を超えるものといえるか』という基準によって、その違法性が判断されます」
今回のケースについては、どう考えればいいのか。
「本件においては、パフォーマンスとは何の関連性もない佐野氏の肖像を持った喪服の人が、佐野氏の『葬式』に見立てたパフォーマンスを行うというものです。
エンブレム問題で話題になった人物であるとは言え、パフォーマンスとエンブレム問題は何の関連性もないことです。
また、このような形で佐野氏の肖像を使用し、葬式に見立てるパフォーマンスを行うことは、他人の人格を侮辱する行為と評価されます。
そのため、『社会生活上受忍の限度を超えるもの』と判断される可能性が高いのではないかと考えられます。
したがって、本件のような形での肖像の無断使用は、肖像権を侵害するものとして、違法と判断される可能性が高いのではないかと考えられます」
アートとして認められるのではないかという意見もあるようだが、結論に影響しないのか。
「たしかに、現代アートの一環として行ったものであり、パフォーマンスをした方たちにも、佐野氏に対する悪意まではなかったと考えられます。
しかし、仮に『アート』であったとしても、他人の肖像を無断で使用した上、他人の人格を傷つけるような態様でこれを使用することは、先ほど紹介した最高裁判例の基準に照らしても、違法性が認められてもやむを得ないのではないかと考えられます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
秋山 亘(あきやま・とおる)弁護士
民事事件全般(企業法務、不動産事件、労働問題、各種損害賠償請求事件等)及び刑事事件を中心に業務を行っている。日弁連人権擁護委員会第5部会(精神的自由)委員、日弁連報道と人権に関する調査・研究特別部会員
事務所名:三羽総合法律事務所
事務所URL: http://www.akiyama-law.net/