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RIP SLYMEが“史上最長最多ツアー”に挑んだ理由 「基本はライブで生きていくっていう感じ」

2016年11月11日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

RIP SLYME

 10月6日より全国32カ所36公演となるツアー『Dance Floor Massive V』を展開中のRIP SLYME。そのツアーでは同タイトルのライブ会場限定CDが発売され、真骨頂といえるフロアチューンが満載だと、好評を博している。今回のツアーはグループ史上最も期間が長く、本数も最多。さらにライブ会場限定盤をリリースするのもグループ史上初めてのこととなる。メジャーデビューから15年を経て、初めて尽くしの試みに挑んだ背景にはどんな思いがあったのか。今回はRYO-ZとILMARIにCDとライブの両面から『Dance Floor Massive V』を語ってもらうことに。収録曲のコンセプトや、ツアーの途中経過、さらに現在のライブ観まで、じっくり話を訊いた。(猪又孝)


・「90sは一番得意なところ」(RYO-Z)


ーーまずはCDの方から話を訊いていきたいんですが、今回はライブ会場限定盤となりました。そうしたリリース形態をとった理由や、そもそもライブ会場限定盤を作ろうという発想はどんなところから生まれてきたんですか?


RYO-Z:最初の最初は、フェスで新曲を試していこうという構想があって、今年の春に曲作り合宿をしてたんです。どんどん作ってどんどん試して、ツアーに向けていこうっていう流れを考えていたのに、ボンヤリしてたら、いつの間にか夏フェスに入っちゃってて(笑)。


ーーボンヤリしないでよ(笑)。


RYO-Z:何故そう思ったかというと、今年、RHYMESTERが春フェスの『人間交差点』でいきなり新曲をドロップしたことに衝撃を受けたんですよ。ライブで新曲を試すとか、そうやってライブに打ち込んでいく姿勢がいいなと。それでライブに対応した曲を作ろうというのが初期衝動としてあったんです。


ーーこれまでRIP SLYMEはクリスマスライブでお土産をお客さんに配ったりしていますよね。そういうギフト的な感覚でライブ会場限定盤を作ったところもあるんですか?


ILMARI:それもありますね。昔、RHYMESTERのクリスマスソングのカセットはライブに行かなきゃ買えないとか、あったよね?


RYO-Z:あったあった。白カセね。


ILMARI:そういうのっていいなと思うんです。プレミアム感があるというか、ワクワク感があるというか、ライブに来た人しか手に入らないっていう。今回は先行で配信された曲があるとはいえ、CDショップやネットでは買えないわけだから。ライブに行った思い出にもなるだろうし、いいものがつくれたなと思ってます。


ーー今回の作品には全体を通して90年代ヒップホップや、それ以前のオールドスクールラップのエッセンスが感じられますが、それは当初からの目論見だったんですか?


ILMARI:今回のツアーは90s感でいこう、みたいになってたよね。


RYO-Z:そういうコンセプトがあって、楽曲を後付けしていった感じですね。ライブの構成がそうなってるから逆算的に考えて、っていう。


ーー何故ツアーのテーマが90sに?


RYO-Z:今年の『真夏のWOW』くらいから「ちょっといいよね、この方向」みたいなのがあって。あのときも、ちょっとそういうルーティンを作ったんですよ。


ILMARI:衣装もスパイク・リーが監督した『Do The Right Thing』っぽい感じにしたり。


ーー映画に出てくるピザ屋をイメージしたって言ってましたよね。


RYO-Z:そう。その辺から、徐々にそういうアイデアが膨らんできて、「じゃあ、ツアーはもっと大胆にそっちの方向に舵を切ってみる?」って。


ーー今、グループ内に原点回帰のようなモードがあったりするんですか?


RYO-Z:原点回帰というよりは、昨今、90年代のリバイバル感があるから、「今だったらできんじゃん?」っていう感じ。一番得意なところというか、思いきりリアルタイムで通ってきたところなんだから、時代的にできそうなときにやらない手はないでしょ、っていう。


ーー1曲目「Check This Out」は、どんなふうに作っていったんですか?


