2016年11月10日 10:32 弁護士ドットコム
厚労省主催の「過労死等防止対策推進シンポジウム」が11月9日、東京都内であり、過労死で家族を亡くした遺族4人が「すべての人に『働くことの意味』を考える責任がある」などと思いを語った。
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宮城県の前川珠子さんは2012年、仙台にある大学の准教授だった夫(当時48歳)を過労自殺で亡くした。家族を大切にしながらも、「仕事が命」という夫だったそうだ。
前川さんによると、夫は准教授ながら研究室を構えていたが、東日本大震災で全壊。任期の終わりを数年後に控え、「研究室の存続の勝負をかけたところ」だった。夫は日常の激務をこなしながら、研究室の立て直しにも全力をあげた。
しかし、ようやく研究再開のめどがたったところで、大学は夫に実質的な解雇を予告したという。過労の極致にあった夫は精神のバランスを崩し、その数日後に亡くなった。労災はその年のうちに認められた。
前川さんは、「働くことの意味」をすべての人に考えて欲しいと訴える。
「私は思いたい。私たちの家族は無駄死にではなかったと。彼らはその命を賭けて『働くことの意味』を、日本で生きるすべての人に問うているのだと。その問いに答えるのが残された私たちの、そして日本で生きるために働くすべての人の責任です。
想像してみてください。ある日、あなたに電話がかかってきて、昨日まで元気だったあなたの親御さんが、ご兄弟が、配偶者が、愛する子どもが、突然命を断ったと知らされるところを。それが私たち遺族に起こったことです」
働くことの意味、その問いに答えられなければ、「次はあなたの大事な人が突然死んでしまうかもしれない。次はもしかして、あなた自身かもしれない」。前川さんは警鐘を鳴らす。
昨年亡くなった電通新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)の母・幸美さんも「命より大切な仕事はありません」などと訴えた。
まつりさんは昨年12月、「大好きで、大切な母さん、さようなら、ありがとう、人生も仕事もすべても辛いです。お母さん自分を責めないでね。最高のお母さんだから」というメールを残し、社員寮から身を投じた。
幸美さんは、「自分の命よりも大切な愛する娘を突然亡くしてしまった悲しみと絶望は、失った者にしかわかりません。だから、同じことが繰り返されるのです」と涙ながらに語り、「根本からパワハラを許さない企業風土と業務の改善をしてもらいたいと思います」と訴えた。
このほか、2009年に経理の仕事をしていた長男(当時35歳)を亡くした茨城県の岩田徳昭さんは、息子が毎日午前0時ごろまで働き、帰宅できない日は車の中で仮眠を取っていたというエピソードを明かし、「是が非でも(退勤から出勤まで一定の休息時間を保証する)インターバル規制の立法化が望まれます」とスピーチ。
2010年に老人福祉施設で働いていた夫(当時49歳)を亡くした、大阪過労死家族の会の小池江利さんは、「一番の犠牲者は夫自身です。余暇を楽しみ充実した人生を送るはずでした。働き方により、大事な自分の人生を奪われた夫の無念を想像します」と言って声をつまらせた。