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ももクロ百田夏菜子、女優としても開花! 『べっぴんさん』4人娘、それぞれの魅力

2016年11月09日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『べっぴんさん』公式サイトより

 連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『べっぴんさん』(NHK)が面白くなってきた。本作は戦後の神戸を舞台に主人公の坂東すみれ(芳根京子)が子供服専門店を立ち上げる話なのだが、4週目に入り、すみれが小澤良子(百田夏菜子)と村田君枝(土村芳)という女学校時代の友人と、かつてすみれの家に仕えていた女中の娘・小野明美(谷村美月)が再び登場。彼女たち4人の関係が実に面白く、演じている女優たちの魅力もみるみる開花し始めている。


参考:『べっぴんさん』の見どころは“芳根京子”だ! 類稀なる女優の才はどこまで磨かれる?


 まずは、何といっても主人公の坂東すみれを演じている芳根京子が素晴らしい。芳根は出世作となった『表参道高校合唱部!』(TBS系)で、変わった性格だが明るく前向きな女の子という朝ドラヒロインのような役をすでに演じていた。そのため、朝ドラでヒロインを演じると知った時は、納得のキャスティングだと思うと同時に、二番煎じになるのではないかと心配した。


 しかしいざ、本作が始まってみると、朝ドラヒロイン的な明るくて行動力がある女性の役は蓮沸美沙子が演じている姉のゆりに託されており、芳根が演じるすみれは、既存の朝ドラヒロイン像とは真逆の、内向的でおとなしい性格の女の子となっていた。しかも、はじまってすぐに子持ちの母親になってしまうのだから、二重の驚きである。


 すみれは、お嬢さん育ちで世間知らずだが、同時に食べていくためにお店を開こうというバイタリティを秘めている。見た目も子供を育てる母親でありながら、か弱い少女のようで、一人の人間の中で矛盾した要素がぶつかりあっている難しい役柄である。


 すみれというキャラクターが一人の人間として成立しているのは、様々な思いを内側に抱えて黙々と行動するからなのだが、台詞よりも行動や表情で見せる場面が多い難易度の高い役を、芳根は見事に演じており、改めて表現力の高さに驚かされている。


 百田夏菜子は、言わずと知れたアイドルグループ・ももいろクローバーZのリーダーだが、彼女が演じる小澤美子は世間知らずだが手芸が得意なお嬢さん育ちの母親。一人で店番をしている時にお客さんと揉めて仕事を辞めてしまうのだが、その時に「旦那に辞めろと言われた」と嘘をつく。まるで高校生がバイトを辞める時の言い訳みたいだが、良子は普通の人間の中にある弱さとズルさを抱えていて、一番ふつうの女の子である。


 だからこそとても難しい役なのだが、百田は見事に演じている。おそらく昨年、主演を務めた映画『幕が上がる』で、撮影に入る前に劇作家の平田オリザのワークショップに参加したことが生きているのだろう。演技に過剰なところがなくて、本作の世界に綺麗に溶け込んでいる。役者の力量は脇役を演じた時に明らかになるものだ。下手な女優ほど悪目立ちしてしまうものだが、彼女に関してはそういった違和感が全くない。おそらく、アイドルとしての彼女を知っている人ほど驚くのではないかと思う。


 土村芳が演じる病弱の母親・村田君枝は複雑なキャラクターだ。正義感が強く女学校時代は、戦争に違和感を表明する同級生に反発していた。普通の朝ドラならヒロインの側が戦争に対する違和感を表明するのだが、それが見事に反転している。おそらく病弱で足手まといに思われたくないが故の愛国的振る舞いだったのだろうが、だからこそ彼女は敗戦の傷を誰よりも引きずっている。


 土村芳は、宮崎あおいや田部未華子が所属するヒラタオフィス出身で、現在公開中の映画『何者』にも出演している。女優としての出演作は少なくキャリアは浅いが、京都造形芸術大学の俳優コースで演技の勉強をしており、在学中に舞台や映画にも出演している。本作では、弱々しくも包容力のある芝居を見せており、おそらく『べっぴんさん』が終わる頃には、吉岡里帆や相楽樹のような“朝ドラで見つかった女優”として注目されるのだろう。


 そして小野明美を演じる谷村美月は、子役時代から数々の映画やドラマに出演している実力派の女優で、朝ドラにも『まんてん』(NHK)に12歳の時に出演している。引っ込み思案で夢見がちの三人に対して、明美の考え方は現実的で、すみれたちに毎回辛辣なことを言うのだが、この辺り女優としての経験値の違いがそのまま役に反映されているように見える。おそらく現場でも、演技経験が少ない3人を谷村がリードしているのではないかと思う。


 そんな4人がお互いに距離を測りながら、静かにぶつかり合う中で、少しずつ信頼関係が芽生えはじめているのが面白い。


 『べっぴんさん』は不思議な朝ドラで、あらすじだけ見ていると、過去作のパッチワークでできた凡庸な作品に見える。しかし、最初の一か月で時間を一気に進めたり、台詞に頼らない心理描写が多かったりと、大胆に冒険している場面が多い。すみれたち4人の関係はその最たるもので、4人の内3人が内向的であまりコミュニケーションが得意ではないというのは、めずらしいパターンである。だからこそ、類型的な朝ドラに収まらない意欲作となるのではないかと期待している。(成馬零一)