RYO-Z:ツアーのテーマが90sに決まって、その方向で最初に手を付けたのがこの曲だったんです。それでデモを作ってたらTimberlandからタイアップの話をもらって。当初、自分たちで付けてたタイトルは全然違ったんだけど、だったらこれをTimberlandをテーマにして書き直していこうと。で、いつものようにお題から連想ゲームをしていったら「チェケラ」っていうワードが出てきて、「じゃあ、Check This Outじゃない?」って。そんな単純なノリなんですよ。「Check This Out」はRUN DMCとかが言ってるから本当は80年代なんだけど、俺らがその言葉を覚えたのは90年代だから、まあいいでしょっていうことで(笑)。全然深く考えてないんです。


ILMARI:でも、90s縛りがあったおかげで、アイデアが出しやすかったですね。ティンバ自体90sなアイテムだし、(マイクロフォン)ペイジャーも当時リリックに入れたりしてたし。


ーーだからか、RYO-Zさんのリリックには、ペイジャーの「一方通行」のリリックを引用した一節が出てきますしね。


RYO-Z:そう。俺は単純に、自分の「Check This Out」なところを言っていくスタイル。「俺をチェックしろ!みたいなことを書いていったんです。


ーーSUさんはTimberlandを擬人化したリリックになってますね。しかも、お得意のちょっとエロティックな方向で。


RYO-Z:SUさんは、女の子が自分に倒れかかってくる、みたいなことを言いたかったんじゃないですか。俺、知らなかったんですけど、木を伐採していて、いよいよ木が倒れるから危ないぞってときに「ティンバー!」って叫ぶらしいんです。リリックに急に「ティンバー!」って出てくるから「なんで?」って聞いたら、そういう掛け声があるんだって言ってて。


ILMARI:本当かどうかわからないけどね、SUさんの言うことだから(笑)。


RYO-Z:そうね、あの人のことだから(笑)。


ーーILMARIさんはいつもと少し毛色の違う、テンション高めのフロウでラップしていますね。トラックもそこでブレイクビーツに変わるから印象的でした。


RYO-Z:イルくんは美味しいパートだよね。


ILMARI:俺のところは、最初、全然ビートが抜けてなかったんです。そしたらラップを書いたあと、FUMIYAがああいう風に変えてくれて。今回はそれぞれのラップのキャラクターにメリハリが出てるんですよ。SUさんがイントロで、PESが歌で、俺のところでブレイクして、RYO-Zくんががっつりラップっていう。


ーーそもそもMC4人の小節数がバラバラですしね。そういう構成の曲はこれまでもあったけど、そこに妙味があるなと思ったんです。こう言っちゃなんだけど、作り方が雑っていう(笑)。


RYO-Z:そう、雑なんです(笑)。でも、その雑さもヒップホップだろうということで。リリックも前の人のリリックの内容を受けず、各々勝手に書いていきましたからね。懐かしいスタイル。そこも90sっていう。


・「ユルみを加えることによって、ほほえましさが出てくる」(ILMARI)


ーー「Check This Out」は、ミュージックビデオにもちょっとした90sエッセンスが盛り込まれてますよね。たとえば、メンバーを下から煽るアングルで撮るとか。


ILMARI:あと、画像をちょっと粗くしたりとか。ソウルズ・オブ・ミスチーフの「93 'Til Infinity」とか、当時のビデオをいろいろ見直して参考にしたりして。


RYO-Z:でも、そこまで寄せてないから、パッと見は90s感がわからないと思う。ただ、よーく見ると画角がそうだとか、ティンバを履いてるとか、そういうところが90sっていう。あと、ビデオの中で手を叩いてやってるのは「斎藤さんゲーム」なんだけど、あれは現場でPESがやり始めたんですよ。なんのことがわからずやってたんだけど、あとでPESに「なんでやり始めたの?」って聞いたら、「監督が斎藤さんだったから」って(笑)。それだけの理由(笑)。だから、全部なんとなーく、なんですよ。


ーーその辺の脱力感がリップっぽいけど(笑)。


ILMARI:そう。ちょっとユルみをつけたかったんですよ。何でもやり過ぎは良くないじゃないですか。


RYO-Z:ツアーの衣装も全体的に90sなんだけど、直前にできあがって着てみたら、すげえコスプレみたいで。俺、笑っちゃったもん。90sのコスプレしてるオジサンみたいな感じなんですよ(笑)。


ILMARI:でも、そうやってユルみを加えることによって何か笑える、ほほえましさが出てくるっていう。


RYO-Z:笑えるといえば、Polo Sportsの香水ね。 


ILMARI:そう。今回のツアーは香水も90sでいってみようって言い出して。Obsession(for men/Calvin Klein)とか、ああいう甘い感じの香水でいこうよって。


RYO-Z:そしたらすげえクサイの、楽屋が(笑)。


ILMARI:そう。「クセぇな」とか「懐かしー」って言いながら盛り上がってて。今回のツアーはそういう楽しみ方もしてたりします(笑)。


ーー2曲目の「The Man (feat. CHOZEN LEE from FIRE BALL)」は、どんな経緯でできあがっていったんですか?


