2016年11月10日 10:12 弁護士ドットコム
コンビニで白昼堂々とドリンクを万引きした外国人から事情を聞くと、商品名に「FREE」の文字が入っていたことが理由だったーー。そんな体験を報告するツイートが話題となった。
【関連記事:47歳男性。妻と「10年間セックスレス」で気が狂いそう――望めば「離婚」できる?】
投稿者は、コンビニで外国人がドリンクを万引きしたとして、店員と口論になっている場面に遭遇。「何がいけないんだ」と外国人が言っているので、理由を聞くと、盗んだとされるドリンクのパッケージには大きく「FREE Tea」の文字。「FREE=タダ」だと考えてしまったというのだ。
投稿者は、「彼もコンビニも悪くない。悪いのはデザインだ」と述べているが、コンビニの棚に陳列された商品をタダだと勘違いして持ち去った場合、窃盗罪などの罪に問われる可能性はあるのか。刑事事件に詳しい徳永博久弁護士に聞いた。
「本件で問題となっている外国人は、商品名の一部である『FREE』という表記を見て『無料=持ち去り可能な商品』であると考えたようです。
仮に、そのような事実誤認が真実であった場合には、『他人の財物ではあるが、持ち去って構わないという承諾があった』という点に関して錯誤があることになります。
こうした錯誤は、刑法上は『(所有権者の)承諾行為』という違法性阻却事由の有無に関する錯誤となり、講学上の用語では『事実の錯誤』に該当します。
なお、考え方によっては、そもそも『(持ち去り自由の商品は)他人の財物ではない』という犯罪の構成要件に関する錯誤になるとも言えますが、その場合でもやはり『事実の錯誤』に該当するという点では同じです。
事実の錯誤があった場合、罪を犯す意思である『故意』がないとして、犯罪が不成立となる余地があります。
他方、本件とは異なるケースとして、事実の認識に関する誤認はなく、単に『他人の物を持ち去っても犯罪にはならないと思った』という誤った法的判断に基づいて持ち去り行為を行った場合は、講学上の用語では『法律の錯誤』に該当し、犯罪が成立することになります。
これは、『法の不知はこれを許さず』という理念に基づくものであり、刑法38条3項に明文の規定があります」
今回のようなケースで、無罪となる可能性があるということだろうか。
「理論上は『事実の錯誤』として、犯罪が成立しない余地がありますが、結論としては窃盗罪が成立する可能性が高いと思われます。
仮に裁判で事実の錯誤が存在したかどうかが争点となった場合、裁判官による事実認定のレベルで『事実の錯誤ではない』と認定される可能性が高いからです。
外国人に持ち去られたこの商品は、(1)ペットボトル自体に『FREE Tea』という、商品名であると容易に推察できる大きさ・配置の文字表記があり、かつ、(2)コンビニエンスストア内の通常の販売商品の陳列棚の中に配列されています。さらに、(3)商品陳列箇所のすぐ下に『¥130』という日本円での金額札まで付してあります。
こうした状況では、そもそもこの商品について『他人の財物ではあるが、持ち去って構わないという承諾があった』と考えたという『事実の錯誤』が本当に存在したと考えるのは不自然だと思われます。
そのため、事実認定のレベルにおいては、『無料の商品であるという誤認はなかった』=『事実の錯誤ではない』という認定を受ける可能性が高いでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
德永 博久(とくなが・ひろひさ)弁護士
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。訴訟では「無敗の弁護士」との異名で呼ばれることもあり、広く全国から相談・依頼を受けている。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/