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LC500の開発に新たな試み。富士で見えたスーパーGT2017年型車両の進捗状況

2016年11月09日 06:41  AUTOSPORT web

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開発を担うTRDとチームエンジニアがより密接に開発/検証を行うLC500
スーパーGT2017年のGT500新型車両テストが3回目を終えた。今季型からダウンフォースを25パーセント減らす方向で空力デザインを規定した2017年型だが、そのドライビングの特徴、そしてクルマの開発状況を現場の担当者、ドライバーに聞いた。

 今季型と大きくダウンフォース量が変わる2017年型車両。当然、グリップレベルは下がる傾向になり、タイムも落ちる方向になる。ドライバーとしては、今季型とは違ったクルマの走らせ方となる。

「ダウンフォースがすごく減っているのが乗っていて感じます。ブレーキングでもクルマが今季型より止まらないし、体にかかる負担が少ない。もちろん、まだ2017年型のクルマの開発が始まったばかりだけど、2016年型のようにはグリップしないので、今後の開発でできるだけ2016年車に近づけるようにいろいろ進めたい」と、2017年車両の特徴を話す、ニスモのロニー・クインタレッリ。

 来年のGT500は、この富士が大きなポイントになることが予想される。富士仕様と呼ばれる富士限定のロードラッグ仕様の空力パーツが来年からは使用できなり、鈴鹿、オートポリスでも使用したハイダウンフォース仕様と同じ空力で富士も走らなければならないのだ。この富士のテストでは、さぞ、今までと比べて違和感があるだろうと推測した……が、実際には感触は大きく異なっていたようだ。LC500の開発車をドライブする石浦宏明が解説する。

「もともと2017年型車はダウンフォースが削られてドラッグも減っているので、最初から富士仕様のエアロに近い感触でした。それで実際に富士を走ってみたら、違和感がなく、いつもの富士と同じ感覚で走れました。2016年型よりも2017年型の方がフロントのダウンフォースが多い感触なので、今の作業としてはダウンフォースを減らした方が富士では速く走れるのか、むしろ、もっとダウンフォースを付けた方がいいのか。そのダウンフォースに合わせた足回りのセットなどを探っています」

 この2017年型車両のレクサス陣営で興味深いのが、開発テストの現場エンジニアをトムスの東條力氏が担当している点だ。今までのTRDの開発車両はTRDスタッフが現場エンジニアを担当し、チームのエンジニアは現場に同行してその様子を見守るという形だった。今回のTRDとチーム側の役割分担の狙いについて、TRDで主にエンジン開発を担当する佐々木孝博エンジニアが話す。

「クルマの開発はTRDが行っていますが、現場のオペレーションを今回、東條エンジニアにお願いしています。我々だと、どうしても作ったパーツのデータ取りがメインになる。現状のタイヤの状況などは把握していますが、タイヤを変えるタイミングや実戦で走らせながらセットアップを組み立てていく作業、限られた時間の中でセットアップの方向性を探っていく作業というのがどうしても我々は弱い部分がある。開幕までの時間を考えて効率よく開発とセットアップを進めるために、我々が用意しているいろいろなアイテム、開発のメニューを、実際のランプランにどう落とし込んでいくかの作業を東條エンジニアをはじめとしたチームのエンジニアにお願いしています」

 振り返ればこの3年、ニッサンGT-Rが圧倒的な強さを見せたのには、この事前の開発スタイルに要因があると考えられる。マシンの開発を行うニスモは、そのまま自チームで実戦を想定したセットアップを効率的に進めることができる。ここ数年、レース現場でニッサン陣営がタイヤの選択を外すことはあっても、持ち込みのセットアップで苦労している姿は他メーカーよりも少なかったように思う。テストが限られている現状を考えれば、ニスモの強さの秘密のひとつに、開発チームとレースチームがワンパックで作業を行っていることが挙げられる。そのレース屋としてのスタイルを、レクサス陣営でも2017年型から採用しはじめたと考えていいだろう。石浦も、現場エンジニアが担当する利点を話す。

「今回の開発テストはとにかく準備をたくさんしておこうと。開発担当のエンジニアが東條さんなので、実践でチームのエンジニアがどんな部分に興味をもって作業を進めるのか、ここを変えたらどうなるのか、興味があるところを全部、触っていって、悪くなると予想されるセットアップも敢えて試すことができている。その中でどこが本当に悪いのかといった検証作業をひたすら繰り返しています」

「ダウンフォースを付けるチームと減らすチーム、これからはチームごとのセットアップになっていくんですけど、それぞれにあったセットアップを今から用意しておけば、デリバリーを受けたチーム側も、すぐに速いタイムで走り出せる。富士のセットアップは『このあたり』というのが事前にわかるし、セットアップとの相関がわかれば空力担当の方も、レベルの高い部分でパーツの準備や開発を行える」。石浦も現在の開発スタイルに手応えを感じているようだ。

 レクサス陣営としては、この3年間、ホームの富士で勝ち星がない。この3年間の富士の6戦でGT-Rが5勝を挙げて富士での覇権を制している。「来年は、LC500でその覇権を奪還します」と力強く宣言するTRD佐々木エンジニア。「この富士での明るい兆しは見えました。いい感触はあります」と、来季の巻き返しを宣言した。

 一方、現行規定で圧倒的な強さを見せるニッサンGT-R。今季で3連覇を達成するかという強さを支えているひとつには、間違いなく、この富士でのロードラッグ仕様の圧倒的なパフォーマンスが挙げられる。来季はそのロードラッグ仕様の空力が使えなくなるが、GT-Rのアドバンテージは保てるのだろうか。2017年型GT-Rの車両開発を兼任するニスモの鈴木豊監督が答える。

「今回の富士では前回のオートポリスから若干、クルマを変えています。最初は合わせ込みに時間がかかって戸惑いもありましたけど、順調に進めることができました。初日の走行ではフロアを擦ることもありましたが、いろいろアイテムを試して大きくセットアップを振って、その効果、方向性も見えて有意義なテストになりました。(この富士での強さは)なんとかキープしたいですね。今までの富士仕様がなくなって、そこに2017年車両のセットアップを合わせ込んで、さらに他のサーキットでも適用できるようなバランス感が難しいところです」と、来季型マシンの開発のポイントを語った鈴木監督。

 現行規定のこの3年間を実質、圧倒的なパフォーマンスで支配したGT-R。新規定となる2017年型車両で、ライバルメーカーがどう立ち向かうのか。クルマの開発だけでなく、開発の進め方にも新しい試みが見えている。