RYO-Z:これは冒頭の合宿のときにトラックがあって、「これはやろう」と話してたんです。そしたら自分たちでやってるラジオ番組の『SHOCK THE RADIO powered by G-SHOCK』(TOKYO FMほか)のテーマソングっていうタイアップの話が出てきて、「だったら、あのトラックが合いそうだ」と。で、番組のテーマでもある「かっこいい大人とは?」っていうのをテーマにして1曲書いてみようかっていうのが始まり。


ーーCHOZEN LEEの起用はどんな発想から?


RYO-Z:最初からFUMIYAが、トラック的にラガマフィンな感じが入ったらいいと言ってて。俺が「じゃあ、LEEくんとかどう?」って話をしてたら、あれよあれよという間にLEEくんも話に乗ってくれて。で、LEEくんに「かっこいい大人」がテーマで、特にフックをラガマフィンっぽくしたいんだって伝えたら、結果、フックをLEEくんが書く流れになっていったんですよ。で、レコーディング現場でも、イントロとかブレイク明けのところもLEEくんにやってもらいたいなぁなんて言ってたら、ササッとやってくれちゃうもんだから。まるでLEEくんの曲みたいになっちゃったっていう(笑)。


ーーリリックは具体的にどんなイメージで書いていったんですか?


ILMARI:俺はたまたまそのとき岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て』っていう本を読んでて。PESに「これ、知ってる?」って聞いたら「そんなの基本だよ」って言われたんですよ。で、「あぁ、そうなんだ」と。じゃあ、岡本さんもかっこいい男だし、The Manだなと思って、そこからヒントをもらって書いたんです。


RYO-Z:俺は自分の生活圏内にあることを書こうと。バーとか行くし、そこでシガーをくゆらすとか、スコッチみたいな酒を飲んでる人とかは大人なイメージがあるなと。あと、とにかくスマートに帰る人。そんなダラダラしない。飲んでてもサッときれいに帰る人は、かっこいい大人だなと思って、連想したものを挙げていったんです。


ーーそういう男性には憧れる?


RYO-Z:憧れというか、もはや俺がそれって感じですけどね。シガーもたまにやるし、ハードリカーも飲むし、サッと2杯くらいで帰る、みたいな。


ILMARI:俺は別に岡本太郎さんみたいになりたいかって言ったら、そんなこと考えたことないですけどね(笑)。


ーー「In The House」は、自己紹介ソングですね。


RYO-Z:今回はツアーで初めてのところにいっぱい行くから、そういった意味でも「In The House」と言って自己紹介するのがいいなと思って。これもデモは早かったんです。去年アルバム『10』を作ってるときに「こういうのもあるよ」ってFUMIYAから提案されて、「いいね、これ。やりたいねー」って言ってた。


ーーヒップホップ × ガレージロックのようなサウンドで、イントロには60年代ビーチボーイズ的なハーモニーが入っているから、決してトラックは90s趣味じゃないですよね。というか、今回の3曲は全部そう。トラックに90sテイストはない。


ILMARI:そうなんです。でも、テーマとかタイトルが90sっていう。


ーーにしても、イマドキ、「In The House」なんて言わないよね(笑)。


RYO-Z:言わない、言わない(笑)。けど、だから、そこがいいんですよ。


・「徐々に徐々に成熟してきた」(RYO-Z)


ーーここからは『Dance Floor Massive V』ツアーの話を。何本か終えてみて、今回のツアーはどうですか?


RYO-Z:楽しいッスね。しかも1日目から「あ、できてるな」って手応えがあって。わりとDFMシリーズは仕上がりが早いんですけど、今回はもう仕上がっちゃってるんですよ。


ILMARI:俺も楽しいです。今年は、年明けは去年から続いてたホールツアーをやって、春フェス、ファンイベント……で、夏フェスをがっつり回って、今回のツアーなんです。そうやっていろんなカタチのライブができてて、今年はライブ自体が楽しいんですよね。


ーーそれだけステージをやってきてるぶん、仕上がりが早かったところもあるのかな。


RYO-Z:あるかも。ライブ感みたいなところはあっただろうから。


ILMARI:あと、そうやってライブ慣れしてるからか、毎回やってる曲は変わらないけど、自分たちで空気を変えられるっていうか。目の前の人たちと自分たちだけで空気を作れている感じがあって、すごく楽しいんです。曲順もFUMIYAとSUさんで考えたんだけど、よくできてるし。


RYO-Z:あと、今回のDFMは、これまでの中でいちばんシンプル。今までは演出が入ってたんですよ。たとえば前回は半透明の幕があって、オープニングでそれを使った仕掛けがあったりとか。でも、DFMって、会場をダンスフロアにしたいとか、自分たちのクラブミュージック/ダンスミュージック的な側面を濃いめに出すっていうのが根幹にあって。尚且つ、小さな会場だったら音も含め、隅々まで自分たちの環境を整えられるからそれを楽しみに来てくれっていうのがある。そういうコンセプトの根幹にそぐうものを今回の「V」でやれてる印象はありますね。


ーー最初に自分たちでイメージしたDFMの姿をやれてると。


RYO-Z:そうかもしれないです。


ーーDFMシリーズを立ち上げて10年以上になりますが、その間、RIP SLYMEはDFMツアー、アルバムツアー、クリスマスライブ、フェスという4本軸でライブを行ってきました。それぞれのツアー/ライブに対して、今、どう考えていますか?


ILMARI:選曲や見せ方の違いは、最近、より明確になってるかも。フェスはお祭りだから、リップを知らないお客さんでも聴いたことがありそうな曲をやって、みんなで楽しむ感じ。DFMは純粋に自分たちがやりたいライブっていう。


RYO-Z:で、ホールツアーはもっとエンタテインメントを考える。照明も含めて演出を考えて、来た人全員が全角度から同じように楽しめるようにっていう。


ILMARI:クリスマスライブは毎回違うアプローチをしてるからね。昔は子供限定とか男性限定とかやったし、去年はクリスマスに「夏」をやったし。


RYO-Z:『真夏のクリスマス』ね。


ILMARI:だから、コンセプチュアルなんですよね。今年はクリスマスライブを初めてツアーでやるから、それもそれで楽しみだし。


RYO-Z:『DFM V』とはまったく違うものをやるから、いい気分転換にもなりそうだしね。


ーーそうやって4本軸のライブを繰り返してきて、ライブに向き合う気持ちに変化はありますか?


RYO-Z:落ち着いてできるようになったかな。それまでは、ただテンション上げてステージに出てウワーッとなってやってた気がするんだけど、前回の『10』のツアーくらいから、徐々に徐々に成熟じゃないけど、落ち着いてステージをやれるようになってきたような気がします。


ILMARI:いい意味で余裕がでてきたかも。特に今回は規模感もあるけど、自分たちでいろいろ決めてやれてるし。


ーー最後に、2人にとって「ライブ」とは?


RYO-Z:ライブとは、生活かな。これから先、レコーディングをやらないっていう時期があったとしても、ライブをやらないっていう時期はたぶんないと思うんです。基本はライブで生きていくっていう感じになっていくと思うから、生活の一部というか、もう生活そのものじゃないかなって。


ILMARI:ライブは生ものですね。やっぱりそのときのバイブスがそのまま出るから。でも、そのコントロールがようやくできるようになってきた感じがあるし、悪い言い方かもしれないけど、別にどう見られてもいいやっていうのがあるんです。年も年だから、別にかっこいいと思ってもらわなくていいっていうか(笑)。


RYO-Z:あはは。それはモテキャラ担当のイルくんとしては大胆発言じゃない?(笑)


ILMARI:だからといって、かっこ悪くしようとは思わないよ(笑)。だけど、それだけ自分をさらけ出せるようになってきたというか。「今日ILMARIかっこよかったなぁ」とか思ってもらわなくても、全体を見てもらって「今日はリップのライブに行って、いい日だったなぁ」っていうふうになってくれたら嬉しいなと。お客さんが楽しんでもらうために何かできればいいなって思うし、そのために自分が自然体でいることは全然OKっていう。今はそうやって気負わずライブをやれるようになってきた。そういう変化があるんですよね。(取材・文=猪又孝)